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#39 残滓
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ピピーッ!
【ギルド《ディアボロス》の勝利です!!】
【ギルドランクA→A+にアップしました!】
ギルド戦終了を告げるホイッスルが鳴る。表示されたリザルト画面を見たけど、同じA帯に勝っても大して上がらないもんなんだな、と少しだけガッカリ。
「やった! 勝ちましたよ! シエルさん!」
小さな子供のように大はしゃぎするユリア。しかし勝ちは勝ち。不利な状況で勝てたことには俺も素直に喜ぶべきかな。
「ユリアが頑張って敵を引き付けてくれたお陰だ。ありがとな」
俺はユリアの頭にポンと手を乗せる。
「そ、そんなぁ……えへへ」
すると、ユリアはぐにゃぐにゃと照れ始めた。
そんなユリアが元に戻るのを待ち、破牙の狼のギルドマスターに挨拶をしてこようと2人で相手ギルドのいる方に向かうことにした。
礼に始まり礼で終わる。サムライの国に生まれた男の子として、武道の精神を持つことは勝敗よりも大切なことなのである。
「おわっ」
「! シエルさん、大丈夫ですか?」
向かっている途中、足場が悪いのでこけそうになる。しかも目の前には破牙の狼のギルド御一行様がいるではありませんか。ぎゃー、恥ずかしい。穴があったら入りたい。無いから仕方なく2人で斜面の陰に隠れたんだけど、それが大当たりだった。破牙の狼の雰囲気は思った以上にどんよりとしていて、挨拶どころでは無かったのだ。武道の精神もこの雰囲気には勝てない。
「私たちが今まで頑張って上げてきたギルドランクなのに……。もう少しでSランクまで行けると思ったのに……」
破牙の狼のギルドマスター、モチツキはその場で崩れ去り、世界の終わりのような顔をしていた。勝ちを確信していたからこそ、ダメージも大きいのだろう。周囲のギルドメンバーたちも、絶望に似た表情を浮かべている。
……うわぁ、挨拶なんて出来るような雰囲気じゃないぞ。めっちゃシリアスな雰囲気じゃん。
ここでギルドメンバーがモチツキに慰めの言葉をかけてあげるんだろうな、とか思っていたのだが、出てきた言葉は予想にしていないものだった。
「あーあ。ギルドマスターが突然ギルド戦なんか挑むって言うからこうなるんだ! いつも通りギルド依頼をこなしてさえいれば、ランクBまで下がることにはならなかったのになあ!」
――おいおい、仲間割れかよ。負けた途端、責任を全てギルドマスターに擦り付けるとかひでぇな。
「モチツキ、テメーが油断するからこうなったんだ、どうすんだよ、これ! 今までの俺たちの時間を返せよ!」
その声に続き、他のギルドメンバーたちもモチツキのせいにし始める。
「みんな……ごめん……」
モチツキは今にも泣きだしそうな声で俯く。そんな彼女を囲うようにして、ギルドメンバーたちはモチツキを責め始めた。気の強そうなモチツキだったけど、今ではすっかり弱気になってしまっている。モチツキのことばかり責めているけどさ、君たちもノリノリじゃなかったか?
「ひどい……」
ユリアが俺の横で小さな声で呟く。
こういうのを見るとギルド戦は魔物だな、と思う。ランクの上下に関わるものだけに、負けた時のショックが大きい。今までコツコツやってきたものが崩れてしまったのだから、苦労がパーになってしまう。
「……こうなったら責任取って辞めてもらわないといけないですね」
メガネをしたギルドメンバーの男がボソッと呟く。すると、周りも便乗したように「ギルドマスターなんかクビだぁ!」「破牙の狼から出ていけ! この戦犯!」とか騒ぎ立て始める。
おいおい、やべーな、DOMの民度……蜥蜴の尻尾切りかよ。
今まで力を合わせて頑張ってきた仲間じゃないのか? Bランクに下がっただけなんだし、またコツコツとやっていけばいいんじゃないのか?
