最強勇者の物語2

しまうま弁当

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第4章 ホルムス共和国

勇者接近中

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今日はパルゲア歴752年6月12日である。

ここはジール公国のソルト村である。

この村はレグナス王国との国境線近くにある。

ソルト村には白い石造りの平屋がおよそ五十軒並んでいた。

村の周辺は一面水田地帯になっており、のどかな風景が広がっていた。

だが今ソルト村の村人達はパニックになっていた。

そう勇者接近中の報を聞いたからである。

村人の一人が隣にいる村人に言った。

「どうすりゃいいんだ?もうすぐ勇者がやって来るぞ、おら達野蛮な勇者に殺されちまうぞ。」

隣の村人が答えた。

「そんなのこっちが知りてーよ!勇者は血に飢えているんだ。逃げても地の果てまで追っかけてくるぞ!」

別の民家では母と子が抱き合って泣いていた。

子供が母に泣きながら言った。

「うわーん、お母さん勇者がやってくるよーー!恐いよー!」

すると母が娘を抱きしめながら言った。

「大丈夫よ。お母さんが悪い勇者を追い払ってあげるわ、だから泣かないで。」

また別の民家では老夫婦が会話をしていた。

年配の男性が年配の女性に言った。

「今まで色々と助かったよ、こんな偏屈な男に付き合ってくれて感謝してる。」

すると年配の女性が年配の男性に答えた。

「ええ分かってますよ。例え勇者に殺されても私達の絆は永遠に消えませんよ。」

村人のほぼ全てが、勇者接近中の報を聞き絶望していた。

村の中央にはジール公国正騎士団の騎士達と青い礼服を着たローシャン男爵がいた。

騎士の一人がローシャン男爵に報告した。

「村人達が勇者接近中の報に混乱しています。」

ローシャン男爵が騎士の一人に答えた。

「すぐに避難を始めて欲しかったが、まずは落ち着いてもらわないと駄目だな。」

するとローシャン男爵が別の騎士に尋ねた。

「大公様はいつ到着される予定だ?」

騎士がローシャン男爵に答えた。

「間もなく到着されるかと。」

ローシャン男爵が騎士に言った。

「そうかでは大公様にお願いするとするか。」

その後ジール大公を乗せた蒸気自動車の車列が、ソルト村にやって来た。

ローシャン男爵はすぐにジール大公の元に向かった。

ジール大公はローシャン男爵から事情を聞くと、すぐにソルト村の中心部に向かった。

ジール大公がやって来たと知った村人達は、すぐにソルト村の中心部の広場に集まった。

村人の一人がジール大公に尋ねた。

「大公様、勇者がこの村にやって来るというのは本当でごぜーますか?」

ジール大公がその村人に答えた。

「ああ、本当だ。だから皆の者には隣町のマルディーヤまで避難してもらいたい。もちろん避難している間の補償はさせてもらう。」

別の村人がジール大公に尋ねた。

「この村はどうなるんですか?勇者がこの村を焼いてしまうのでは?」

ジール大公が村人に答えた。

「安心してほしい。この村は卑しい勇者から必ず守る。そして卑しい勇者は必ず討ち果たそう。だから安心してマルディーヤに避難してもらいたい。」

村人の一人が言った。

「そうだ、ジール大公様に任せておけば安心だ。」

別の村人が言った。

「ジール大公様なら必ずやってくれるさ。」

年配の男性が皆に言った。

「そうじゃな、こんな時こそ冷静にならねば。この村は大公様にお任せして、わしらはマルディーヤに避難するとしよう。」

ようやくソルト村の村人達は落ち着きを取り戻し、マルディーヤへの避難が始まった。
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