「完結」旦那が家に帰ったら美青年になっていた

leon

文字の大きさ
6 / 6

最終話 新しい未来

しおりを挟む
和也と春菜が佐藤教授の協力を得て新たな生活を模索し始めてから数日が経った。警察の捜査は進展がなく、和也を襲った黒い車の男たちの正体は依然として不明だった。しかし、佐藤教授の研究室は安全な避難所となり、二人はそこで一時的に暮らすことにした。
ある朝、教授が研究室にやって来て、興奮した様子で二人に話しかけた。
「和也君、春菜さん、大きな発見があったよ!」
二人は顔を見合わせ、急いで教授のデスクに近づいた。教授はパソコン画面に映し出されたグラフを指差した。
「これが君のDNAから抽出したX因子の活性化パターンだ。昨日、他の研究者から送られてきたデータと照合してみたんだけど…驚くべきことに、世界中で報告されてる同様の症例と一致する部分がある」
「どういうことですか?」和也が身を乗り出した。
「つまり、X因子が活性化する条件に何か共通点があるってことだ。例えば、特定の環境要因や物質への曝露が引き起こしてる可能性が高い。ただ、それが何なのかはまだ特定できてない」
春菜は少し不安そうに尋ねた。
「それって、和也以外にも同じような人が増えてるってことですか?」
「その通り」教授は頷いた。「僕のネットワークで確認しただけでも、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで少なくとも10件以上の類似症例が報告されてる。中には君みたいに外見が劇的に変わったケースもあれば、身体能力が異常に向上したケースもある」
和也は考え込んだ。
「じゃあ、僕がこうなったのは偶然じゃないってことですか?」
「偶然じゃないとは言い切れないけど、何か大きなきっかけがあった可能性は高いね。君の生活の中で、最近何か変わったことはなかったか?例えば、新しい食べ物、薬、環境…」
和也と春菜は互いに顔を見合わせたが、すぐに思い当たることはなかった。和也の変化が起きたのはごく普通の日常の中で、突然だった。
「とりあえず、君の過去数ヶ月の生活を詳しく洗い出してみよう」教授が提案した。「何か手がかりが見つかるかもしれない」
その日から、二人は教授の指導のもと、和也の変化が起きた前後の生活を振り返り始めた。和也が通勤で使っていた電車、会社での食事、週末の過ごし方…。細かいことまでリストアップしたが、特別な出来事は見当たらなかった。
しかし、ある晩、春菜がふと思い出した。
「ねえ、和也、あの日の朝って何か変なことなかった?変化が起きた日」
和也は少し考えてから言った。
「うーん…特に覚えてないけど、朝起きたら喉が渇いてて、冷蔵庫にあった新しいミネラルウォーターを飲んだくらいかな」
「新しいミネラルウォーター?」春菜が目を細めた。「それ、いつ買ったやつ?」
「確か、前日にスーパーで買ったやつだよ。なんかセールで安くなってて、新しいブランドだったから試しに買ってみたんだ」
春菜は急いで冷蔵庫を確認したが、そのボトルはすでに捨てられていた。彼女は教授にその話を伝えた。
「ミネラルウォーターか…」教授は顎を撫でながら言った。「可能性はあるね。水に含まれる微量元素や化学物質がX因子を活性化させたのかもしれない。ブランド名は覚えてる?」
和也は少し曖昧だったが、「確か『Aqua Nova』って名前だった気がする」と答えた。
教授はすぐにその情報をメモし、研究ネットワークに問い合わせを始めた。一方、春菜と和也は自分たちでもネットで「Aqua Nova」を検索してみた。すると、意外な事実が浮かび上がってきた。
「ねえ、これ見て」春菜がスマホを和也に見せた。「このブランド、最近一部の地域でしか販売されてないみたい。しかも、製造元が謎のベンチャー企業なんだって」
和也は画面を覗き込み、眉をひそめた。
「『Nova Biotech』…聞いたことない会社だね」
二人はその情報を教授に報告した。教授は目を輝かせて言った。
「これは面白い!Nova Biotechか…調べてみる価値があるね。僕の知り合いに企業の裏事情に詳しいジャーナリストがいるから、コンタクトしてみるよ」
その夜、和也と春菜は研究室の簡易ベッドで横になりながら、未来について話し合った。
「もし本当にその水が原因だったら、どうする?」春菜が小さな声で尋ねた。
「どうするって…元に戻れるなら戻りたい気持ちもあるけど、この姿で新しい自分を見つけたのも事実だし…」和也は少し迷うように言った。「君はどう思う?」
春菜はしばらく黙ってから答えた。
「私は、あなたが幸せならそれでいいよ。戻るか戻らないかは、あなたが決めて」
和也は春菜の手を握り、微笑んだ。
「ありがとう。君がそばにいてくれるなら、どんな選択でも後悔しないよ」

