ヤンデレ美少女は最強だけど、ダンジョン攻略するには向いていない

はな

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第1話 はじまりの音

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 いつからだろう、俺の後をつけてくるストーカーが現れたのは。
 最初は気のせいだと思っていたが、いつも誰かに見られているような気がしてならない。急に振り返ると、影がひょこっと引っ込む。

 怨みがあるのか、恋心があるのか、いずれにしても不気味に思った俺は待ち伏せしてその正体を暴き、目的を問おうとした。
 結果としては逃げられてしまい後ろ姿しか見えなかった……が、性別だけはなんとか知ることが出来た。
 ストーカーの正体は、俺と同じ高校生くらいの女の子だった。ちなみに、見覚えはない。

 顔は見えなかったが、振り向けば可愛んだろうなという雰囲気をなんとなく感じさせている、そんな女の子だった。

 しかし、いくら可愛いからってストーカー行為を働く奴がまともなはずがない。少なくとも実害は無かったので俺は警察に相談することもなく、彼女をずっと放置していた。

 慣れというのは怖いもので、放置しているうちにそんな非日常が日常になってしまっていた。ストーカーの彼女をその辺に転がっている石ころ程度にしか思わない、風景みたいなもんだと思うようになっていた。

 幽霊が視える人もきっとこんな感じなのだろう。


 閑話休題。

 その日、俺は学校の屋上にいた。
 何か用があるわけでも無かったのだが、不思議と屋上に行って風に当たりたい気分だった。
 屋上から見える町の景色は壮観だが、空は牢獄のような曇天だ。呆然とその風景を眺めていると、死神が手招きしているかのように、思い切りここから飛び降りたい衝動に駆られる。

「あーあ、こんな世界めちゃくちゃになってくれねえかな」

 気がつけば俺はこんなことを呟いていた。
全世界を巻き込んだ自殺。
 俺は無意識下で破滅を願っていた。
 特別な悩みとかがあるわけではない。退屈な日常がこの先もずっと続いていくのが嫌で、心が沸きたつような日常を望んでいた。

 だが、そんなことを呟いたところで、何も変わらないことくらい知っている。高校生にもなって痛い台詞を吐いちまったなあ、と思っていると、

「じゃあ、めちゃくちゃにしてみる?」

 突然、後ろから女の子の声が返ってきた。
おかしい。屋上には俺以外誰もいなかったはずなのに、なんでこんなところに人がいる?

 振り返ると、そこには黒い目隠しをした、ツインテールの少女が小悪魔的な笑みを浮かべて立っている。俺はそんな彼女の姿に見覚えがあった。

 俺のことをずっとつけてきているストーカー少女。
 制服を来ているが、この学校のものでは無い。何処の学校だ? 近所では見たことがない。

「……お前だな、前からずっと俺の後をつけていたのは。何が目的だ?」
「あはは、そんなマジにならないでよ。カケルくん?」
「なぜ俺の名前を知っている!? そして、お前は何者なんだ!?」

 俺は感情を露わにして叫ぶ。

「わたしはルナ。知っているのは名前だけじゃないよぉ。カケルくんの身長は171センチ、体重は58キロ、峰ヶ原高校に通う高校2年生で、彼女は今までに出来たことは無し、友達は5人で、親友と呼べるのは2人。毎日購買でメロンパンを買っている。趣味は漫画を読むこと。週のオナニーの頻度は……」

 ズラズラと語られる俺しかしらないであろう日常生活の秘密。

「って、もういい! お前が今まで俺にストーカーをしていたのはどうしてなんだ!?」

ルナという少女が述べたことは全て事実だった。それだけに俺の私生活が覗かれているようで背筋がゾクゾクする。これらもストーカー行為を働いて知り得た情報なのだろうか。

「ルナはね、カケルくんの側でしか生きられないの」
「は、はあ? お前急に何を言っているんだ?」

 予想もしていなかった答えに俺は拍子抜けしてしまう。

「カケルくんは、どうしてルナが目隠しをしているのか分かる?」
「知らねえよ……スイカ割りでもする気か?」
「あはは! 違う違う、ルナは目が見えないの。可哀想でしょう?」
「目が見えないって、それが俺の近くで生きられないのとどう関係あるんだよ」
「カケルくんは、

 ルナは俺の目と自分の目を交互に指をさしながら説明する。

「いやいや、意味が分からんて」
「ルナが見ている光景はカケルくんが見ている光景、カケルくんの視覚情報がルナの中に流れ込んで来ているんだよ」
「は、はあ? なんだよそれ、俺の目がカメラみたいな役割をしているって言いたいのか? 有り得ないな。もしそうだとして、どうして俺なんだよ」

