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オリバーのお話 その一
しおりを挟む「あぁ・・・・恋人が欲しい。」
大量に積まれている書類を前にオリバーはそう愚痴をこぼさずにはいられない。
レオ達の子 ハラルトはもう5歳。
最近ではゼノウ達にも待望の第一子が生まれた。
イヴァンの実家の涙ぐましい努力と資金力によって。
幸せいっぱいの二組の夫夫に囲まれて正直羨ましさで、のたうち回りたくなるときがある。
お見合いだってしているのに、誰と会ってもピンとこない。
最近ではベータにも門戸を広げているが、それでも期待した成果が得られず、イライラが募っていた。
ある時、レオとゼノウに聞いたことがある。
「二人はどうやって、この人だって分かったんですか?ハルとイヴァンは他とどう違ったんです?」
「俺はハルのヒートフェロモン嗅いでからだなぁ。他のオメガのヒートフェロモンは本能は刺激されても理性が拒絶するって感じだったけど、ハルのはこう・・・・俺が求めていたのはこれなんだ!ってパズルのピースがピッタリはまる感じがしたんだ。
もともと惹かれてはいたんだけど、気付くきっかけはそれだった。」
「俺は一目見た時から、イヴァンを俺の番にするって決めてたからなぁ。理由は分からないけどなんかビビッときたんだろうな。」
「・・・・そういうものですか。」
レオとゼノウの話を聞き、納得いったようないかないようなよく分からない心持ちになった。
自分にもそんな瞬間が本当に訪れるのだろうかと心配になる。
仕事に埋もれて番もできない31の男。
「ハァー」思わずため息まで漏れてしまう。
コンコンッ
「はい。」
「すみません、掃除に入らせてもらいまーす。」
スキップ並みの軽い口調でそう言いながら入ってきたのは、初めて見るチャラそうな男だ。
背は高いが細身、緩くパーマの入った長めの髪を後ろで括って、顔にはヘラヘラと笑みを浮かべている。
時計を見るとちょうど昼に入った時間だった。
まだまだ仕事が終わらないため休憩するつもりはない。
勝手にやっててもらおうと声を掛けた。
「床を軽く掃除してくれる程度で結構。
書類には触らないでください。」
「了解っす。」
カチ カチ カチ カチ
時計の針が進む音だけがやたら響く。
時折、床を拭く音、水を絞る音が聞こえるだけだ。
だが、オリバーが気になっているのはそんなことではない。
先ほどからまったく書類に集中できない。
気になって気になってしょうがないのだ。
「あの、」
「はいっす。あっ、煩かったです?もうすぐ終わりますんで。」
「いや、音なんてどうでもいいんですよ。この匂いです。なんなんですか、この匂い。」
「あっ!やっぱ気づいちゃいました?すみませーん。僕今ヒート中なんでちょっと匂いキツめかもっす。」
男は頭の後ろに手をやり、テヘッみたいなポーズをとるがそんなもので流せる話ではない。
「はぁ?あなたヒート中なんですか!?というかオメガなんですか?」
「そうなんすよー。見えないっすよね。よく言われるっす。」
男はヘラヘラっと笑みを浮かべると、「すぐ終わらせちゃいますんで。」と再び豪快に床をゴシゴシ擦り出した。
これがヒートフェロモンだなんて信じられない。
だってこの匂いは・・・・
「ステーキ串の匂い。」
ちょうどオリバーの腹がグーと音を鳴らす。
完全に匂いに持ってかれた。
オリバーは今完璧に肉の気分だ。
「あっ、今日は肉の匂いなんすね。
肉屋のおっちゃんになんか奢ってもらおうかな。」
冗談めかして男は言う。
くそっ、いい匂いすぎる。
クンクン鼻を鳴らしていると、「終わりましたんで。」と言って、男は退出した。
肉の焼けるいい匂いを残して・・・・
「・・・・はぁー、しょうがない。お昼食べに行きますかね。」
オリバーは一人ゴチると席を立った。
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