【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

文字の大きさ
145 / 154
番外編

ぶどう狩り◆モブ視点◆ 1

しおりを挟む
皆さま、お久しぶりですꕤ︎︎
前回の更新から、もう半年も経つんですね……(> <。)
連載が完結したので、久しぶりにこちらの番外編を書いてみましたꕤ︎︎
もっとサクッと書くつもりが、なぜかとても長くなり……全四話です……(> <。)ナゼ- しかもモブ視点なんですが……汗
どうか皆さまに楽しんでいただけますように……ꕤ︎︎

(読者様リクエスト……社員旅行、果物狩り、ありがとうございました! )

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 私の勤める会社には、めちゃくちゃ美形な上司がいる。
 今、その上司の隣に、めちゃくちゃ可愛い男の人がふわふわと笑っていた。
 今日は会社の行事でぶどう狩りに行く。家族も参加OKのため、子供連れも多い。
 美形の上司、小田切主任は、家族であるめちゃくちゃ可愛い男の人、天音くんを連れて参加する。
 主任を見上げてふわふわニコニコと笑う天音くん。

 なんですか、あの可愛い生き物は……!
 そんな天音くんを見つめて砂糖菓子のように甘くなってる主任も……!
 二人とも可愛すぎるんですが……?!
 

 
「ぶどう狩りかぁ。誰か行く? 私は今年もパスかなぁ」
 
 そんなことを言っていた先輩は、小田切主任の参加を知ると声高に「参加します!」と宣言した。
 私はそれでも重い腰が上がらなかったけれど、小田切主任が結婚相手を連れてくると聞いて迷わず参加を決めた。

 小田切主任はゲイである。
 この会社に入社してまず驚いたのは、こんなに自然にゲイを受け入れてくれる人たちがいるのか! ということと、こんなに皆から愛されるゲイが現実に存在するのか! ということだった。
 私は完全なる腐女子だ。漫画も小説もドラマも、暇さえあれば読み漁り、徹夜で鑑賞するほどである。それゆえ、関心があるだけに痛いほど知っている。世の中がこれほどゲイに甘くはないという現実を。
 だから、こんなにゲイに優しい世界が本当に存在するんだと知って、雷に打たれたような衝撃を受けた。
 この会社に入れたこと、この会社にエントリーしたこと、何よりこの会社を見つけられた奇跡に心から感謝した。
 そして先日、小田切主任が養子縁組という事実上の結婚をしたと聞いた瞬間、まるで目の前に花火が打ち上げられたかのような感動を覚えた。
 思わず「これで日本の未来は輝いている!」と叫びたくなるほどだった。
 


 私は、小田切主任と天音くんをガン見した。
 二人がバスに乗り込む時が勝負だ。絶対に近くの席に座りたい!
 周りには、同じようにすでに戦闘態勢に入っている同類、あらため敵が大勢いた。
 でも、敵とはいえ、これだけ主任と天音くんを好意的に見てくれるこの会社の人たちが、私は大好きだ。
 主任が結婚指輪をつけてきた日の社内のお祝いムードは、本当に心温かくて涙がにじんだ。
 
「こんなに参加者の多いぶどう狩りなんて初めて見たわ……」

 先輩がしみじみとつぶやく。

「そうなんですね……」

 入社二年目の私。行事初参加ですみません。

 少しすると、バスが二台、ビルの駐車場に到着した。
 えっ! 嘘でしょ?! 一台じゃないの?!
 こんなに大人数なんだからそりゃそうかーー!!
 そう思ったのはたぶん敵も同じ。なんとか同じバスに乗りたいと、皆が主任と天音くんに、ジリジリとにじり寄っていく。

「はーい、じゃあ並んで順番に乗り込んでくださーい」

 幹事の言葉にまず動き出したのは、子供連れの家族。主任と天音くんはまだ動かない。必然的に、多くの女性が動かない。

「みんな早く乗ってー! 一号車まだ乗れるよー!」

 その声に主任が反応した。

「行くか、天音」
「うんっ」

 よし今だ! 
 私は主任の後ろにつこうと足を踏み出した。
 しかし敵が多すぎる! どうしよう、無理かもしれない……! 
 あきらめかけたその時、先輩が私の腕を引っ張り勢いよく走った。

