後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第八章 恋の終わり

第三十六話

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 目が覚めると、寝室の天井が見えて、身体の下には柔らかな寝台があって……自分が横になっていることに気がついた。

「……?」

 不思議に思いながらも身体を起こすと、身体から布団がずり落ちていき、昨日と同じままの衣服が目に入る。

 寝間着に着替えることもなく、寝台で横になった……?

 けれど寝台で横になった記憶はおろか、寝室に来た記憶すらない。

 疑問しかない中で、懸命に頭を動かして昨日のことを思い出す。

 昨日はイェン兄様の結婚が決まったと聞いて、告白して、振られて……皇帝陛下がなぐさめてくださって、泣いて……。

 そこまで思い出すと、自分の身勝手さに呆れるとともに恥ずかしさが込み上げてくる。

 片手を顔にやると、恥ずかしさからか熱くなっている気がする。

 そんなことを一人でしていると、もう片方の手が何かを掴んでいることに気がついた。

 何だろうとそちらの方に目をやると、そこには皇帝陛下の羽織があった。

「……??」

 わたくしはさらに理由がわからなく、首を傾げる。

 ありえないだろうと思っているけれど、皇帝陛下の羽織が寝室にあるということは、皇帝陛下と寝室に来たということだろうか……。

 けれど自分の衣服を確認してみても、特に乱れた様子はない。

 身体に痛みがあるということも特になかった。

 そして皇帝陛下の羽織はあれども、皇帝陛下のお姿もない。

「……???」

 わたくしは昨日の夜からの記憶がすっぽりと抜け落ちていた。

 けれど、分からないことをいつまで考えていても仕方ないと思い至り、侍女を呼んで身だしなみを整えると共に、皇帝陛下に羽織をお返しするように頼んだ。

 ――それから、疑問の答えは見つからないままではあるものの、いつも通りに茶の間で過ごしていると、皇帝陛下がいらっしゃった。

 昨日のことを謝罪するとともに、何があったのかお伺いしようと口を開こうとする。

「断じて! 誓って! 何もなかったからな!」

 するとわたくしが口を開くよりも前に、皇帝陛下が勢いよくそう仰った。

 突然のことに、驚きから目を瞬かせる。

 そんなわたくしに向けて、皇帝陛下はまくしたてるように説明を続ける。

「あの後、そなたが眠ったから寝室に移動させたのだ。だが、そなたが羽織を掴んで離さなかったから、羽織だけ残したのだ。私は夜の内に、自分の宮に戻ったからな」

 驚きつつも、何もなかったという言葉に内心安堵する。

 わたくしとしても、記憶のない内に初めてが終わっていたなんて、望むところではないから。

 皇帝陛下を見やると、年相応な表情に慌てた様子で懸命に説明していらっしゃる。

 もしかしたら、昨日のことで気を使わないように、そのような姿を見せてくださっているのかもしれないと思うと、嬉しくてくすっと小さく笑みがこぼれた。

「し、信じてくれたか……?」

 わたくしの笑みを見た皇帝陛下は、不安げな様子でこちらを見やる。

 まるでいたずらをした子犬のような表情に、またくすくすと笑みがこぼれてしまう。

「えぇ、信じますよ」

 笑いながら答えると、皇帝陛下は今度はご褒美をもらった子犬のように、ぱぁっと明るい表情を見せる。

 表情の移り変わりが面白くて、また笑みがこぼれてしまう。

 ……イェン兄様が結婚するという事実が、なくなったわけではない。

 けれど、翌日には笑う元気があるのだなと、自分自身の心境に驚く。

 いや、違う。

 こんな風に笑えているのは、きっと皇帝陛下の気遣いがあるからなのだろうと思う。

「ありがとうございます。皇帝陛下」

 なので穏やかな微笑みを浮かべて、皇帝陛下にお礼を伝える。

 すると皇帝陛下は「何がだ?」と不思議そうに小首を傾げていらしたけれど、わたくしはそれ以上深く話すことはなく、ただ笑みを浮かべた。
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