悪役令嬢ですが私のことは放っておいて下さい、私が欲しいのはマヨネーズどっぷりの料理なんですから

ミドリ

文字の大きさ
32 / 73

(32)人の鼻は摘まないで下さい

しおりを挟む
 レオンが、眉間に皺を寄せつつ私に尋ねた。

「ナタ、お前一体王都で何をやらかしてきたんだ?」

 これは絶対さっきの私のレオンへの発言に対する仕返しだ。そうに違いない。こいつもそこそこ性格悪いな、と私は内心イラッとした。もしかしたら、顔にもちょっとこの苛つきが出ているかもしれない。

 事実、はっきりと出ていたんだろう。

「そんな顔をするな。冗談だ」

 レオンはそう言うと、あろうことか私の鼻の頭をつまんで笑ったのだ。つま、つま、摘んだ!? 私は今一体何をされているのか、一瞬自分がどこにいるのかこの先の目的も全て見失ってしまった。何でこの人は、当たり前の様に人の鼻に触れて笑っているのか? 謎すぎた。

 すると、後ろから覗き見をしていたナッシュが、レオンの肩をちょんちょんとつついた。

「レオン様、その距離感は一般的ではないと思いますよ」
「ん? どういうことだ?」

 私が思考停止して固まっていたからか、助け舟を出してくれたらしい。お喋り従者もなかなかやるじゃないか。

「レオン様はまだナタ様に愛の告白はされていないんでしょう? やはり男たるもの、告白の前にあまりにも堂々とベタベタと触るのは紳士の振る舞いとしてはいかがなものかと思うんですけど」

 前言撤回、やはりお喋り従者は駄目だ。この間から何かを盛大に勘違いしている様だが、自分の地位向上の為とはっきりと口にしていたから、主人を思っての言動ではないのかもしれない。

 にしても、何故ナタとレオンをくっつけることがナッシュの地位向上に繋がるのだろうか。その論理も全く以て謎だった。

「愛の告白……」

 レオンはきょとんとナッシュを見た後、まだ鼻を摘んだままの私を見て、慌ててパッと手を離した。

「な、ナタ! 怒って……ないよな?」

 言葉の最後の方は、垂れ下がったライオンの耳と尻尾の幻覚が見えてきそうだった。その背後から、ナッシュが声を掛けてくる。

「ナタ様、お顔が赤いですよー」

 いっぺん殺したろか、この従者。私がナッシュを睨みつけると、ナッシュはぺろりと舌を出して笑った。更に殺意が湧いたのは、仕方のないことだろう。

 ゴホン、と咳払いしたレオンは、今度は冗談は言わないことにしたらしい。

「あー、ナタ?」
「……なに」
「こいつは、口は軽いが嘘は言わん。だから、あれが王国騎士団だというのは本当のことだろう」

 私はナッシュを見た。私に向かって、サムズアップをしている。やっぱり殺そうかな。

 だが、このままここで殺人を犯しても私のメリットにはならない。マヨネーズ求道にはあってはならないことだ。私は心を落ち着かせるべく、頭の中にマヨネーズの容器のあのフォルムを思い浮かべた。――よし、落ち着いた。

「……分かった、そこは信用するわ。で?」
「ナタ、お前に何か思い当たる節はないか? ナタの名前を出したということは、お前が町娘の格好でこの街に滞在していることも把握しているんじゃないか?」
「うーん?」

 屋敷を出た時から、もしかしたら後を付けられていた可能性もある。だけど、どうして私に接触してこない? 王国騎士団なら、正面から訪問されたら断りなど出来ないのに。

「何か、王族の恨みを買うようなことはなかったか?」

 王族の恨み。私が知っているのは、王様に王妃様、そして元婚約者のアルフレッド。彼らの親類もいるが、あまり深く関わることはなかった。王様と王妃様には行儀のいい義理の娘候補として接していたし、別に嫌われていた様な記憶もない。アルフレッドとは会話らしい会話も殆どなくなっていたし、そもそもあいつは私を振った側だ。恨みこそすれ、恨まれる筋合いはない。

 ということで、私は首を横に振った。

清廉潔白せいれんけっぱくよ」

 うーん? とレオンが首を傾げる。

「お前は結構ズバズバ物を言うからなあ、気付かない間に何か相手の逆鱗に触れることでも言った可能性はないか?」
「あのね、人を何だと思ってる訳? 王宮で過ごしてる間は、私は模範的な王太子妃候補をしてたわよ」

 私がふんぞり返ると、レオンがいぶかしげな顔をして更に首を傾げた。やっぱりこいつはむかつく。

「本当か? その割には俺には随分と言いたい放題な気がするんだが」
「あんたはこの国の王族じゃないでしょうが」
「当然だ。俺にはあんな酷い鼻毛は生えちゃいないからな。ほら、鼻毛を見れば違いが分かるだろ?」

 レオンはそう言うと、わざわざ私に鼻の穴を見せた。――まあ、レオンの鼻毛は見えない。というか、なんだ、鼻毛が出てるのは、やっぱりちょっとおかしかったのだ。異端だったのは私じゃない、あの一族ってことだ。

 私はレオンに頷いてみせた。

「少なくとも血縁でないのは分かるわ」

 あの遺伝子は強そうだ。遠縁ということもなさそうである。

「あれは、誰も指摘しないのか? 俺は、見た瞬間思わず視線が釘付けになったんだが」

 レオンが呆れた様に笑う。やっぱり視線はあそこに行くのだ。私は心強い味方が出来た気になった。私は間違ってなかった、間違っていなかったのだ!

「指摘なんて出来る訳がないでしょ、王妃様だって当然だみたいな顔をしてるし、王様や王太子に鼻毛出てるよなんて言ったらどうなっちゃうか」
「まあ、あの王太子なんかカーッと怒りそうだよな」

 はは、とレオンが笑う。私はレオンの腕をぽんと叩いた。

「でしょお? もうね、アルフレッドったら自分を非難するようなことをちょっとでも言うと、グワーッと怒るんですもの。毎回発言に気を使ってしょうがなかったわよ!」

 私もあはは、と笑った。そして、はたと我に返った。

「……レオン、何で鼻毛のこと知ってるのよ?」

 レオンが思い切りギクーッ! と反応した。目は泳ぎまくりだ。

「ゆ、有名な話なんだよ!」
「だって、視線が釘付けになったって言ってたじゃないの」

 どう考えても、レオンの発言は直接目の前で見た人間のものだ。

 怪しい。私はレオンを半眼で見上げた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

第三王子の「運命の相手」は追放された王太子の元婚約者に瓜二つでした

冬野月子
恋愛
「運命の相手を見つけたので婚約解消したい」 突然突拍子もないことを言い出した第三王子。その言葉に動揺する家族。 何故なら十年前に兄である王太子がそう言って元婚約者を捨て、子爵令嬢と結婚したから。 そして第三王子の『運命の相手』を見て彼らは絶句する。 ――彼女は追放され、死んだ元婚約者にそっくりだったのだ。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...