バッティングハンター

いんじんリュウキ

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第2章 卒業試験

カーナヴォンへ

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 学園を出発したタフィたちは、途中串焼き屋に立ち寄って卒業試験のことをマッハに話し、そのまま馬車の発着場へと向かった。

 というのも、ベルツハーフェンとカーナヴォンは人の往来が多く、2つの街を往復する定期便が1日に何本も運行されているのだ。

「結構乗る人多いんだな」

 3人が乗り込んだのは14人乗りの幌馬車で、幌を背にして7人掛けの堅い木の椅子が向かい合うように設置されており、定員いっぱいに人が乗っていた。

「そうですね。あ、兄やんもうちょっと詰めてください」

 ボイヤーはできる限り体を小さくして椅子に腰掛けた。

「カーナヴォンはそこそこ大きい街だからね。あー、モフモフして気持ちいい」

 カリンは隣に座るボイヤーに思い切りもたれかかった。

「ちょ、ちょっと姉さん」

 ボイヤーがくすぐったいような表情を浮かべるなか、馬車はガタガタと出発した。



「なぁボイヤー、カーナヴォンはなんで猫の街になったんだ?」

 行程の半分くらいを過ぎたところで。タフィはふいにそんな疑問を口にした。

「それはキャットダンジョンがいるからですよ」

「キャットダンジョン?」

「キャットダンジョンっていうのは、動物の形をしたモンスターや魔石が出てくるアニマルダンジョンの一種で、その名のとおり猫の形をしたものが出てくるんです」

「猫の形って、あのキューブも猫になんの?」

「キューブはあの形のままで、猫の耳っぽい突起がちょこんと付く感じ……ですよね?」

 ボイヤーは一応カリンに確認する。

「そうそう。猫の形っていってもモンスターによって色々あって、猫の耳やしっぽみたいなのがくっついてるだけのやつもいれば、スライムみたいに完全に猫の形になってるやつもいるの。これは、魔石とかにも言えることだけどね」

「てか、なんでそのダンジョンは猫の形してんの?」

「その、詳しい理由はまだわかってないんですけど、一説によれば、幼体の時に猫の死体を吸収したりすると、そういう変異が起こるんじゃないかって言われてます」

 タフィの言うとおり、アニマルダンジョンになる理由はよくわかっておらず、その動物に対する憧れが理由だと考えている専門家もいた。

「じゃあ、犬を吸収したら犬の形になるってこと?」

「そういうことですね。実際、ドッグダンジョンとかもいますから」

「へぇ、犬もいるんだ。……で、向こうに着いたらドッグ……じゃねぇや、キャットダンジョンに行くの?」

「そうね。とりあえずダンジョンで良さそうなものがないか探してみる感じかな」

「……キャットダンジョンって、僕でもなんとかなる強さですかね?」

 ボイヤーが不安げに聞いたのには理由がある。

 というのも、ダンジョンは冒険者などとの戦闘経験によって強くなるので、訪れる人が多いダンジョンともなれば、必然的に強さも相応のものになるからだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ヴァーベンのやつよりは強いけど、あんたたちが手こずるようなのは出てこないから」

(……というか、こいつらなら、ダンジョンに限らず大抵のものは倒せそうだけどね)

 慢心させないために口には出していないものの、カリンは二人の戦いっぷりを見て、その潜在能力の高さに舌を巻いていたのだ。

「良かったぁ」

 そんな風に思われているとは露知らず、ボイヤーはカリンの言葉を聞いてホッと胸をなでおろすのだった。



 馬車がカーナヴォンの街に到着したのは、その日の夕暮れであった。

「あー、着いた着いた。……で、こっからどうすんの?」

 タフィは体を伸ばしながらカリンに聞いた。

「そうねぇ、とりあえず宿で一泊して、朝一でダンジョンかな」

「わかった」

 宿屋を探して3人はカーナヴォンの街を歩き出す。

 猫の街というだけあって、猫の形をした看板や猫のイラストが描かれた壁など、猫関連のものが街の至る所にあり、また飼い猫や野良猫が自由気ままに歩き回っていた。

「猫まみれだな」

 猫だらけの光景を見て、タフィは思わず笑ってしまう。

「フフッ……確かにまみれてるわね」

 つられてカリンも笑う。

「兄やん姉さん、ちょっと見てくださいよ。この猫すごく懐いてきます」

 1匹の三毛猫がボイヤーの足もとにすり寄り、自身の頭やお尻をかわいらしくこすりつけている。

「あんたの毛並みを楽しんでるんじゃないの。……よしよし」

 カリンがやさしく三毛猫の頭をなで始めると、三毛猫は心地よさそうに「ニャーオ」と鳴いた。

「かわいいねぇ」

 カリンが普段出さないようなかわいらしい声で三毛猫に話しかけると、三毛猫も「ニャー」と鳴いて反応を示す。

 それを見たタフィは、茶化すように三毛猫のセリフを言う。

「そうだよ。おいらかわいいんだよぉ」

「あんたバカにしてんでしょ!」

「してないしてない。それより、大声出したから猫がびっくりしてんじゃん」

 三毛猫はカリンが声をあげた瞬間に体をビクッとさせ、そのままボイヤーの足もとから離れていった。

「ほらぁ、あんたのせいで猫が行っちゃったじゃない」

「俺のせいじゃねぇよ」

 ところが、数メートルほど離れたところで三毛猫は立ち止まり、タフィたちの方を振り返って「ニャー」と鳴いたのだ。

「あれ? なんかこっち見て鳴いてんぞ」

 気になったタフィが三毛猫に向かって歩き出すと、三毛猫は再びトコトコと歩き出した。

「……なぁ、もしかしてあの猫、俺らをどっかに連れていきたいんじゃねぇの?」

「あー、確かにそんな感じがしますね。姉さんはどう思います?」

「そうねぇ、さっきからこっちを見てるし、何かしらの意図はありそうよね」

「よっし、じゃああいつの後をついていくぞ」

 3人は三毛猫に誘われるまま、カーナヴォンの街を進んでいった。
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