「えっ?!」
「行くわよっ!」

 そう言って先輩は、主任の前の空いているスペースに出た。
 そして、二人よりも先にバスに乗り込む。
 主任は?! 天音くんは?! 
 慌てて振り返ると、主任に背を押されるように天音くんがバスに乗ってくる。
 先輩!! ナイスです!!
 奥から順に詰めて座ったバスの空席は、前列の左右にそれぞれ二席ずつ、合計四席だけだった。私と先輩、主任と天音くんで定員オーバーだ。

「残りのみんなは二号車ね~」
「えええーーー!!」

 外から敵の嘆く声が聞こえてくる。
 これはすごい。バスの中には敵が一人もいない。なんて最高なの!

 興奮が抑えきれずに震える声で、しかし必死に小声を保って先輩に伝えた。

「先輩! さすがです!」

 先輩が親指を立ててウインクをする。

 先輩は腐女子ではなかったが、主任が天音くんと付き合い始めたと思われる頃から、少しずつ腐り始めた。
 主任と佐竹さんの会話が漏れ聞こえるたびに悶え苦しむようになり、気付けば立派な腐女子になっていた。
 
 ほとんどが家族連れで賑やかな一号車の中で、私と先輩は耳をダンボにして黙っていた。もちろん主任と天音くんの会話を聞くためだ。

「と、冬磨、ダメだよ。職場の人の前ではちゃんとするって約束でしょ?」

 何がダメなんですか?!
 先輩と二人、横目で二人を盗み見る。
 あ、手繋ぎですか?! 
 主任が手を繋ぎ、天音くんが振り払い、また繋ぐの繰り返し。

 だから可愛すぎるんですがっ?!

「いいじゃん、バスの中なんて誰にも見られないって」
「え、だって冬磨、明日は手も繋げないからって昨日の夜いっぱい……っ」

 そこでハッとしたように天音くんが口を閉ざす。

 昨日の夜?!
 いっぱいって、いっぱいって何がですかーーー?!

「んー? 俺そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ?」
「んー覚えてねぇな~」
「ええっ? 早く寝ようって俺言ったのに遅くまで……」

 ゴニョゴニョ……と天音くんがつぶやくと、主任は「遅くまで……は覚えてるけどな?」と含み笑いで愛おしそうに目を細めた。

 遅くまでゴニョゴニョって……ゴニョゴニョってなんですかーーー?!

「とにかくダメっ」
「大丈夫だって。ここ一番前の席じゃん。見られないって。今日は仕事じゃねぇんだしさ」
「で、でも……」

 通路側に座っている天音くんが、突然クルンとこちらに振り向いた。
 先輩と二人、息を詰める。
 で、ですよね。見るとしたら私たちですよね。
 すると先輩がバッグをゴソゴソとしだし、パウチに入ったガムを取り出す。

「あ、が、ガム食べる?」
「わ、わぁ、いただきます~」

 見てませんよっ。聞いてませんよっ。どうぞどうぞ手繋ぎしちゃってくださいっ。と必死にアピール。

「な? 見てないだろ?」
「……う、ん。でも……」

 それでも天音くんは手を振り払い、主任がまたすぐに手を繋ぎ直す。
 私たちはそれを横目で見ながら『繋いじゃってー!』と念を送り続けた。
 その時、天音くんが「ぁ」と小さく声を上げ、パッと笑顔になる。

 なになに?! どうしたの?! 可愛いよ?!

 天音くんは被っているキャップを取って繋いだ手の上にふわっと被せ、桜色のほっぺで主任を見た。
 主任は目尻を下げて天音くんを見つめる。

 目で会話してるーーーっ!!
 
「もう……尊いがすぎる……」
 
 先輩のささやきに、私は心から同意した。

 神様、今日という日を本当にありがとうございます!!
 
 
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...