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勇者は再び女神を武器化する
しおりを挟む僕は女神セレネーの武器化に成功した。
作戦が見事に成功して歓喜したいところだが、まだ油断はできない。目の前には二人の女神がいるのだ。一人は深手を負っているが、一人は無傷。彼女たちに一瞬たりとも反撃の隙を与えてはならない。
この弓── 「月弓クレッセント」と名付けよう──で、もう一度光の矢の雨を見舞ってやる。
月弓クレッセントの青白く光る弦をキリキリと引くと、そこに美しく光り輝く矢が現れた。
リムが小気味の良い音でしなる。限界まで弦を引いた僕はアマテラス目がけて光の矢を解放した。一本の矢が無数の矢になり広範囲に飛んでいく。その美しさはまるで夜空を駆け抜ける流星群のようである。
アマテラスは紅蓮の炎でその無数の光の矢を焼き払う。こちらにもその凄まじい熱風が襲いかかる。僕はマントでそれを防いだ。この世に一匹しかいないと言われていたエメラルドドラゴンの皮を鞣して作ってもらったマント。耐寒、耐火に抜群の性能を誇る。
「くっ……」
アマテラスが漏らす苦しそうな声が聞こえた。
マントの陰から様子を窺うと、光の矢が彼女の右肩や右脇腹に突き刺さっていた。紅蓮の炎でも防ぎきれなかったのだろう。
アマテラスの身体が突然炎に包まれた。彼女の纏っていた真紅のローブや付き刺さっていた光の矢が焼失し、一糸纏わぬ姿になっていくアマテラス。
あの真紅のローブは決して燃えることはないと聞いたことがあったのだが、それをいとも簡単に塵にしてしまった。恐らく想像もつかないほどの超高温のオーラを放出したのだろう。
アマテラスの周辺の空間がグニャグニャと蠢いている。あのオーラを纏っているアマテラスに近づくのは明らかに危険。ならば、もう一度光の矢を放つのみ。
『──勇者、アテナにも注意して!』
突然、頭の中に響く聞き覚えのある声。
アテナの方を見る。アテナが構えるアイギスの盾から、石の棒のようなものがボロボロと床に落ちていた。突き刺さっていた光の矢を石化したようだ。
『アイギスの盾の能力の一つ、石化。あのメデューサの目が光っている時は絶対に見てはいけないよ』
この甘ったるい声の主、忘れもしない──
『女神セレネー! 今どこに? そしてなぜ僕に味方する?』
『え? どうしてって、私は貴方の武器だからに決まってるでしょ。私は貴方が今握っている弓──貴方の目となり、腕となって敵を射抜くことが役目なんだから』
なるほど。そういうことか。話す武器、なかなか面白いではないか。
僕はアテナの動きを牽制すべく、光の矢を何度もアテナに向かって放った。アテナは光の矢をアイギスの盾でことごとく防ぐ。
アテナの周りに積み上がっていく瓦礫。玉座の面影はもはや消え失せ、主を失った魔王城に相応しい廃墟と化していた。
『私の力はまだまだこんなものじゃないからね。もう一つの力見せてあげる!』
セレネーがそう言うと、月弓クレッセントのリムの部分が白く光り、弦の部分が真っ黒になった。
ただならぬ妖気を帯びたその黒い弦を引くと、黒いゆらゆらとした不気味な矢が現れた。
『アマテラスに撃って!』
僕はセレネーに言われるがまま、アマテラスに向かってその黒い矢を放った。アマテラスは紅蓮の炎で迎え撃とうとするが、その黒い矢は豪炎を突き抜け、アマテラスの腹部をも貫通して、床の中に消えていった。
アマテラスは何が起こったのか呑み込めていないようだったが、僕には直感でそれが理解できた。武器化の能力のおかげだろう。武器の効果も自分の身体のことのように解るのだ。
アマテラスが口から血を噴き出し、その場にうずくまった。
「アマテラス!」
叫ぶアテナ。僕はすかさずアテナにも黒い矢を放った。アテナはその黒い矢をアイギスの盾で受けようとせず、右に転がりながら避けた。アテナも直感でこの黒い矢の恐ろしさを察知したのだろう。
