バッティングハンター

いんじんリュウキ

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第1章 卒業後の進路

進路決定!

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 翌日、マレッドに別れを告げて森を出たタフィたちは、キュービンゲンの村でまたしてもアポロスと出くわしてしまう。

「待っていたぞタフィ……いや、平民」

「まぁたいやがるぜあのバカ。しかも無意味に言い直して、それがカッコいいとでも思ってんのか?」

 例によって、タフィは露骨に嫌な顔をした。

「おっ、なんだその脇に抱えてる箱は? もしかして、例の包丁を見つけたのか?」

 アポロスは目ざとく木箱の存在に気がついた。

「てめぇには関係ねぇだろ」

「フフッ、否定しないってことは、やはりそれが包丁なんだな。だったら、おとなしくそれを渡してもらおうか」

「誰がてめぇなんかに渡すか、このバーカ」

「何をぅ、バカって言う奴の方がバカなんだよ! 渡さねぇんだったら力ずくで奪うだけだ」

 怒ったアポロスは、タフィに向かって魔法を放とうとする動きをみせた。

「ボイヤー、俺の代わりにあのバカのことぶっ飛ばして来い」

「はい」

 木箱を抱えているタフィに代わって、ボイヤーがアポロスに向かって駆け出した。

 そして一気に距離を詰めると、右腕をアポロスの股下に深く入れ、左腕を肩に回して抱え上げるような形で体を持ち上げるや、そのままひっくり返すようにして背中から地面に叩き落した。

「ぐぁっ!」

 ボイヤーの強烈なボディスラムを受けて、アポロスは一撃でノックアウトされた。

「よくやったボイヤー」

「軽いもんですよ」

 この後、タフィたちは運良くベルツハーフェン方面へ向かう荷馬車に出会い、それに乗ったのであった。



 ベルツハーフェンへの帰路。途中で荷馬車を降りたタフィたちは、その足でケーシーの家を訪れていた。

「じいちゃんこんちはっ!」

 タフィは懲りもせずに荒々しくドアを開けた。

「バカヤロッ! ドアはもっと丁寧に開けろ、何遍言ったらわかるんだ!」

 ケーシーも挨拶がわりのようにタフィを怒鳴った。

「ごめんごめん。それより、ようやく本物の『至高の肉切り包丁』を手に入れたよ」

 タフィは誇らしげに包丁が入った木箱をケーシーに差し出した。

「ほぉ、どこで見つけてきた?」

「キュービンゲンの近くにある森の中」

「そうか。……うーむ、どうやら今度は本物のようだな。確かに、あいつが手放したくない気持ちもわかる」

 ケーシーは木箱から包丁を取り出して確認すると、その出来栄えの良さに感心した。

「そのジェイコブセンさんだけど、じいちゃんによろしくって言ってたよ」

「は? 儂によろしく?」

 ケーシーは言っている意味が理解できなかった。

「実はさ、あの人エルフツリーになってこの包丁のことを守ってたんだよ」

「エルフツリーって、あの恐ろしく長生きだっていう木だろ。本当かそれ?」

「本当だよ。こんな嘘ついたってしょうがないじゃん」

「それもそうだな。しかし木になってるとはなぁ……」

「ジェイコブセンさんはじいちゃんに会いたがってたよ」

「そうか」

 返事はそっけなかったが、ケーシーはどことなく嬉しそうな顔をしていた。



 ケーシーの家で報告と軽い食事を済ませたタフィたちは、無事にベルハーフェンへと戻り、2回目となるマッハのチェックを受けていた。

「へぇ、木の下に隠されたの」

「そうだよ。いやぁ、大変だった。次々と襲いかかってくる植物や動物を、俺がこのバット1本で全部薙ぎ払って、ようやくそいつを手に入れたんだよ」

 タフィは多分に脚色を交えながら、マッハに包丁を手に入れた経緯を熱弁していた。

「ふーん」

 タフィとしてはアピールのつもりだったが、マッハは軽く聞き流し、切れ味を確かめるように包丁で肉を切り始める。

 この時あったのは巨大な牛肉の塊だったが、まるでチーズでも切っているかのように、簡単に肉を切り落とした。

「ハハッ」

 あまりの切れ味の良さに、マッハは思わず笑ってしまう。

「すっごい切れ味ね」

「本当ですね」

 カリンとボイヤーもびっくりしている。

「どうだ、これでこいつが本物だってわかったろ」

 まるで自分がこの包丁を作ったかのように、タフィはドヤ顔でマッハに言い放った。

「ああ、確かにこれは『至高の肉切り包丁』だ」

「じゃあ、俺がトレジャーハンターになることを認めてくれるんだな」

「そういう約束だったからね。認めてやるよ」

「よっしゃぁー!」

 タフィは歓喜の雄叫びをあげた。

「おめでとうございます、兄やん。僕も一緒に頑張りますから」

「おうよ。これからは2人でトレジャーハンターだ」

 タフィは笑顔でボイヤーと肩を組んだ。

「良かったじゃん」

(これでうちの役割も終わったかな)

 だが、カリンがホッとできたのも束の間、マッハはまた新たに条件を突き付けたのだ。

「ただし、トレジャーハンターとしての才能がないようなら、すぐに店を継いでもらうよ」

「いいぜ」

 タフィは激励みたいなものだと軽く捉えていたが、マッハの考えは違っていた。

「それでカリン悪いんだけど、お目付け役として、しばらくこいつらの面倒を見てくれないかな?」

「え、うち?」

「そう。性格含めてこいつらのことをよく知ってるし、甘やかすこともしないだろうからさ。で、カリンがダメだって判断したら、問答無用で店を継がせるから。もちろん、無理にとは言わないけどね」

 言葉とは裏腹に、マッハは鋭い眼光で「断らないよね」というメッセージを放っていた。

「……わかった」

 その状況下で断る度胸はカリンにはなかった。

「ありがとうねカリン、恩に着るわ。ほら、あんたたちもカリンに頭下げな」

「カリン姉さん、どうかよろしくお願いします」

「ま、よろしく頼むわ」

 マッハに言われて、ボイヤーは深々と頭を下げ、タフィは適当に頭を下げた。

「はぁ……こちらこそよろしくね」

 カリンも苦笑しながら小さく頭を下げた。

 こうして紆余曲折の末、タフィの卒業後の進路は無事決定したのであった。
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