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11 仮初の恋人ですから
「お待たせしました!お茶でよかったですか?」
「ありがとう。」
宣言通り飲み物を買うと、しっかり笑顔を作ってから何でもないように一ノ瀬さんのところに戻った。
悟られてはいけないから。
幸いにも一ノ瀬さんに怪しんでいる様子はない。
「じゃあ、せっかくだし手でも繋ぐ?」
「はい。」
差し出された手に自身の手を重ねる。
僕はその時が来るまで目一杯、一ノ瀬さんとの時間を楽しむんだ。
それにしても、洗い物で荒れた手がかなり恥ずかしい。
まだ冬じゃないだけマシだけど。
遠慮がちに重ねた僕の手に一ノ瀬さんの指が絡む。
「俺ら恋人なんだから、手はこうだろ?」
悪戯っぽく笑いかけてくる一ノ瀬さん。
絡まる指に力を入れていいのか分からず、中途半端に曲げるだけになってしまう。
公園をゆっくり一通り回り終えると、夕暮れのちょうどいい時間だ。
再び車に乗り、通り道にあった適当な蕎麦屋に入る。
ここでも一ノ瀬さんは肉そばを注文していて、徹底的な肉主義に少し笑ってしまった。
「今日は楽しかったです。」
「俺も。じゃあ、、また月曜日に会社で。」
「はい。送っていただいてありがとうございました。」
帰りは家の前まで送ってもらい、一ノ瀬さんの車が見えなくなるまで手を振った。
アパートに戻ると、郵便受けを確認する。
そこにはここ最近見慣れた白い便箋。
差出人もなければ宛名すら書いていないため、直接ポストに投函されたものだ。
部屋に帰って中を開けると、いつもと同じで『愛してる』の文字。
ここ三ヶ月ほど頻繁に入れられているが、今のところ実害もないし、無駄に体はデカいので襲ってきてもそれなりに抵抗できるだろう。
というか運良く何人か彼氏はできたが、本来僕はそんなモテるような容姿をしていない。
他の華奢で可愛らしいオメガなら露知らず、そもそも僕なんかが襲われるだろうか?
この手紙の差出人の意図は分からないが、まぁ、今のところ実害ゼロなので放っておこう。
多分、僕がストーカー被害に遭ってるなんて言ってもお巡りさんは信じてくれないだろうし。
一応今回の手紙も今までもらった手紙と一緒に缶にしまっておいた。
「はー、疲れた。」
やっとソファに座って一息をつくと、どっと疲れが押し寄せてきた。自分で思っていた以上に緊張していたらしい。
疲れているはずなのに、体がだんだんと汗ばんで熱を帯びてきた。身に覚えるのあるこの感覚、、、
「あー、ヒートか。」
予定通りならあと1週間あるはずだったが、早めにきてしまったらしい。
昼間じゃなくて本当に助かった。
職場にメールを入れて、明日から三日間休みを取る。
デートしたのに僕には一ノ瀬さんの匂いが少しもついていない。
一ノ瀬さんと繋いだ手の匂いを嗅いでも、洗ってしまったから当然石鹸の香りしかしない。指を絡ませた時の感触を思い出して、自身の指に舌を這わせた。
あぁ、、、一ノ瀬さんに心狂わす夜が始まる。
ガラスのショーウィンドウに飾られている宝石みたいにすぐそこにあるのに掴めない。
この三日間は僕のヒート史上もっとも乱れ狂う三日間となった。
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