悪役令嬢ですが私のことは放っておいて下さい、私が欲しいのはマヨネーズどっぷりの料理なんですから

ミドリ

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(43)シュタインは人間かもしれない

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 頭の中を、ぐるぐると様々な考えがめぐる。

 父に掛けられた疑いも驚きだったが、それ以上にホルガーを失うことを考える方が、私にとってはショックだった。

 いつも私を傍ではげましてくれていたホルガー。ここにきて、また私の為に王城へ乗り込むつもりなのだ。

 ホルガーはいつもそうだった。自分のことより、私のことばかり。それが嬉しくも思えたが、でも私はそこまでしてもらう価値などない。

 だから今までずっと、どこか心苦しかった。分不相応なのではないかと。アルフレッドが言う様に、私には公爵令嬢というブランド以外の価値などないのだから。

 またしても、泣きたくないのに涙が出てきた。

「私の所為でホルガーに何かあったら、どうしよう! やっぱり、やっぱり私が直接行けばよかったんだわ!」
「ナタ、落ち着け」

 レオンが私を更に抱き寄せるが、私の頭の中にはぐるぐると嫌な想像があふれかえってしまい、いつもなら感じるレオンの温かみは、今は分からなかった。

 だけど、これではっきりした。一体誰が王国騎士団を動かしたのかが。

「ああ、そうよ、そういうことだったんだわ! お父様が国王への反逆を疑われたから、それでアルフレッドの命令で王国騎士団が私を見張っていたんだわ! 私が、王族に反抗しないかを!」

 アルフレッドは、私を許してはいなかったのだ。常に一番であることが当たり前なアルフレッドにとって、自分が好かれないなどという事実はあってはならないことだったのかもしれない。

 私はそれに気付かず、愚かにも自分の矜持プライドを優先した。その結果が、これだ。

 私は、レオンの膝の上に泣き崩れた。取り返しのつかないことをしてしまったのだ、それだけは分かった。鼻毛だ鼻毛だと言って笑っていたが、あれはれっきとした権力をもつ王太子だ。

 私は、分かった様で分かっていなかったのだ。

「ああ、アルフレッドを愛していればよかったの……? 全部なかったことになるのが分かってて、全部を差し出しておけばよかったの……!?」
「――ナタ!!」

 レオンが、私の脇をつかんで起こした。私の泣き顔を見て、一瞬眉毛が八の字になったが、それをキッと釣り上げる。

「弱気なナタは、お前らしくないぞ。自由でいつも楽しそうなナタはどこに行った!」
「レオン……! だって、だって私の所為で、お父様も、ホルガーまで……!」

 涙で、レオンの顔がぼやける。止めたいけど、どうしても止まらない。

「ナタ、ホルガーに託されたことは何だ?」
「ホルガーに……? え、き、記録をホルガーの代わりに付けること……だけど」

 レオンが笑顔に戻ると、こくりと頷く。

「そうだ、王都で頑張っているホルガーの為にも、俺達が今出来ることは、ホルガーからの次の連絡を待つ間、少しでも理想に近いマヨネーズを調合し、それを記録として残すことだ。違うか?」
「で、でも……」

 レオンが、ポケットを漁り、何もないのを確認すると、服の袖でぐいっと私の涙を拭いた。

「ホルガーを信じてやれなくて、マヨネーズ研究が頓挫とんざしたなんて後でホルガーが聞いたら、それこそがっかりするんじゃないか?」
「レオン……」

 レオンの服の袖は正直ちょっと痛かったが、それが逆に私の頭をスッキリさせた。

「ナタ、俺達の合言葉はなんだ?」

 ホルガーは、私を包み込む様に守ろうとしてくれる。だけどレオンは、私の背中を押してくれる。負けるなと。一緒にいるから、一緒に立ち向かおうと。

 また、私の目から涙があふれた。泣かない誓いなんて、もうどこへやらだ。

「マ……マヨネーズぅぅ……っ」
「そうだ、偉いぞ」

 レオンは笑顔で私の頭を撫でる。

「俺達は、ホルガーを信じて待とう。その間に、ホルガーが驚くようなマヨネーズを完成させよう。な?」
「ゔん……!」

 レオンが私を引き寄せると、もう私の涙は滝状態になってしまった。うわんうわん泣いて、レオンがとんとん背中を叩いたり、頭を撫でたりとしてくれる。多分、困ってしまっているであろうことは分かった。

 どれくらい泣いただろうか。段々落ち着いてきた頃、シュタインが新しい紅茶を淹れてくれた。シュタインは、実に優秀な執事だ。

「ナタ様、温まりますよ」

 珍しく優しい言葉まで言うので、私はつい笑ってしまった。すると、シュタインの顔にも小さくだが笑みが浮かんだ。――もしかしたら、やっぱりロボットじゃないかもしれない。

「ありがとう、シュタイン」
「いえ。――ひとつ質問が」

 シュタインが質問なんて、珍しい。私は興味が湧いて、頷いてみせた。

「マヨネーズとは、一体何でございましょう?」
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