悪天に至る

秋光

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異変

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父を殺してから、いや、光が空を覆った直後から、やけに感覚が鋭い。


聴覚、音の密度や音圧だけでその物質を質量や性質が頭に浮かぶ。

触覚、微かな振動でさえはっきりと知覚でき、触れた物を完璧に操れるような感覚がある。

視覚、元々視力は悪くなかったが今は数キロ先も見渡せる、こころなしか間接視野も広くなったような気がする。

嗅覚、血や死臭などの刺激臭があたりを充満させているはずだが、ひとつひとつの匂いを正確に嗅ぎとれる。


体の異変はそれだけではなかった。身体能力が人間の限界を超えている。コンクリートや煉瓦ブロック、鉄筋すらも容易に破壊できた。見たところ筋量に大きな変化はないように思えるが…。
跳躍力や瞬発力、体幹までもが飛躍的に強力になっていた。




空に光が爆発した時はかなり驚いた、しばらく体が硬直して動けなかった。速い判断が幸をそうしたか人間が本格的に暴徒化する前に食料や必需品は確保できた。


しばらく廃墟にて身を潜めた。そこで自身の異変を確認した。満足するまで力を確認した後、この現象や近辺の様子など情報を集めようとした。スマホはかなり便利だ、が、それ故に混乱を深め、絶望を感染させてしまったのだろう。様々な掲示板やニュース、速報などを流し見したが、明確な情報は無かった、あるいは埋もれてしまったいるのだろうか。


情報集めに夢中になっているうちに日本でも暴れ出す者が全国規模で現れた。遠いが建物を破壊する音が聞こえる。人の悲鳴が聞こえる。ここら辺でも暴れている奴らがいるな。


めい久遠くおんが心配だ。日が昇れば少しは暴走してる奴らも大人しくなるだろうか?なんにせよ明け方には家に向かって、妹と親友の安否確認しないとな。




家に向かうための準備をしている途中だった。

複数人の足音が聞こえる。時間が過ぎ、遠くの騒音は止んだので、てっきり暴れ疲れて撤収したとばかり思っていたが…。恐らく身を潜めるための場所、あるいは仮拠点を探しているのだろう。音の質量と血の臭いで察した。先程まで暴れていた連中だ。


急いで逃げるべきなのだろう。


だが。


なぜだか今は。


自分の力を試してみたい。


好奇心と愉悦が心を支配していた。

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