それでも火がついたようにブーブーと騒ぎ立てる破牙の狼のギルドメンバーたち。
もう、この騒ぎを落ち着かせる方法は1つしかないと彼女も悟ったのだろう。モチツキは立ち上がり、決意したような顔でこう宣言した。
「分かった。私、このギルドのギルドマスターを引退する! そして、このギルドからも抜けます。これからのギルドマスターはワタナベ、貴方に任せるわ」
「え、俺っすか。りょーかいっす」
ワタナベというドワーフの男はやる気の無さそうな声で返事をする。ギルドメンバーたちも納得したように「まぁ、それなら……」って感じに騒ぎは徐々に鎮まっていった。
モチツキはすぐにメニューウィンドウを開いて、ギルドマスター権を委譲する手続きをし始めた。
「……みんな今までありがとう。私の勝手な判断で迷惑をかけちゃってごめんね。破牙の狼のこと、応援しているから! それじゃ!」
モチツキは笑顔で元メンバー達に大きく手を振り、逃げるように元の場所に帰還するゲートを開いて消えて行った。その笑顔は哀しみを隠して無理やり作った笑顔だっていうことを俺は知っている。
これでいいのかよ……モチツキ。そっちの事情は分からないけどさ、そんな簡単に今まで勤めてきたギルドから抜けてしまってもいいのか。ギルドメンバーもそうだ。負けた腹いせに彼女を責めて気を晴らしているだけじゃないか。
「ふー、アイツが居なくなってせいせいしたわ。ギルド依頼に必死になってくれるお陰で、ギルドランクの特典の恩恵受けられたから今まで何も言わなかったけど、そうじゃなかったらあんな熱血について行けるかよ」
「それにこれ以上ギルド戦を行われてランク下がったらワープリングの使用回数も減っちまうからな、ハハハ!」
……なるほど、破牙の狼に所属していたのはギルドランクの特典目当てだったのか。お前達がモチツキのことをもう必要ないというのであれば、俺がもらい受けるぞ。
「ユリア、俺ちょっと行ってくる!」
「私も行きます!」
2人でモチツキを追うことにした。
≪シャルーアの町≫
モチツキはあずき色の髪にロリっ子と、特徴的な見た目をしているため、探し出すのは思ったよりも容易なことだった。
高台から町に戻るまでの道のりをとぼとぼと歩いていた彼女に走りながら声を掛ける。
「待てよ、モチツキ!」
俺に名前を呼ばれてビクッと体を震わせるモチツキ。振り向いたその顔は、何もかも失ってしまったという諦めの顔をしていた。
「あなた達、ディアボロスの……私に一体何の用?」
「お前、破牙の狼のギルドを抜けたんだってな」
「見ていたの?」
「ご、ごめんなさい……」
ユリアは小さく頭を下げて謝ると、モチツキは小さく溜息を吐く。
「ハハ……見られていたならしょうがねーな。私はもうあのギルドに必要ないんだってさ。私の独断でギルド戦を決断してあなた達に敗北。その結果、メンバーたちから反感を買って、今まで積み上げてきた何もかも失ってしまったよ。強豪ギルドになりたいっていう夢ももう終わりさ……」
そう話すモチツキの目は酷く悲しげだった。傲慢ゆえに全てを失うことになったモチツキは、かつての俺を見ているようだった。
そう考えていたら、自然と言葉が先に出ていた。
「モチツキ、俺のギルドに入るといい」
ユリアも俺に同調したように俺の隣で頷く。
「えっ、何を突然……」
予期せぬ言葉に目を丸くするモチツキ。
「お前の夢はまだ終わっちゃいない。その夢、俺たちが叶えてやろう」
「そんな、出来るわけないじゃない」
俯くモチツキ。だが、ここで止まってはいけない。強豪ギルドにすること、それは俺の目的でもあり、利害が一致しているんだ。
「モチツキ、お前が入ってくれるならば、それは可能になる」
「私たちの仲間になってください!」
すかさず、俺はメニューウィンドウを操作してモチツキをギルドに誘う。
【“モチツキ”をギルドに誘いました】
この人材、逃してしまうのは勿体無い。モチツキの暗殺スキルは今後役に立つし、ディアボロスのメンバーも欲しいところだったんだ。彼女が入ってくれればいい戦力になってくれるはずだ。
