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闘技場での出来事
「「「うおーー!!」」」
「「キャーーー!!!」」
そろそろ始まろうかという時間。
突然すごい歓声があがり、ハルは思わず顔をあげた。
王族用の席に現れたのは国王夫婦、王太子様、それと・・・・リンダン様。
王太子様の姿を見るのは久しぶりだ。
遠くから見ても相変わらずかっこいい。
褐色の肌が男らしいのに微笑む顔が柔和で誰もが見惚れてしまうほど魅力的だ。
だが、大衆の面前に立つ彼はやはり王族としての威厳を感じさせる。
やっぱり王太子様なんだなぁ。
当たり前だけど。
普段あまりにも気さくに話してくれるため、忘れがちだが本来なら口を聞くことすら許されない存在。
・・・・・・・・遠い。あまりに遠すぎる。
隣にいるリンダン様が王太子様の腕に手を添えて、何やら耳打ちしているのを見て、チクチクと心が痛んだ。
醜くてドロドロした嫌な感情だ。
ヤダな・・・・。
あんな綺麗な人、僕が敵うわけなんかないのに。
嫉妬なんてできるような身分でもないくせに・・・・・・・・。
ハルは無意識のうちにお腹を摩りそうになったことに気付き、手を止めた。
「おっ、そろそろ演舞が始まるよ。」
ハルの意識が嫌な思考に沈んでいた時、騎士団長様の弾んだ声で我に返る。
騎士団長様が指差すほうを見れば、騎士の人たちが何人か出てきたところだった。
「ゼノウとイヴァンの出番は最後なんだ。でもあそこにいる彼らもなかなかだよ。特に一番右端の彼の雪魔法は見応えがある。」
騎士団長様は出てくる騎士について色々と解説をしてくれるので、ハルも少しだけ嫌な気持ちを紛らわすことができた。
・・・・が、それも最初だけだった。
ヤバい・・・・。ちょっと具合悪くなってきたかも。
何人かの演舞を見終わった頃、医者からもらった薬の効果が切れたのか・・・・だんだんと朝と同じ気持ち悪さが戻ってきてしまう。
中隊長様たちの出番はこの演舞の次だ。
多分それくらいの時間なら我慢できるはず。
隣の騎士団長様にバレない程度にハルは息を吐いた。
前の人たちの演舞が終わり、いよいよ中隊長様たちの番だ。
込み上げてくる吐き気を唾を飲んでなんとか耐える。
中隊長様とイヴァン様の演舞は・・・・何というか圧巻だった。
中隊長様のシールド魔法とイヴァン様の草花魔法。
中隊長様の剣舞は今までの誰より見事な出来だった。イヴァン様は踊るたびに魔法で色とりどりの花を舞い上げ誰もが感嘆の声を漏らす。
イヴァン様は見えない足場をトンットンッと軽快に飛んで空中を舞い踊っているが、足場は中隊長様がイヴァン様の動きに合わせて魔法で作ってるらしい。
イヴァン様が迷いなく宙を舞い踊れるのは、中隊長様を信頼してるからだ。
じゃなきゃ怖くてあんな高いところで舞い踊るのは無理だと思う。
こんな素晴らしい演舞だというのに。
せっかくなら万全の体調で見たかった、とハルは残念でならない。
「・・・・すごい綺麗です。」
「あぁ、本当にスゴいな!さすが俺の息子だ。」
満足そうに微笑む騎士団長様の様子にハルまで嬉しくなってしまう。
だが、波のように押し寄せる気持ち悪さがもう限界まで来ていた。
チラッと王太子様のほうを見ると、相変わらず顔には笑みを浮かべ、楽しそうに演舞を見ている。
なぜかずっと口元に布を当てているのは気になるが・・・・。
隣のリンダン様はイヴァン様が花を出すたびに嬉しそうに王太子様に話しかけていた。
ダメだ・・・・。もう無理、我慢できない。気持ち悪い・・・・。
中隊長様とイヴァン様の演舞が終わり、すぐにハルは席を立った。
このあと王太子様の挨拶があるはずだが、無理。我慢できない。今すぐトイレで吐きたい・・・・。
「ハル君?どうしたの?・・・・うわっ、すごい顔色悪いよ。具合悪かったんだね。ごめん、気付かなくて。」
騎士団長様に返事をしたいが今、口を開いたら吐いてしまいそうだ。
騎士団長様に腰を支えられながら、パーティションを出た。
区切られたパーティションの間を縫うように抜けていく。もうすぐ特別席を抜けて通路に出れる!というところで誰かに腕を掴まれた。
「お前っ!なぜここにいる!?」
急に後ろに引っ張られたことにより、体勢を崩して尻もちをついてしまう。
ハルが見上げると・・・・そこには13歳まで見飽きるほど何度も見た顔があった。
「ご、ご主人様・・・・。」
目を吊り上げてこちらを見下ろしているのは、赤ん坊のハルを買った貴族の主人だ。
鞭で何度も何度も打たれ、所有の証である貴族の家紋が入った肩のタトゥーを抉り取られたときの光景がフラッシュバックする。
「ハッ、ハッ、」
思い出した瞬間、ハルの呼吸が乱れ始めた。
息が苦しい。脂汗が滲み、吐き気も相まって目の前の光景がぐるぐる回る。
ヤバい・・・・落ちる・・・・。
顔を上げてられなくて床に疼くまると、ハルはそのまま気を失った。
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