VRMMOで知り合った彼女がネカマのギルドマスターに寝取られていた

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#17 アイスブレイク

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≪コーラル湖≫

「敵撃破、次ッ!」

「体力も全回復状態です。いけます!」

「わかった! 氷砕くね!」

 そう言って氷漬けのモンスターに棍棒で攻撃を加え、氷を砕いてモンスターを自由にさせてやるモフモフ。

 俺たちは今、俺の提案した強敵でも安全かつ確実に倒せる戦い方でレベリングに取り組んでいた。

 モンスターの数が多く、囲まれると俺たちのレベルでは流石に相手をするのは厳しい。そこで、氷属性の魔法【フローズン】を使って、戦っていない周りのモンスターをあらかじめ凍らせておく。そうすれば無理やり1対3の戦いに持ち込めるので、安全に一体ずつ仕留めていくことが出来るのだ。

 攻撃については、モフモフが覚えている【魔力強化の詩】という魔力を増加させるスキルをアタッカーである俺に使うことで、魔法の火力はさらに上がり、低レベルの俺でも強敵にも通用する大ダメージを与えられる。

 もし敵から攻撃を受けてしまっても、ユリアの回復魔法で回復してくれるので、全滅なんてことはあり得ない。

 完璧だ。完璧な役割分担……ッ!

 俺たちは時間を忘れて、この作業を繰り返していた。名付けてアイスブレイク・レベリング。名前の通り、氷を壊すという意味もあるが、会話を交えながら戦闘をすることでユリアの緊張をほぐしてやるという意味もある。

 ふと湖を見れば、水面には大きな月が写っていてた。もう夜か。これだけ長く続けていれば、どんな人でも戦闘に慣れてしまうものだよね。レベルも効率もどんどん上がり、会話の量も増えてきた。

「エルフの最初の村ってどんなところなの~?」

 モフモフが棍棒で、モンスターの頭を殴りながらユリアに訊く。

「そうですね。エルフの村は森の中なんですよ。木の上に家を作っているんです」

 ユリアは退屈そうに杖でポカポカとモンスターを叩いている。

 レベル上げを始める前と今を比べると驚くほどの違いである。

 慣れだけではない。俺たちは強くなり過ぎたのだ。

「……それにしても、俺たちレベルめっちゃ上がったよな」

 ユリアのレベルは8から25に、モフモフのレベルは11から27、そして俺のレベルは21から34まで成長したのであった。

「あんなにレベルが上がりづらかったのに、狩場を変えるだけでここまで上がるなんて思わなかったです。シエルさん、いい狩場を教えてくれてありがとうございます」

 ユリアが嬉しそうに笑顔を向けてくる。

「まさか強敵相手のレベル上げがここまで旨いとは思わなかったよ。そういや経験値は通常の2倍だし、強いモンスターに挑めば挑むほど経験値も大きくなるわけだ」

「ねぇ~、もっと経験値がウマウマな場所知らないの~?」

 モフモフがそれでも不満そうに聞いてくる。このゆとり世代め。昔の俺たちは経験値が今の半分でシコシコとレベル上げをしていたというのに、まだ甘えるかっ!

 とは言えるはずもなく、一般人の感覚としてはやはりレベルは上がりづらく感じるものなんだろう。

「んー、今度行くときには調べてみるよ」

「やったー!」

 今はとりあえずテキトーな返事をしておく。もちろんウマウマな狩場はあるのだが、もう少し強力なスキルを手に入れないと今のままでは全滅してしまうと思う。スキルの習得は条件を満たしたうえで、そこから確率というふるいにかけられるので根気よく粘るしかない。