そう、この黒い矢は防御不可能。実体を持たない影の矢だが、突き抜けた対象にはしっかりとダメージが残る。つまり、アマテラスの腹の中はぐちゃぐちゃになっているということ。
アマテラスがよろめきながら立ち上がった。荒い呼吸と共にたわわな乳房が揺れている。
「……その影の矢もろとも消し炭にしてやりましょう」
アマテラスが両手を広げると、彼女の目に炎が宿り、彼女の赤い髪が炎の様に燃えだした。
アマテラスの周りの空気が陽炎のように揺らめき、見たこともない様な黒い火花が散る。床が沸騰し、マグマの様に溶けていく。
『危険だわ、あれは──』
セレネーの声に焦りがにじむ。僕はマントで辛うじてその熱風を防ぐが、そのマントさえ燃えてしまいそうなほどだ。
「がはっ!」
アマテラスが大量に吐血し、膝をつくのが見えた。僕はアテナの様子を横目で窺い、アマテラスに加勢してこないことを確認する。
ここは時間との戦いだ。アマテラスの体力が持つか、このマントが持つか。尋常ではない温度に意識が朦朧としてくる中、僕はアマテラスが力尽きるのを待った。
アマテラスは再度吐血すると、どさっと横倒しになった。急激に下がり始めるあたり一帯の温度。
僕はマントに身を隠しながら、急いでアマテラスの元へ駆け寄った。
倒れてもなおアマテラスの身体から放出され続ける炎の触手。このマントがないと近寄れさえしなかっただろう。
裸で横たわるアマテラス。僕は露わになった彼女の恥部に目を奪われてしまう。髪の色と同じ赤い毛がうっすらと生えていたのだ。
女神にも人間と同じように恥毛が生えていることに感動を覚える。ここに横たわっているのは一人の乙女。女神と言えど、肉体を持つ限りは生身の人間と同じ。ならば、僕の壮大な夢は叶うかもしれない。
僕は焼ける様な熱さを堪えながら、彼女のはち切れんばかりの胸に触れた。
「〈万物武器化〉」
セレネーの時と同じように僕の身体から立ちのぼった黒い瘴気がアマテラスを覆った。そして、その瘴気は僕の右手と左の腰に集中していく。瘴気が去った後の床にはもうアマテラスの姿はなかった。
僕の右手に現れたのは、轟々と紅蓮の炎が燃え盛る細長い刀だった。左腰には真紅の帯の巻かれたような鞘が現れた。これがアマテラスが武器となった姿か。
この武器をすぐに試してみたい。僕はアイギスの盾に身を隠しながらこちらの隙を窺うアテナを睥睨した。
『アマテラスちゃんにバトンタッチね。わかったよぉ』
セレネーがそう言うと、左手の月弓クレッセントが黒い瘴気となって消えた。入れ替わって聞こえてくるアマテラスの声。
『──勇者リュカ。私を凌駕したその力に敬服します。此度は私が貴方の刃となりて敵を屠って差し上げましょう』
先ほどまで敵対していたアマテラスの豹変ぶりには強烈な違和感を感じたが、これも能力のせいだと割り切ってしまう。
『女神アマテラス、よろしく頼む。一つ聞きたいのだが、最後に君が使おうとしていたあの技は?』
『〈天照〉といって、私が擬似太陽となり、あの場を焦熱地獄に変えてしまう大技です。影だろうが、何だろうが塵一つ残さず焼き尽くしてしまうでしょう』
武器になっても相変わらず暑苦しさを感じさせるアマテラス。
『そうか。あの影の矢でさえもか。その技は僕も使えるのかい?』
『もちろんです。少し違う形になりますが──危ない!』
僕の頰をかすめた黄金の刃。アテナの持つ黄金色の剣から放たれた剣撃だ。アテナはアイギスの盾を構えず、剣の切っ先をこちらに向けたまま微笑んでいた。
破壊された天井から差し込む月光と、それに映えて黄金に輝く美しき女神がそこに幽玄の空間を生み出しているようだった。
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