数日後、佐藤教授のもとにジャーナリストからの情報が届いた。教授は二人を呼び、興奮した様子で報告した。
「Nova Biotech、確かに怪しい動きがあるよ。この会社、表向きは健康飲料を開発してるベンチャー企業だけど、裏では遺伝子操作技術の研究に手を出してるらしい」
「遺伝子操作?」和也が驚いて聞き返した。
「うん。僕の知り合いが内部告発者から得た情報によると、彼らはX因子を意図的に活性化させる物質を開発してて、それをミネラルウォーターに混ぜて市場に流した可能性がある。実験の一環としてね」
春菜は息を呑んだ。
「じゃあ、和也はその実験の犠牲者ってことですか?」
「そう考えるのが自然だね」教授は深刻な顔で続けた。「ただ、証拠がまだ不十分だ。内部告発者の話だけじゃ、裁判で戦えるレベルじゃない」
「どうすればいいんですか?」和也が焦った声で尋ねた。
「まずは、Nova Biotechの製品を直接入手して分析する必要がある。それと、君と同じように変化した人たちを探して、証言を集めるのも大事だよ」
二人は教授の提案に頷き、行動を開始した。春菜はネットで「Aqua Nova」を購入できる場所を探し、和也はXやフォーラムで同様の体験者を探すことにした。
数日後、春菜が地方の小さなオンラインショップで「Aqua Nova」の在庫を見つけ、すぐに注文した。ボトルが届くと、教授はそれを研究室の分析機器にかけた。結果が出るまでの間、和也はネットで一人の人物とコンタクトを取ることに成功した。
その人物は「ケイ」と名乗る20代の男性で、和也と同じように一夜で容姿が激変した経験を持っていた。ケイはビデオチャットで和也と話すことに同意し、二人は画面越しに顔を合わせた。
「やっと同じ体験をした人に会えた…」ケイは少し緊張した声で言った。彼は元々平凡な顔立ちだったが、今はモデルのような美青年になっていた。
「僕も同じだよ」和也は共感を示した。「君はいつ、どうやって変わったの?」
ケイは少し考えてから答えた。
「3ヶ月くらい前かな。夜寝る前にあるミネラルウォーターを飲んだら、翌朝こうなってた。ブランドは…確か『Aqua Nova』だったと思う」
和也は目を丸くした。
「やっぱり!僕もその水を飲んだんだ」
二人はその偶然に驚きつつ、詳しく話を進めた。ケイによると、彼も和也と同じように謎の人物から接触を受けたことがあり、怖くなって逃げていたという。
「黒い車に追いかけられたこともあるよ」ケイが声を潜めて言った。「あれ以来、引っ越して身を隠してる」
和也は春菜にその話を伝え、教授にも報告した。教授は分析結果が出たタイミングで二人を呼び戻した。
「結果が出たよ」教授はボトルを手に持って言った。「この『Aqua Nova』には、通常のミネラルウォーターには含まれない微量の合成化合物が検出された。これがX因子を活性化させる引き金になってる可能性が高い」
「じゃあ、やっぱり意図的な実験だったってことですか?」春菜が確認した。
「ほぼ間違いないね。ただ、この化合物を特定するには、さらに詳しい分析が必要だ。それと、法的な証拠にするには、もっとデータが要る」
和也は決意を固めた表情で言った。
「僕、ケイと協力して他の被害者を探します。教授は分析を進めてください。Nova Biotechを止めないと、もっと多くの人が巻き込まれるかもしれない」
春菜は和也の言葉に頷きつつも、心配そうに言った。
「でも、危険すぎるよ。黒い車の連中がまた来たら…」
「大丈夫だよ」和也は春菜の手を握った。「君と教授がいるから、僕には心強い味方がいる」
その日から、和也とケイはオンラインでネットワークを広げ、X因子被害者のコミュニティを立ち上げた。少しずつだが、同じ体験をした人々が集まり始め、証言が積み重なっていった。

