僕のフェロモンでアルファが和んでしまいます

さねうずる

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イヴァンのお話 その四


「イヴァン、顔色悪いな。大丈夫か?休憩室に行って・・・・」

「いや、なんでもない。大丈夫だ。」

イヴァンはゼノウに対してというより、自分を落ち着かせるためにその言葉を言っていた。

そうだ・・・・。大丈夫だ。
ゼノウは私を選んでくれたんだ。
いくらリーベが美しくても、心変わりなどするものか。


長年、不安に苛まれてきたイヴァンの心はそう簡単に持ち直せない。
いくら自分にポジティブなことを言い聞かせても、不安の芽が消えることはない。


その時、会場の灯りがパッと消え、壁一面、幾重にも並んだ大きなガラス窓から月明かりが煌々と差し込んでくる。

会場の人々は窓の外の白銀に光る神秘的な月灯りに目を奪われていた。

「皆さま、月蘭もクライマックスにございます。プレゼントを用意されている方はどうぞ想う方にお渡しください。」

アナウンスが流れ、先ほどまでの神秘的な雰囲気から一変、ガヤガヤと人々が色めき立つ音が一気に拡がった。


「イヴァン。」

名を呼ばれ、イヴァンは窓の外から目を移す。
目の前のゼノウを見ると、懐をゴソゴソ探り何かを取り出していた。

「これ、俺からのプレゼント。」


手のひらにぎりぎり収まる大きさの箱。
イヴァンはお礼を言うと、リボンを引き、綺麗に包装を剥がしていく。

ゆっくり蓋を開けるとそこには・・・・


「・・・・香水?」

薄ピンク色の液体が中に入った可愛らしい小瓶が箱の中ぴったりに収まっていた。

「今、オメガの間で流行ってるらしい。フェロモンの匂いと混ざると付けた人間の好きな花の香りに変化するんだと。」

嬉しそうに説明してくれるゼノウに反し、イヴァンの心は急激に冷えていく。

ゼノウは流行りモノに無頓着な人間だ。
ましてやオメガの間で流行ってる香水など知っているわけがない。


「・・・・らしい。って誰に聞いたんだ?」

イヴァンは努めて冷静に聞いた。
頭の中はぐちゃぐちゃと嫌な感情で掻き乱れているが、態度に出さないよう必死に抑え込んだ。

「リーゼ様が教えてくれたんだよ。」

名前を聞いた瞬間、イヴァンの中の何かがパキリと音を立てて折れた。
じゃあ、あの髪飾りはやっぱり・・・・


「そうか・・・・ありがとう。大切に・・する。」


俯いたまま思ってもないことを言う。
大切にする気なんかない。
本当なら床に叩きつけてやりたい。
実際はゼノウからもらったものにそんなことできないが・・・・


不穏なイヴァンの雰囲気を感じ取ったのかゼノウも困惑しているようだ。

だが、フォローしてやる気力は今のイヴァンには残ってなかった。

「すまない。ちょっと気分が優れないから失礼する。ゼノウは残って楽しんでくれ。」

早口で無機質にそう言うと、イヴァンは足早に会場を出た。
しかし、出てすぐのところで追いかけてきたゼノウに捕まってしまう。

「おい、イヴァン。どうしたんだよ!?プレゼント気に入らなかったか?」

「・・・・別に何でもないから気にしないでくれ。」

「でも・・・・」

「なんでもないって言ってるだろ!!」

廊下に響くくらいの大声にイヴァンは自分でも驚いた。
我に返ってゼノウを見ると、彼も驚愕したように目を見開いている。
イヴァンが人に対して大声を張り上げるのは初めてだった。


「あっ・・・・すまない。怒鳴って悪かった。本当に何でもないんだ。少し一人で考えさせて欲しい。」

腕を引くと、ゼノウの手は簡単に外れた。
イヴァンはそのまま走り出す。
ゼノウはパーティに参加してはいるが、外部からの侵入者を遮断するためのシールドを会場に張って、警備も兼任してる。
これ以上、追ってくることはできない。


ゼノウはそのまま中庭まで走り抜けると、中庭の隅にひっそりと生えている木の下に座り込んだ。

やってしまった・・・・。
ゼノウは悪くない。イヴァンが喜ぶだろうと思って流行りの香水をプレゼントしてくれたんだ。
なのにあんな態度を取ってしまった。

「嫌われたかもな・・・・。」

思わずポツリと溢してしまう。

自分が勝手に勘違いしただけだ。
人から勧められた流行りの香水ではなく、2時間かけてゼノウが選んでくれた髪飾りをもらえるのだと勝手に期待した。
あの髪飾りは元からリーベ用に買ったのかもしれないのに・・・・。


気持ちが落ち着いたら会場に戻って、ゼノウに謝ろう。

香水を箱から出し、掌に乗せてみる。

可愛い香水だ。
イヴァンには似ても似つかないくらい。
きっとゼノウはイヴァンが喜ぶことを想像してこれを買ってくれたはずだ。
なのに・・・・あんな酷い態度・・・・

さっき最後に見たゼノウの顔が忘れられない。
ゼノウの気持ちを思うと、イヴァンは今度は罪悪感で胸が締め付けられた。

「ゼノウ・・・・すまない。本当にごめん。」

暫くイヴァンはそこにいた。
騒つく気持ちを落ち着かせるために。
月は今も美しく中庭を照らしているが、木陰にいるイヴァンにその光は届かない。




「よし・・・・行くか。」

覚悟を決め立ち上がると、尻についた草を払う。

足取りは重いが、ゆっくりと一歩一歩会場に向かって歩みを進めた。

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