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(41)ホルガーからの手紙
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ホルガーの手紙には、現在の王都の様子が書かれていた。
新しい王太子妃候補との婚約パーティーは、数日間に及んだという。全く予定されていなかった御祝いだった為、王城は上から下への大騒ぎだった、とは王城に務めるホルガーの知人の話だ。
王太子の生誕祝いに招待されていた各国要人との会合は、急遽予定変更された。元々は生誕祭の後に予定されていた会合を、婚約祝いの後に延期してもらうのも一苦労。更に滞在を伸ばせる人には伸ばしてもらい、婚約祝いにも参列をしてもらった。
国王や宰相、元老院のメンバーも駆り出されてのスケジュール調整。それこそ、寝ている時間もない程、王城は混乱を極めていたそうだ。
そんな中、王太子は新しい婚約者と個室に籠もってしまい、全然出てこない。かといって、王太子の婚約祝いに訪れた各国の主要人に主役が挨拶をしない訳にもいかない。その為、すぐに個室に籠ろうとする王太子アルフレッドを表に引っ張り出さなければならないのが、一番大変そうだったという。
「……結婚したんじゃないよな?」
「してないわね、婚約ね」
「お前の国の王太子の貞操感覚は、一体どうなってるんだ?」
「それ、私に聞く?」
私が半眼でそう返すと、レオンがハッとしてから、恐る恐る私に尋ねてきた。
「お前……まさか」
私はペチンとレオンの後頭部を思い切り叩いた。
「いてっ」
「ない! 生まれてこの方キスのひとつもしたことはないわよ! 私は正真正銘きれいな身のままです!」
「あ、そ、そうか。――えっ? キスもまだなのか?」
レオンの驚いた顔が、心底腹が立つ。
「悪い?」
私が睨みつけながらそう言うと、レオンは慌ててぶるぶると頭を左右に振った。
「いや! 悪くない! 全然悪くないぞ! むしろよかった!」
なにがよかったのかはよく分からないが、私は深く考えないことにした。
「……ならもういいでしょ」
何故、自分の経験のなさを曝け出さねばならないのか。そもそも私はずっとアルフレッドという婚約者がいた身だ。アルフレッドが手出しをしてこなければ、当然何もある訳がないのだ。
すると、レオンが自分の手のひらを見つめている。
「……あの時ナッシュに邪魔されてなければ、俺が一番だったのか……」
レオンが何かを呟いていたので、私はまるっと無視することにした。というか、あれはやっぱりそういうつもりだったのか? いや待て嘘だろう、嘘だと言ってくれ。
私は頭を抱えて叫びたくなったが、平常心を装った。
「続きを読むわよ」
「あ、ああ」
私は続きを読み始めた。
各国要人との会合も無事終わり、今度は送り出しだ。すでに満身創痍だった国王、宰相に元老院メンバーだったが、しばらく滞っていた国政は進めなければならない。僅か一日の休日を設けた後、一同は再び王城へと集結した。私の父ゴードンもかなり疲れている様子だった様だが、それでも毎日帰宅はして家で寛ぐ姿も見受けられたらしい。
だが、無理が祟ったのだろう。なんと、国王が過労から来る風邪で倒れてしまったらしい。これは公にはされていない事実で他言無用とのことで、幸い大事には至らず本当にただの風邪程度だった様だが、ここで王太子アルフレッドが何故かしゃしゃり出てきた。
まだ国王の執務の手伝いは殆どしていなかったアルフレッドなので、当然国政など分からない。だが、曲がりなりにも王太子。臥せっている国王に心労を強いるのかとの言葉に、宰相は国王に報告も行かせてもらえなかったそうだ。
「閉じこもっていたと思ったら今度は出てくるって、お前の国の王太子は情緒不安定なのか?」
「……私に聞かないでってば」
正直、私もアルフレッドのこの行動の不可解さには頭を捻るしかない。ただ、アルフレッドは鼻毛は凄いが、決して馬鹿ではない。相手の感情、特に負の感情に関しては察する能力は高かったし、そういう意味での駆け引きは得意だと思う。勉強もそれなりに出来たみたいだし、王太子としては問題ないレベルだった筈だ。
それが何をとち狂ったのか。さっぱり分からなかった。
「ほら、続きを読むわよ」
「ホルガーも一日でよくここまで情報を集めたもんだな」
「ホルガーは私達と違ってまめなのよ」
「今、俺とお前をひと括りにまとめなかったか?」
「うるさいわね」
私は続きを読み始めた。
皆、アルフレッドには遠慮しつつも教えないと国政が誤った方向に行きかねない。国王はこの状況をアルフレッド以外から知らされていなかった様で、本当かどうかは分からないが、アルフレッドの成長ぶりに涙を流し、ゆっくりと身体を治すことに専念することにしたらしい。
勿論、元老院にもアルフレッドの影響は及んだ。経験豊富な元老院の面々と、これまでろくに国政に関わってこなかったアルフレッドとでは、明らかに知識に差がある。馬鹿ではないアルフレッドならそれくらい分かるだろうに、何故かここ最近のアルフレッドは事ある毎に元老院に突っかかっていき、そして。
国王が倒れた原因は、私の父ゴードンが娘の婚約破棄について国王に激しいクレームを入れたからに違いない、と言い出したそうだ。