 この子は一体何を言い出すんだ。そう思って彼女の方をチラリと見る。

「それはルナにも分からない……あ、今ルナのおっぱい見たでしょう?」
「み、見てねえし」

 とは言ったものの、実は少しだけ視線をルナの胸の方に向けていた。偶然だとは思うが心臓がドキリと跳ねる。

「もー、まだ信じてないでしょう。後ろを向くから、ルナの体のどこでもいいから好きなところを見てみてよ。当ててみせるから」
「お、おう……」

 ルナが後ろを向くので俺は言われた通り、ルナの好きなところを見つめてみる。後ろを向いているのだから相手に分かるはずがない。ないのだが……、

「今見ているのはルナの左太もも」

 や、やべえ……当たっている。

「次は右の肩甲骨」

 またしても正解だ。

「今度はルナのおしり……もー、カケルくんってばえっち」

 嘘だろ、なんで分かるんだ……。

「どう? 信じてくれた?」
「まあ、非現実的すぎて半信半疑ってのが正直なところだな」
「仕方がないから今はそれで許してあげる」

 そう言ってルナは目隠しをしたまま笑顔を見せてくる。

「それよりもさ、カケルくん。こんな世界クソみたいだなって思っているんでしょう? ふふっ、わたしもだよ」
「……別にそう思ったところで何も変わったりはしないさ」

 俺が諦めたように言うと、

「本当にそうかな?」
「当たり前だろ。この世界はこれからもずっとくだらない日常を永遠と繰り返していくんだ」
「ううん。わたしは今日で世界が終わると思うな。だからカケルくんに会いに来たんだよ」
「何を根拠に……」
「実はね、今日は世界が滅ぶほどの大地震が起こるって予言されている日なんだよ。かつて滅んだ古代文明の予言書に書かれているとかなんとか」

 もはや恒例となってしまっている終末論。

「お前、そんなの信じているのか? 確かにネットとかで話題になっていたけど、あんなのはデマに決まってる」

 俺が否定するもルナは耳を傾ける予定はない。とんだ電波少女だ。

「予言されている時間は午後5時55分。ちょうどあと10秒だね」
「だからデマだって、」
「じゅーう、きゅーう……」

 などと言っている間にもルナが勝手にカウントを始める。
 俺はただの痛いヤツだなと思いながらその様子を黙って眺めていた。

「はーち、なーな……」

 …………。

「ろーく、ごーお……」

 何故だろう、何も起こらないと分かっているのに、心がざわついている。

「さーん、にーい……」

 俺の心臓は今にも爆発しそうだ。カウントの一つ一つが永遠のように長く感じられる。そして――

「ゼロ」

 …………。

 ゼロ。ルナがカウントをやめた。
 腕時計を見ると既に5時55分。予言の時刻になっても何も起こらない。

「ぷっ」

 俺は思わず吹き出した。一瞬でも信じてしまった俺が馬鹿みたいだ。

「あはははっ!」

 ルナも俺に釣られたのか笑い出す。

「ちょ、何も起こらねえじゃん」
「あははははははっ!」
「……お前笑いすぎだろ」
「あははははははははははっ!」

 ルナは狂ったように笑っている。
 ちょうどその時だ。

 ガコン。

 という歯車が外れるような音が遠くで鳴り響く。木にとまっていた鳥たちが一斉に飛んでゆく。

 次の瞬間、地鳴りが聞こえ、今まで経験したことのないほどの大地震が街全体を襲った。

「おい……! これマジかよ!!」

 揺れはおさまるどころか更に大きくなっていっている。

 揺れが凄すぎて身体を支えながら地面を見つめるのが精一杯。周りを見ている余裕なんてない。
 立つことは不可能だった。うずくまっていても体がトランポリンの上にいるかのように跳ねている。恐怖のあまり、思わず目を瞑ってしまう。

「カケルくん、目を閉じないで! ルナの目が見えない!」

 隣で同じようにうずくまっていたルナが叫ぶ。
 そうか、俺の目はルナの目。ルナは俺を通して周りの様子を見ているんだった。
 揺られながらも必死で周囲の様子を観察する。

 気がつけば、校舎の外は暗黒に包まれていた。灰色の空がどんどん遠ざかっていっている。
 その時初めて校舎ごと地面の中に吸い込まれていることに気が付いた。

 バキバキバキッ、と何かが壊れるような音が響いてくる。何の音かと思ったら屋上の地面がひび割れる音だった。

「やばい、崩れる……!!」

 嫌な予感に限って的中する。

「うわあああああ!!!」

 ついに屋上の地面は崩れ、俺たちはそのまま校舎の中に落ちていく。

 背中に強い衝撃を受けた後、俺の意識は遠ざかっていった。
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