僕のフェロモンでアルファが和んでしまいます

さねうずる

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ゼノウ•ヘンリクソンの場合


次の日――――――


「ゼノウ様、今日もご機嫌麗しく……」

「堅苦しいのはよせよ。今日もよろしくな。」

「はい。」

言った側から堅苦しく頭を下げ、返事をするハルに中隊長様は苦笑いだ。
本当は中隊長様を名前で呼ぶなど不敬も甚だしいのだが、「どうしても」と言うので呼ばせてもらっている。
余程、自分の名前を気に入っていらっしゃるらしい。
確かにかっこいい名前だからしょうがない。


ハルがオイルを混ぜている間、中隊長様はお茶を飲んで待っている。

中隊長様に比べると王太子様はああ見えて存外せっかちだ。
まるで穏やかさの中に無邪気さも合わせ持つゴールデンレトリーバーのような人だが、中隊長様はどっしり構えたジャーマンシェパードという感じである。

ちなみにハルは無類の犬好きだ。

準備ができると中隊長様は丁寧に服を脱ぐ。
騎士の証である制服を綺麗に揃えて畳むとソファの上に優しく置く。
中隊長様のこの美しい所作を見るのがハルは好きだ。
洗練された動きは見ているだけで気持ちがいい。


体の大きなハルや王太子様より更に大きい中隊長様は190センチ越えの巨躯をベッドに横たえた。

実戦によって鍛え上げられた背中の筋肉がなにもしなくとも隆起している。
芸術品のように美しい筋肉だ。

ハルは魔法で掌を温める。中隊長様はちょっと汗ばむくらいの温度が好きらしい。

柚子が仄かに香るオイルを垂らし、首から肩に掛けて力を入れていく。


「はぁ、落ち着くな。週に2度のこの時間がなによりの至福だ。」

そう言うと中隊長様は、ふっと軽く笑みを浮かべる。

中隊長様の口調や態度はいつも通りだ。
だけど、、、いつもより筋が固いな……。

「あの……なにか緊張されてますか?」

いつも雑談などしない無口なハルが珍しく話し掛けたせいか、中隊長様が息を呑んだのが分かった。

「……そう思うか?」
「筋がいつもより硬いので」

「そうか……。ハルはさすがだな。」

中隊長様はそう言ったきり、腕の中に顔を埋めて黙ってしまう。
無理に聞き出すことでもないため、ハルも再び口を閉じた。

背中側が終わり、今度は仰向けになってもらう。
目の部分に温めた濡れタオルを被せた。

肩から肘、肘から掌と順に黙々と施術を進めていると、中隊長様が徐に口を開く。


「明日……模擬戦がある。1ヶ月後にある御前試合の練習だ。」

「…………。」

「どうしても勝てない奴がいる。昔からだ。もう負け癖がついてしまって、あいつの前に立つだけで負ける自分を想像してしまう……。脚が震えて上手く動けないんだ。明日もきっと負けるだろうな。多分御前試合でも……。
どうしてもあいつに勝たなくてはいけないのに・・・・。
それに俺は父の後を継ぎたい。だが、今のままではそれも無理な話だ。」

見えてる口元には自嘲の笑み。
彼の父は現騎士団長で歴代最強と言われている。

中隊長様はいつもかっこよくて自信満々なイメージだったが、やはり偉大な父を持つとそれなりに苦労するようだ。
まぁ、生まれてから光の速さで売られたハルには到底分からない感情だが。


「くそっ。ダメだな。
ハルのフェロモンに当てられるとどうにも警戒心だとか虚栄心が削がれる。弱音を吐くなんて騎士失格だな。」


また自嘲した。
よっぽど弱っているらしい。
中隊長様の様子がおかしいとなぜだかこちらの調子まで狂ってしまうから勘弁してほしい。



「終わりました。」

「ありがとう。今日も気持ちよかったよ。この後、茶でも飲んでくか?」

「……はい。」

ハルがこくりと頷くと、中隊長様はひどく驚いた顔をした。ハルが施術後のお茶の誘いに応じるのはこれが初めてだったからだ。

「お、おぅ、そうか!よしっ、飲もう!」

「…………よければ僕がお入れします。」

サロンに置いてある茶器を拝借する。
掌に熱を集中させ、お湯を沸かすとカップにお茶を注いだ。


「美味いな。なんていう茶だ?」

「梅蜜茶です。師匠が生前、緊張を解して集中力を高める効能を付与しました。
毎朝この瓶に入っている茶蜜をひと匙お湯に溶かして飲むと徐々に効果を発揮します。
明日は無理かもしれないですが、1ヶ月後には効いてると思います。

違法な成分とかは含まれていないのでよかったら試してみてください。」


「そうか……。ハルの師匠はあの有名なコーゲン殿だったな。」


ハルは中隊長様に茶蜜の入った瓶をズズッと差し出す。
これを飲めばきっと試合で実力を発揮できるだろう。

師匠は腕のいい薬師だった。魔法で薬剤の効能をあげることができた。
古い傷や後遺症、精神の疾患に関しては例外だったが。
ハルは13歳から師匠に育ててもらい、按摩指圧の技術を習った。

師匠はハルを拾ってくれた恩人ではあるが、別に善意からそうしたわけではないというのをハルは知っている。
師匠の不得意分野を補えそうな特殊オメガがちょうどよく転がり込んできた。
だから師匠の仕事に役立つよう、あん摩の技術を仕込んだ。というだけの話だ。

いい話でも何でもない。
なんせ師匠は悪人でもなければ善人というわけでもない人だから。


「この茶蜜だが……もうひと瓶貰えたりするか?貴重なものだとは分かってるんだができれば頼む。もちろん金は払う。」


そんなにいるかな……?
ひと瓶でも1ヶ月は余裕で持つ。
ハルは首を傾げながらも今度の施術で渡すことを約束した。

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