私は驚愕の思いで、レオンを見上げた。
新しい王太子妃候補との婚約パーティーは、数日間に及んだという。全く予定されていなかった御祝いだった為、王城は上から下への大騒ぎだった、とは王城に務めるホルガーの知人の話だ。
王太子の生誕祝いに招待されていた各国要人との会合は、急遽予定変更された。元々は生誕祭の後に予定されていた会合を、婚約祝いの後に延期してもらうのも一苦労。更に滞在を伸ばせる人には伸ばしてもらい、婚約祝いにも参列をしてもらった。
国王や宰相、元老院のメンバーも駆り出されてのスケジュール調整。それこそ、寝ている時間もない程、王城は混乱を極めていたそうだ。
そんな中、王太子は新しい婚約者と個室に籠もってしまい、全然出てこない。かといって、王太子の婚約祝いに訪れた各国の主要人に主役が挨拶をしない訳にもいかない。その為、すぐに個室に籠ろうとする王太子アルフレッドを表に引っ張り出さなければならないのが、一番大変そうだったという。
「……結婚したんじゃないよな?」
「してないわね、婚約ね」
「お前の国の王太子の貞操感覚は、一体どうなってるんだ?」
「それ、私に聞く?」
私が半眼でそう返すと、レオンがハッとしてから、恐る恐る私に尋ねてきた。
「お前……まさか」
私はペチンとレオンの後頭部を思い切り叩いた。
「いてっ」
「ない! 生まれてこの方キスのひとつもしたことはないわよ! 私は正真正銘きれいな身のままです!」
「あ、そ、そうか。――えっ? キスもまだなのか?」
レオンの驚いた顔が、心底腹が立つ。
「悪い?」
私が睨みつけながらそう言うと、レオンは慌ててぶるぶると頭を左右に振った。
「いや! 悪くない! 全然悪くないぞ! むしろよかった!」
なにがよかったのかはよく分からないが、私は深く考えないことにした。
「……ならもういいでしょ」
何故、自分の経験のなさを曝け出さねばならないのか。そもそも私はずっとアルフレッドという婚約者がいた身だ。アルフレッドが手出しをしてこなければ、当然何もある訳がないのだ。
すると、レオンが自分の手のひらを見つめている。
「……あの時ナッシュに邪魔されてなければ、俺が一番だったのか……」
レオンが何かを呟いていたので、私はまるっと無視することにした。というか、あれはやっぱりそういうつもりだったのか? いや待て嘘だろう、嘘だと言ってくれ。
私は頭を抱えて叫びたくなったが、平常心を装った。
「続きを読むわよ」
「あ、ああ」
私は続きを読み始めた。
各国要人との会合も無事終わり、今度は送り出しだ。すでに満身創痍だった国王、宰相に元老院メンバーだったが、しばらく滞っていた国政は進めなければならない。僅か一日の休日を設けた後、一同は再び王城へと集結した。私の父ゴードンもかなり疲れている様子だった様だが、それでも毎日帰宅はして家で寛ぐ姿も見受けられたらしい。
だが、無理が祟ったのだろう。なんと、国王が過労から来る風邪で倒れてしまったらしい。これは公にはされていない事実で他言無用とのことで、幸い大事には至らず本当にただの風邪程度だった様だが、ここで王太子アルフレッドが何故かしゃしゃり出てきた。
まだ国王の執務の手伝いは殆どしていなかったアルフレッドなので、当然国政など分からない。だが、曲がりなりにも王太子。臥せっている国王に心労を強いるのかとの言葉に、宰相は国王に報告も行かせてもらえなかったそうだ。
「閉じこもっていたと思ったら今度は出てくるって、お前の国の王太子は情緒不安定なのか?」
「……私に聞かないでってば」
正直、私もアルフレッドのこの行動の不可解さには頭を捻るしかない。ただ、アルフレッドは鼻毛は凄いが、決して馬鹿ではない。相手の感情、特に負の感情に関しては察する能力は高かったし、そういう意味での駆け引きは得意だと思う。勉強もそれなりに出来たみたいだし、王太子としては問題ないレベルだった筈だ。
それが何をとち狂ったのか。さっぱり分からなかった。
「ほら、続きを読むわよ」
「ホルガーも一日でよくここまで情報を集めたもんだな」
「ホルガーは私達と違ってまめなのよ」
「今、俺とお前をひと括りにまとめなかったか?」
「うるさいわね」
私は続きを読み始めた。
皆、アルフレッドには遠慮しつつも教えないと国政が誤った方向に行きかねない。国王はこの状況をアルフレッド以外から知らされていなかった様で、本当かどうかは分からないが、アルフレッドの成長ぶりに涙を流し、ゆっくりと身体を治すことに専念することにしたらしい。
勿論、元老院にもアルフレッドの影響は及んだ。経験豊富な元老院の面々と、これまでろくに国政に関わってこなかったアルフレッドとでは、明らかに知識に差がある。馬鹿ではないアルフレッドならそれくらい分かるだろうに、何故かここ最近のアルフレッドは事ある毎に元老院に突っかかっていき、そして。
国王が倒れた原因は、私の父ゴードンが娘の婚約破棄について国王に激しいクレームを入れたからに違いない、と言い出したそうだ。
私は驚愕の思いで、レオンを見上げた。
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