和也とケイのコミュニティが軌道に乗り始めた頃、佐藤教授から新たな連絡が入った。
「合成化合物の特定ができたよ。これ、Nova Biotechが特許申請してる物質と一致する。名前は『GeneX-17』。遺伝子改変を目的とした実験薬だ」
「実験薬…」和也が呟いた。「じゃあ、僕たちは本当に人体実験のモルモットだったってことですか?」
「その可能性が高いね」教授は深刻な顔で続けた。「ただ、この特許申請はまだ非公開扱いだ。つまり、彼らは実験を隠してる可能性がある。内部告発者の証言と合わせて、訴訟を起こせるかもしれない」
春菜は少し希望を見出した。
「訴訟なら、Nova Biotechを止められるかもしれないね」
「うん。ただし、証拠を固める必要がある。君たちのコミュニティで集めた証言と、僕の分析データを組み合わせれば、かなり強力なケースになるよ」
和也はケイとコミュニティのメンバーにその情報を共有し、訴訟に向けて準備を始めた。被害者たちは匿名性を保ちつつ、証言を文書化し、教授に提出した。中には、和也やケイと同じように「Aqua Nova」を飲んだ後に変化が起きたと証言する人も多く、証拠は着実に積み上がっていった。
しかし、Nova Biotech側も動きを見せていた。ある夜、和也と春菜が研究室で作業していると、教授が慌てた様子で飛び込んできた。
「大変だ!研究室のサーバーがハッキングされた。X因子のデータが一部流出した可能性がある」
「何!?」和也が立ち上がった。「誰が?」
「わからない。けど、タイミング的にNova Biotechかその関連組織の仕業としか思えない。彼らに僕たちの動きがバレたんだ」
春菜は青ざめた。
「じゃあ、私たちみんな危険ってこと?」
「その可能性はある」教授は冷静に言った。「今すぐ警察に連絡して、研究室のセキュリティを強化する。君たちはしばらく別の場所に身を隠しててくれ」
和也と春菜は急いで荷物をまとめ、教授の知り合いの別荘に移動した。そこは山奥にある静かな場所で、外部からの接触を避けるには最適だった。
別荘に到着した夜、和也は春菜に言った。
「こんなことになって…本当にごめん。君を巻き込むつもりじゃなかった」
「謝らないで」春菜は和也の肩に手を置いた。「私、最初は怖かったけど、今はあなたと一緒に戦いたいって思ってる。Nova Biotechを止めれば、あなたみたいな人がこれ以上増えないで済むよね」
和也は春菜の言葉に励まされ、彼女を抱きしめた。
「ありがとう。君がいてくれるから、僕、頑張れるよ」
その後、警察と教授の協力で研究室のセキュリティが強化され、ハッキングの痕跡からNova Biotechの関与が疑われる証拠が浮上した。和也たちの訴訟準備も最終段階に入り、弁護士を通じて正式に提訴する日が決まった。
提訴当日、和也と春菜は法廷に立った。Nova Biotech側は全面否定の姿勢だったが、教授の分析データと被害者たちの証言が揃ったことで、裁判は彼らに有利に進んだ。メディアもこの奇妙な事件に注目し始め、世論がNova Biotechに圧力をかける形となった。
数ヶ月にわたる裁判の末、判決が下った。Nova Biotechは「GeneX-17」の非公開実験を認め、被害者への補償と製品の回収を命じられた。和也たちの勝利だった。

裁判が終わり、和也と春菜はようやく元のマンションに戻った。Nova Biotechの脅威が去り、二人の生活は再び平穏を取り戻しつつあった。
ある晩、二人は夕食を食べながら、これからのことを話し合った。
「和也、元に戻る方法が見つかったら、どうする?」春菜が穏やかに尋ねた。
和也はフォークを置いて、少し考えた。
「正直、もうこの姿に慣れちゃったよ。営業の仕事も楽しいし、新しい自分を受け入れてる。でも、もし君が前の僕に戻ってほしいって言うなら…」
春菜は笑って首を振った。
「そんなこと言わないよ。あなたが幸せなら、私も幸せだから」
和也は春菜の手を取り、微笑んだ。
「ありがとう。君と一緒にいられるなら、どんな姿でもいいよ」
その後、佐藤教授から連絡があり、X因子の研究が進展していることがわかった。GeneX-17の抑制剤が開発されつつあり、希望すれば和也の変化を元に戻すことも可能になるかもしれないという。
しかし、和也はその選択を保留した。彼は春菜と相談しつつ、自分が今いる場所で生きていくことを選んだ。営業部での成功、新しい友人たち、そして春菜との絆――それらが彼にとって大切なものだった。
数年後、和也と春菜は小さな家族を築いていた。和也の外見は変わらないままだったが、彼の内面は以前の控えめさと新しい自信が融合した、穏やかで強いものになっていた。春菜もまた、和也の変化を受け入れ、二人の関係はかつてないほど深まっていた。
奇妙な出来事から始まった二人の物語は、多くの試練を乗り越え、愛と信頼で結ばれた新たな未来へと続いていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...