「……強引だな」
モチツキの表情から緊張が消え、代わりに笑みが浮かぶ。
「私のギルドマスターは強引なんです」
と、笑うユリア。
「フッ……いいだろう。シエル、その夢を絶対に叶えてもらうぞ」
「ああ、約束しよう」
【“モチツキ”がギルドに加入しました】
【ギルド《ディアボロス》の勝利です!!】
【ギルドランクA→A+にアップしました!】
ギルド戦終了を告げるホイッスルが鳴る。表示されたリザルト画面を見たけど、同じA帯に勝っても大して上がらないもんなんだな、と少しだけガッカリ。
「やった! 勝ちましたよ! シエルさん!」
小さな子供のように大はしゃぎするユリア。しかし勝ちは勝ち。不利な状況で勝てたことには俺も素直に喜ぶべきかな。
「ユリアが頑張って敵を引き付けてくれたお陰だ。ありがとな」
俺はユリアの頭にポンと手を乗せる。
「そ、そんなぁ……えへへ」
すると、ユリアはぐにゃぐにゃと照れ始めた。
そんなユリアが元に戻るのを待ち、破牙の狼のギルドマスターに挨拶をしてこようと2人で相手ギルドのいる方に向かうことにした。
礼に始まり礼で終わる。サムライの国に生まれた男の子として、武道の精神を持つことは勝敗よりも大切なことなのである。
「おわっ」
「! シエルさん、大丈夫ですか?」
向かっている途中、足場が悪いのでこけそうになる。しかも目の前には破牙の狼のギルド御一行様がいるではありませんか。ぎゃー、恥ずかしい。穴があったら入りたい。無いから仕方なく2人で斜面の陰に隠れたんだけど、それが大当たりだった。破牙の狼の雰囲気は思った以上にどんよりとしていて、挨拶どころでは無かったのだ。武道の精神もこの雰囲気には勝てない。
「私たちが今まで頑張って上げてきたギルドランクなのに……。もう少しでSランクまで行けると思ったのに……」
破牙の狼のギルドマスター、モチツキはその場で崩れ去り、世界の終わりのような顔をしていた。勝ちを確信していたからこそ、ダメージも大きいのだろう。周囲のギルドメンバーたちも、絶望に似た表情を浮かべている。
……うわぁ、挨拶なんて出来るような雰囲気じゃないぞ。めっちゃシリアスな雰囲気じゃん。
ここでギルドメンバーがモチツキに慰めの言葉をかけてあげるんだろうな、とか思っていたのだが、出てきた言葉は予想にしていないものだった。
「あーあ。ギルドマスターが突然ギルド戦なんか挑むって言うからこうなるんだ! いつも通りギルド依頼をこなしてさえいれば、ランクBまで下がることにはならなかったのになあ!」
――おいおい、仲間割れかよ。負けた途端、責任を全てギルドマスターに擦り付けるとかひでぇな。
「モチツキ、テメーが油断するからこうなったんだ、どうすんだよ、これ! 今までの俺たちの時間を返せよ!」
その声に続き、他のギルドメンバーたちもモチツキのせいにし始める。
「みんな……ごめん……」
モチツキは今にも泣きだしそうな声で俯く。そんな彼女を囲うようにして、ギルドメンバーたちはモチツキを責め始めた。気の強そうなモチツキだったけど、今ではすっかり弱気になってしまっている。モチツキのことばかり責めているけどさ、君たちもノリノリじゃなかったか?
「ひどい……」
ユリアが俺の横で小さな声で呟く。
こういうのを見るとギルド戦は魔物だな、と思う。ランクの上下に関わるものだけに、負けた時のショックが大きい。今までコツコツやってきたものが崩れてしまったのだから、苦労がパーになってしまう。
「……こうなったら責任取って辞めてもらわないといけないですね」
メガネをしたギルドメンバーの男がボソッと呟く。すると、周りも便乗したように「ギルドマスターなんかクビだぁ!」「破牙の狼から出ていけ! この戦犯!」とか騒ぎ立て始める。
おいおい、やべーな、DOMの民度……蜥蜴の尻尾切りかよ。
今まで力を合わせて頑張ってきた仲間じゃないのか? Bランクに下がっただけなんだし、またコツコツとやっていけばいいんじゃないのか?