「【ダブルファイア】」

 激しい炎が角の生えたカンガルーもどきのモンスターを包むと、やがて光となって消えて行く。何度も見た光景だ。

【134の経験値 12ヴィルを獲得】


「ふぅ。一通り周囲のモンスターを片付けて、ようやく一息つけるような状態になれたな。結構の時間続けていたけど、みんな時間は大丈夫なのか?」

「ねむーい」

「あっ、そろそろ寝る時間なので落ちないと」

 モフモフはあくびをしながら、ユリアはメニューコマンドに表示されている時計を見て驚いていた。

「つい楽しくて時間を忘れちゃっていたみたいです。こんなに遊んだのは初めてかも。今日は誘っていただきありがとうございました」

「俺も楽しかったよ。こちらこそありがとう」

「うんうん、楽しかった!」

 ユリアがここでログアウトをしようとしたので慌てて止める。

「ちょっとタンマ! ここで落ちたらログインしたときに、いきなりモンスターに襲われてデスペナルティ食らっちゃうぜ? 一旦町に戻ろう」

「あ、そっか」

 なんて照れながら笑うユリアはちょっと可愛かった。


≪王都ウェスタンベル≫

 3人でワープリングを使い、ウェスタンベルの町まで戻ってきた。

 町に戻るたび、装備を新調するプレイヤーが少しずつ増えてきているような気がする。我が子の成長を見守る母親ってこんな気持ちなんだろうか。これがちょっとした楽しみになっていた。

「フレンドなろー?」

 俺が周囲を眺めている中、モフモフはユリアの顔を覗きながらそう尋ねていた。

「はい、喜んで。実はフレンド機能使うの初めてなんですよ。シエルさんもよろしいですか?」

「ああ」

「ありがとうございます」

「やったー! 2人目のフレンドだー!」

 モフモフが子供のようにはしゃいでいる。いや、もしかしたら本当に子供なのかもしれないけど。

【“ユリア”とフレンドになりました】

 これでフレンドは2人目か。始めたときはフレンドを増やすことは考えていなかったけれど、自然と増えてしまうものなんだな。

「お二人とも、今日は本当にありがとうございました。では今度こそ落ちますね。おやすみなさい」

「同じく寝るね~。おやすみん♪」

「長い時間ありがとな、ゆっくり休んでくれ」

【“ユリア”がパーティから外れました】

【“わたあめ”がパーティから外れました】

 そんな俺の言葉を最後に、2人は目の前でログアウトしていった。明日は学校なんだし、俺もログアウトして今日はもう寝るべきか迷う。

 迷った結果、もう少しこの世界に留まることにした。

 レベル上げでお金も貯まったし、俺もそろそろ装備を新調してもいい頃合いだろう。装備を買うために向かったのは防具屋……ではなく、冒険者マーケットである。

 冒険者マーケットでは、プレイヤーが作り出した装備や、アイテムなどがたくさん出品されている。ハイレベルな防具はなかなか手に入りづらく、値段も高いのだが、俺たちのように始めたばかりのプレイヤーが装備するような物であれば、入手も容易なために、投げ売りされているのが現状である。

 よって、NPCが経営している防具屋で購入するよりも、冒険者マーケットで購入した方が安く済むのだ。それが買い物上手というものなのだ。

 防具は魔術師のローブ、魔術師の靴とマジカルピアス。武器はシルフの杖を購入することにした。

 どれも魔力がアップする効果を持っていて、守備力もそれなりにある有能な防具である。武器のシルフの杖については、風の妖精の加護とか言って、魔法の詠唱速度を速めてくれるので、攻撃時の隙が大きい魔法使いにとってかなり重宝する。

「まいどありッ!」

 頭にターバンを巻いている冒険者マーケットの取り寄せ商に代金を支払い、装備を受け取って早速装備してみる。

 ―――――――――――――――――――――――――
【武器】シルフの杖

【頭】マジカルピアス
【体上】魔術師のローブ
【腕】なし
【体下】魔術師のローブ
【足】魔術師の靴

【アクセサリー1】なし
【アクセサリー2】なし
【アクセサリー3】なし
【アクセサリー4】なし

(所持スキル)
【リベリオンハート】
【毒耐性10%】
【鑑定】【投石】

(戦闘用スキル)
【ファイアボール】【ダブルファイア】【炎の紋章】
【フローズン】【アイスショット】
【クラック】
【オートミサイル】
―――――――――――――――――――――――――

 腕装備が空っぽなのが少し気になるけれど、やっぱり装備を新調する新しい自分になれたようで気分がいい。

 そんな新鮮な気分になったことで、今日こそはいい夢が見られるかな。最近はあんな出来事があったせいで悪夢続きだったから嫌になってしまうね。

 俺はギルドチャットで軽く挨拶をして、今度こそログアウトした。

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