【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

文字の大きさ
126 / 154
冬磨編

54 最終話 天音の家へ 3

 しばらくして、Tシャツにジャージのハーフパンツ姿でお父さんがリビングに戻ってきた。

「すまん、待たせたね」
「父さん……冬磨の前で部屋着って……」

 天音があきれた顔でため息をつく。

「俺だけじゃないぞ?」
「え……まさか母さんも?」
「いや、お前たちだよ」

 ほい、と渡されたジャージに思わずポカンとなった。

「え……」

 俺と天音にそれぞれ渡されたワンセット。ジャージの上下にTシャツとハーフパンツ。
 え、着替えろってことか?
 天音も俺に困惑顔を見せる。

「冬磨くんのサイズはうちには無いから用意しておいた。せっかくだからみんなでおそろいだ」
「あ、だから身長聞いたんだ……って、そうじゃなくて、何これ父さん……」
「何って、ただの部屋着だよ。スーツじゃ窮屈だろう? 楽な格好でゆっくり飲もう。どうせ泊まるんだから着替えちゃえ?」
「へ? いや、泊まらないよ。もう少ししたら帰るって」
「何言ってる。飲んだら帰れないだろ」
「なに……飲まないってば」
「そんな冷たいこと言うなよ。もう宴会の準備も万端なのに」
「あいさつだけで帰るって伝えてあったでしょ?」
「ただの遠慮じゃなかったのか?」

 天音は諦めたように、ふぅ、と息をついた。

「……わかった。宴会はいいけど飲まないよ?」
「酒しかないぞ?」
「え……ノンアル無いの?」
「そんなものは無い」
「ええ?」

 笑顔で即答するお父さんに思わず笑ってしまった。
 さっきまで、お父さんのイメージがちょっと違うな、と実は思っていた。いつもちゃんとしてる天音からはイメージ通りのお父さんだったが、天音から聞いていたイメージとはちょっと違った。
 でも、今目の前にいるのは、思い描いていた通りの陽気なお父さんだ。
 お母さんが料理を食卓テーブルに並べながら「あれ? 泊まっていかないの?」と聞いてくる。

「泊まらないよ、帰るよ。明日も用事あるもん」

 天音はそう言ったが、明日は何も用事はないはずだった。
 きっと、俺が気疲れすると心配しているんだろう。

「そっかぁ。じゃあちょっと買ってくるかな。ノンアルのビールでいい? ジュースも買ってくる?」
「ううん、俺が買ってくる」
 
 立ち上がろうとする天音を俺は止めた。

「あの、お言葉に甘えて泊まってもいいですか?」
「えっ、冬磨?」

 天音が俺の腕を掴んで心配そうな顔を向けた。

「もちろん泊まっていって。我が家で宅飲みするときはみんな泊まるコースだから、もう準備もしてあるの」

 その言葉から、よく人が集まるにぎやかな家だと分かる。

「冬磨、無理しなくていいよ? ノンアル買ってくるよ。コンビニすぐそこだし」
「いや、なんか飲みたくなった。明日の朝帰れば用事は間に合うだろ?」

 一応天音に合わせてそう聞くと「間に、合う、けど……」とたどたどしく答えるから口元がゆるんで仕方ない。かわい……。

「お言葉に甘えてゆっくりしよう。俺、家族でわいわいする雰囲気って懐かしくてさ。ちょっと嬉しいんだ」
「冬磨……」

 心配そうに瞳をゆらす天音に「ほんとに、嬉しいんだ」と重ねて伝えた。
 まだ信じてなさそうな天音の頭をくしゃっと撫でると、ホッとしたように息をついて「うん、じゃあ泊まってく?」と笑顔になった。

「天音の部屋で着替えておいで。イチャイチャしてないですぐ来いよ?」

 ニヤッと笑うお父さんに、「し、しな……っ」と言いかけて止まった天音が頬をピンクに染める。

「すぐ来ればいいんでしょ。イチャイチャは父さんに関係ないじゃん。冬磨行こ」

 と反抗的に言い返し、俺の手を取って引っ張った。

「え、あ、すぐ戻ります」

 慌てて伝えた俺の言葉は、笑い転げてるお父さんたちにはたぶん聞こえなかったに違いない。

 おそろいのTシャツとハーフパンツに着替えてリビングに戻ると、食卓テーブルいっぱいにご馳走が並んで準備万端だった。
 
「お、来た来た。早く座って。乾杯だ乾杯っ」

 お父さんが俺たちの背中を押して椅子に座らせ、グラスにビールを注ぐ。
 お母さん以外おそろいのTシャツとハーフパンツという、なんとも奇妙なラフすぎる格好でグラスを手に持った。
 
「それではっ。天音と冬磨くんの結婚を祝ってっ。乾杯!」

 お父さんの乾杯の音頭に二人で顔を見合わせた。

「ま、まだこれからだよ……父さん気が早すぎ……っ」
「いいだろ? もうするって決まってるんだし。ほらほら、乾杯!」
「か、乾杯」

 グラスを合わせる音が響く中、俺たちは照れくささに苦笑する。お父さんの早まった乾杯に戸惑いつつも、心の中に幸福感が広がった。

「二人とも顔真っ赤で可愛い。幸せっていいねぇ、お父さん」
「本当だなぁ。今日は最高にビールが美味いよ」

 笑顔でご機嫌な天音の両親に心が温かくなった。
 初対面でも自然に家族の輪に入れてくれる優しさ。
 スーツを脱いだことで、さらにそう感じる。
 楽しく過ごそうとしてくれる二人の優しい思いやりに、ふっと肩の力が抜けた。

「ツッコまれなかったね?」

 天音が拍子抜けしたように耳打ちしてきて、思わず吹き出した。
 天音の部屋でジャージに着替えたとき、「ねぇ冬磨。着替えて戻ったらさ。どうせイチャイチャしてきただろってツッコまれるんだしさ……」とごにょごにょ言い出して、「なら……しよ?」と可愛く誘ってくるから、さすがの俺も慌てた。
『しよ』って何? どこまでっ?

「ね、キス……しよ?」

 キスかよっ! ビビるだろっ!
 あーもう、ほんと可愛い。どうしてくれようか……まったく。
 結果、天音のとろけた顔が落ち着くまで多少時間がかかったのは言うまでもない。
 
感想 172

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。