それでも火がついたようにブーブーと騒ぎ立てる破牙の狼のギルドメンバーたち。
もう、この騒ぎを落ち着かせる方法は1つしかないと彼女も悟ったのだろう。モチツキは立ち上がり、決意したような顔でこう宣言した。
「分かった。私、このギルドのギルドマスターを引退する! そして、このギルドからも抜けます。これからのギルドマスターはワタナベ、貴方に任せるわ」
「え、俺っすか。りょーかいっす」
ワタナベというドワーフの男はやる気の無さそうな声で返事をする。ギルドメンバーたちも納得したように「まぁ、それなら……」って感じに騒ぎは徐々に鎮まっていった。
モチツキはすぐにメニューウィンドウを開いて、ギルドマスター権を委譲する手続きをし始めた。
「……みんな今までありがとう。私の勝手な判断で迷惑をかけちゃってごめんね。破牙の狼のこと、応援しているから! それじゃ!」
モチツキは笑顔で元メンバー達に大きく手を振り、逃げるように元の場所に帰還するゲートを開いて消えて行った。その笑顔は哀しみを隠して無理やり作った笑顔だっていうことを俺は知っている。
これでいいのかよ……モチツキ。そっちの事情は分からないけどさ、そんな簡単に今まで勤めてきたギルドから抜けてしまってもいいのか。ギルドメンバーもそうだ。負けた腹いせに彼女を責めて気を晴らしているだけじゃないか。
「ふー、アイツが居なくなってせいせいしたわ。ギルド依頼に必死になってくれるお陰で、ギルドランクの特典の恩恵受けられたから今まで何も言わなかったけど、そうじゃなかったらあんな熱血について行けるかよ」
「それにこれ以上ギルド戦を行われてランク下がったらワープリングの使用回数も減っちまうからな、ハハハ!」
……なるほど、破牙の狼に所属していたのはギルドランクの特典目当てだったのか。お前達がモチツキのことをもう必要ないというのであれば、俺がもらい受けるぞ。
「ユリア、俺ちょっと行ってくる!」
「私も行きます!」
2人でモチツキを追うことにした。
≪シャルーアの町≫
モチツキはあずき色の髪にロリっ子と、特徴的な見た目をしているため、探し出すのは思ったよりも容易なことだった。
高台から町に戻るまでの道のりをとぼとぼと歩いていた彼女に走りながら声を掛ける。
「待てよ、モチツキ!」
俺に名前を呼ばれてビクッと体を震わせるモチツキ。振り向いたその顔は、何もかも失ってしまったという諦めの顔をしていた。
「あなた達、ディアボロスの……私に一体何の用?」
「お前、破牙の狼のギルドを抜けたんだってな」
「見ていたの?」
「ご、ごめんなさい……」
ユリアは小さく頭を下げて謝ると、モチツキは小さく溜息を吐く。
「ハハ……見られていたならしょうがねーな。私はもうあのギルドに必要ないんだってさ。私の独断でギルド戦を決断してあなた達に敗北。その結果、メンバーたちから反感を買って、今まで積み上げてきた何もかも失ってしまったよ。強豪ギルドになりたいっていう夢ももう終わりさ……」
そう話すモチツキの目は酷く悲しげだった。傲慢ゆえに全てを失うことになったモチツキは、かつての俺を見ているようだった。
そう考えていたら、自然と言葉が先に出ていた。
「モチツキ、俺のギルドに入るといい」
ユリアも俺に同調したように俺の隣で頷く。
「えっ、何を突然……」
予期せぬ言葉に目を丸くするモチツキ。
「お前の夢はまだ終わっちゃいない。その夢、俺たちが叶えてやろう」
「そんな、出来るわけないじゃない」
俯くモチツキ。だが、ここで止まってはいけない。強豪ギルドにすること、それは俺の目的でもあり、利害が一致しているんだ。
「モチツキ、お前が入ってくれるならば、それは可能になる」
「私たちの仲間になってください!」
すかさず、俺はメニューウィンドウを操作してモチツキをギルドに誘う。
【“モチツキ”をギルドに誘いました】
この人材、逃してしまうのは勿体無い。モチツキの暗殺スキルは今後役に立つし、ディアボロスのメンバーも欲しいところだったんだ。彼女が入ってくれればいい戦力になってくれるはずだ。
「……強引だな」
モチツキの表情から緊張が消え、代わりに笑みが浮かぶ。
「私のギルドマスターは強引なんです」
と、笑うユリア。
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