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イヴァンのお話 そのニ
その日はハルとお忍びで街に出掛けていた。
ハラルトが生まれてから離宮には閉じこもりっぱなしだったハルを気分転換に街に誘ったのだ。
「イヴァン様、あれゼノウ様じゃないですか?」
城下町の最も賑わうメインストリートを歩いていると、ハルがある一軒の店を指差した。
見ると、店の中には確かにゼノウがいる。
髪飾り専門の店だ。短髪のゼノウには縁がないはず。
「きっと月蘭祭りのプレゼントですね。」
ハルは瞳をキラキラさせてイヴァンに言った。
月蘭祭りは冬の終わりを祝うお祭りだ。
この国は冬と春しかないのだが、冬の終わりに近づくにつれ、月が丸く、大きくなり輝きを増す。
その美しい自然現象を観に他国からの訪問客も多い。
王宮でも盛大にパーティーが催される。
月が力を増すこの時期はオメガの匂いが強くなる。
月蘭祭りの日、アルファ達は自分の匂いをつけたプレゼントを意中のオメガに渡すのが慣習だ。
自分のオメガの匂いを他のアルファから隠したい、という本能からこの慣習ができたらしい。
ちなみにイヴァンは今まで一度もこの祭りでゼノウからプレゼントをもらったことがない。
ゼノウはこういう行事ごとにはひどく疎いため、プレゼントを渡すという慣習自体知ってるかどうかも怪しい。
そう思っていたのだが・・・・
「ゼノウ様、すごく真剣に悩まれてますね!見つからないうちに行きましょう!
きっとサプライズにしたいはずですから」
意外と乙女思考のハルは普段の大人しいイメージから一変、キャッ キャッとはしゃいでいる。
イヴァンはハルの言葉に少し顔を赤くすると、「そうだな。」と言って、足早にその場を後にした。
流石にあんな光景を見れば期待してしまう。
カフェに入り、ハルとお茶をしているときもイヴァンは顔が緩むのを止められなかった。
ゼノウからもらう初めての月蘭祭りのプレゼント。
オメガなら一度は憧れる行事だ。
ハルが、「ゼノウ様どんなの選ぶんですかね。きっとイヴァン様に似合うとっておきのを吟味してますよ。」
などと、期待値をぐんぐん上げてくるので、イヴァンもその気になってしまう。
「まだ、私へのプレゼントか分からないよ。」
と口では言ってみたものの恐らくイヴァンへのプレゼントだと思って間違いないだろう。
『イヴァンの髪は太陽に透かすとキラキラして綺麗だな』
と、ゼノウが言ってくれた日からイヴァンは髪を伸ばし始めた。
まだそこまで長くはないが、括ろうと思えば括れないこともない長さだ。
鈍感なゼノウなので気づいていないと思っていたが、そうではないのかもしれない。
ハルと2時間ほどカフェで話し、また元の道に戻ると、なんとゼノウはまだ店にいた。
店員とにこやかに話し、ちょうどプレゼントと思わしきモノを会計しているところだった。
「わっ、ゼノウ様まだいますね。見つかる前に行きましょう。」
ハルに手を引かれながら、メインストリートから脇の道に入る。
城下町は碁盤の目状に道が入り組んでいるので、メインストリートから一本右にある道を通って帰った。
ゼノウがイヴァンのために2時間以上かけて選んでくれたプレゼント・・・・期待するなというほうが無理である。
月蘭祭りは1週間後だ。
イヴァンはその日から指折り数えて、月蘭祭りの日を待った。
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