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41 手を握ってくれる人
僕は今、日本の端の島に来ています。
寒くないの方の端です。
あれからどうやったのか、僕は一度も一ノ瀬さんに会うことなく、勇士くんに言われるがまま、ぼんやりとここまで来てしまいました。
なんか体に力が入らなくて、何のやる気も起きなくて、日がな一日ボーとしてるだけ。
外に出る気力もないし、食欲もない。
心配した勇士くんが病院に連れてってくれて、妊娠してるのが知られた。
飛び上がるほど驚いてたけど。
それに最近、何故か何もないときに時々涙が出る。
「・・・・一ノ瀬さんに会いたい。」
僕が小さくそう呟くと、勇士くんが頭を撫でてくれる。
優しい顔して優しい声で、耳元で囁いてくる。
「響は蘭丸のことなんかもう何とも思ってないよ。
もう恵と一緒に暮らしてて蘭丸のことなんかすっかり忘れてる。だって運命の番に出会っちゃったんだから。」
毎日、囁かれるこの呪いの言葉に胸が苦しくて、僕は布団に包まってイモムシみたいに耐えるしかない。
僕がイモムシになると、勇士くんはいつも真綿のように優しく布団の上から僕を抱き締める。
「俺は傍にいるから。ずっと傍にいる。」
■■■■■■
勇士くんと暮らし始めて早8ヶ月、、、
お腹もかなりポッコリしていた。
勇士くんは毎日お腹を撫でては、「産まれるのが楽しみだ。」
と言う。
まるで自分が父親かのように振る舞い、僕に呪いの言葉を囁くのも忘れない。
僕はもう勇士くんの言われるがままになっていた。
だって頭がずっとぼんやりして何も考えられないんだ。
部屋からも出してもらえず、外出できるのは病院に行く時だけ。
それもどうやってるのか知らないが、夜間の静かな病院で初老の先生が診てくれるため、他に誰にも会わない。
今日も静かな夜の病院で、お腹にペタペタ何かを貼られ、ゆったりした椅子に座らせられる。
赤ちゃんが元気か確認するらしい。
一人静かにふかふかの椅子に座り、目を瞑って、機械が動く音を聞いていると、、、
「ぎゃーー、くっそ、いてぇぇえ‼︎‼︎」
結構遠めなのに、すごくはっきり叫ぶ声が聞こえてきた。
「いってぇ、マジ‼︎マジで痛い‼︎ちょっ、これ‼︎痛ぇっつの‼︎」
痛い痛いとあまりに凄い叫び声に思わず目を丸くする。
生々しい叫び声を聞いていたら、ずっとぼんやりしていた僕の思考がフワッと浮上したような気がした。
廊下をパタパタと走る音やガラガラ何かを引く音、看護師さんたちが話す声。
世の中に数多ある音たちがやけに鮮明に耳に届いてきた。
近くに行って見てみたいな。
ずっと凪いていた感情がほんの少し動く。
自分の意思で何かしたいと思ったのは久しぶりだ。
お腹に貼ってあるシールを剥がし、立ち上がる。
廊下に誰もいないことを確認すると、未だ響いてる叫び声のほうに、引かれるように歩みを進めた。
「痛ぇ‼︎‼︎死ぬっ!これやばい!マジで死ぬっ‼︎先生まだかよっ⁉︎」
「まだ子宮孔が小さいから、産まれそうになったら来るって。ノブくん頑張って‼︎」
「ふざけんな!今まさに頑張ってんだろーがっ‼︎‼︎」
近づくとパートナーの人の声も聞こえてきた。
理不尽なこと言われても、頑張れ!頑張れ!って必死に応援してる。
「どうしよっ、ノブくん⁉︎俺、どうすればいい⁉︎なんかして欲しいことある⁉︎」
「手ぇ離すなよっ‼︎ぜってぇ離すなっ‼︎ここに居ろよ‼︎‼︎」
「うん‼︎大丈夫‼︎ずっと一緒にいるよ‼︎」
廊下でその会話に耳を澄ます。
僕の出産の時は誰が手を握ってくれるのかな・・・・って思った。
出産は命懸けだ。
それで死んじゃうことだってある。
オメガの男は特にリスクが高い。
じゃあ、僕が最期に見たいのは?
辛い時、手を握っててほしい人は誰⁇
そう考えていたら、何だか急に思考の霧が晴れた気がした。
モヤモヤ覆っていたものがパァーと霧散していった感じ。
・・・・そうだよ。そうだよ‼︎
運命の番がなんだよ!
今までずっとずっと諦めてきた。
運命の番が出てきちゃ敵わないって。
捨てられても文句の一つも言ってこなかった。
もし、、、もし、一ノ瀬さんが恵にメロメロだったとして、一言くらい文句を言わなきゃ気が済まない。
だって、形式上の恋人を撤回したのも一ノ瀬さん。
ヒート中襲いかかってきたのも一ノ瀬さん。
妊娠させたのも一ノ瀬さんだ!
もし一人で産むことになったら、この人みたいに、「クソ痛ぇ、バカ!一ノ瀬さんのせいだ!!」って叫びながら産んでやる!
そんで、、、そんで、子供と二人でうんと幸せに暮らしてやるんだ!!
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