最強勇者の物語2

しまうま弁当

文字の大きさ
上 下
248 / 265
第5章 アグトリア動乱

撤退戦

しおりを挟む
午後1時になった。



ジフロル軍の左翼部隊を率いていたレイドスは馬にまたがって撤退を始めたロイの部隊を見ていた。

レイドスの部下がレイドスに言った。

「敵が後退を始めましたな。」

レイドスが部下に言った。

「ああ。」

部下がレイドスに言った。

「どうされます?若?」

レイドスが部下に言った。

「もちろんドロメを追撃する。ドロメの奴らを追い回してやるぜ!」

部下がレイドスに言った。

「了解しました、ですが若、あまり突出しないでください。」

レイドスが部下に言った。

「ああ分かってるさ。」

レイドスは馬に乗ったまま大声で指示を出した。

「さあみんな、ドロメの奴らを追いかけるぞ!俺に続け!!」

レイドスの部下達が大声で答えた。

「おおー!」

レイドスはそう言うと馬を走らせた。

レイドスの部下達もそれに続いた。

こうしてレイドスの部隊はロイの部隊の追撃を始めた。



一方こちらは退却の指示を出したロイの部隊である。

ロイの部隊は南に向かって退却していた。

ロイは退却の指揮していた。

ロイが大きな声で言った。

「遅れるな、急いで進むんだ!!」

ロイの部下の一人がロイに報告にやってきた。

「敵の追手がこちらに向かってきています。」

するとロイの別の部下がロイに言った。

「ロイ様。」

ロイがその部下に言った。

「分かってる。」

そしてロイが部下達に大声で言った。

「武器以外の荷物は全て捨てろ!!全力で走れ!!」

すると部下の一人がロイに言った。

「ロイ様、私が敵の追手を防ぎます。その間に本隊をお逃がしください。」

するとロイが部下に言った。

「いやお前にはこいつらの退却指揮を任せる。」

部下がロイに言った。

「はっ、承知しましたが、敵の足止めをしなくても宜しいのですか?」

ロイが部下に言った。

「もっと南の場所で反撃を行うつもりだ!俺は先に行って後退してくる者達を再集結させておく!お前はそこまで一人でも多くを連れてこい。いいな!」

部下がロイに言った。

「分かりました!」

ロイはミルゲ砦の近くで反撃を行えば敵が追撃を諦めてしまうかもしれないと考えていた。

それゆえに反撃はミルゲ砦から離れた場所で行おうとしていたのだ。

そしてロイは馬を走らせて急ぎ南に向かった。

その頃ジフロル団長の部隊は南に向かって移動していた。

ジフロル団長は馬に乗って移動していた。

するとジフロル軍の盗賊の一人が馬に乗ってジフロル団長の元にやってきた。

そしてジフロル団長に報告した。

「おやっさん、敵の右翼部隊が退却を始めました。」

ジフロル団長が部下に言った。

「ほうそうか、では敵の左翼部隊も退却を始めたのか?」

部下がジフロル団長に言った。

「いえ、左翼部隊は依然としてミルゲ砦への攻撃を続けています。」

部下がジフロル団長に尋ねた。

「どうします、おやっさん?若と一緒にドロメの右翼部隊を追撃されますか?」

ジフロル団長が部下に言った。

「いや追撃はレイドスに任せよう。我々は敵の左翼部隊の包囲に加わろう。」

部下がジフロル団長に言った。

「はっ!了解しました。」

こうしてジフロル団長の部隊はロイの部隊の追撃をレイドスに任せてガブロの部隊への包囲に加わる為に西に移動を始めた。



そのレイドスの部隊は追撃を始めるとすぐにロイの後続部隊に追いついた。

そしてレイドスの部隊はロイの後続部隊への攻撃を始めた。

レイドスの部隊の追撃は激しいものだった。

レイドスの部隊の追撃よりロイの後続部隊はどんどん人数を減らしていった。

だがレイドスはロイの部隊を追いかけてどんどん進んでしまった。

レイドスの部下達は遅れておりレイドスの部隊は陣形が崩れつつあった。

先行しすぎたレイドスは一旦追撃を停止して部下達がやってくるのを待った。



一方その頃、ロイは先に逃げていたドロメ盗賊軍の再集結を行っており、その人数は四百人ほどになっていた。

そこに後続部隊が逃げ込んできた。

ロイが部下達に大声で指示を出した。

「敵がすぐに突っ込んでくるぞ!戦闘準備をしろ!」

だがすぐにはレイドスの部隊は現れなかった。

その間にロイは逃げ込んできた者達を収用した。

ジフロル軍が目前にいると思っていたロイの部下達は少し安心したようだった。

そしてロイの部下の一人がロイに尋ねた。

「ロイ様、どういう事でしょうか?偽善者共は追撃を諦めたのでしょうか?」

ロイがその部下に言った。

「どうだろうな?崩れた陣形を再編しているだけかもしれん。陣形が整ったらすぐに追撃してくる可能性が高い。いやむしろそうでないと困る。」


ロイは殆どの部下にベルガの奇襲作戦について知らせていなかった。

この部下もロイの意図が分からずに困惑して答えた。

「は、はあ。」

ロイは情報が漏れる事を警戒して奇襲作戦について部下達に伝えていなかった。

だが信頼できる部下には伝えておいた方が良かったかもしれない。

このときすでにベルガの別動隊は壊滅しており、ロイの作戦はすでに実行不可能となっていた。

だがロイはまだこの事を知らずに自分の作戦を遂行しようとしていたのだ。

そしてロイが再び大声で指示を出した。

「ここで偽善者共を待ち受けるぞ!今のうちに迎撃の準備をしておけよ!」

ロイの部下達が答えた。

「はっ!」

再集結したロイの部隊は合計で五百人ほどになっていた。

少しの間静寂な時間が流れた。

そしてジフロル軍の盗賊達がロイの部隊に近づいてきた。

レイドス率いるおよそ三千人の部隊が、隊列を整えてまっすぐにロイの部隊に向かって進んできていた。

するとレイドスが大声で指示を出した。

「よーし!みんな!ドロメを叩くぞ!」

レイドスの部下達が大声で答えた。

「おおー!」

そしてレイドスが先頭をきってロイの部隊に向けて突進を始めた。

レイドスの部下達もそれに続いて突進してくる。

するとロイの部下の一人が恐怖のあまりに列を抜けて後ろに走って逃げていった。

これを見たロイの他の部下達もばらばらと逃げ始めた。

ロイが大声を張り上げた。

「逃げるなー!逃げるんじゃない!逃げずに戦え!戦うんだ!!」

ロイは何度も大声を張り上げた。

だがロイが声を張り上げても逃走する者が後を絶たず、殆どの者が逃げ出してしまった。

レイドスの部隊が目前に迫り、ロイも後方に逃げ出すしかなかった。



するとレイドスの部下がロイに気づいたようで指を指しながらレイドスに言った。

「若、恐らくあれが敵の指揮官です。」

レイドスが指示を出した。

「そうか、よしあいつを捕まえるぞ!」

レイドスはロイのいる所に向けて馬を走らせた。

レイドスの部下達もそれに続く。

ロイは必死に馬を走らせて逃げ続けた。

結局ロイの部隊はまともな反撃を一度も行う事ができずに壊滅してしまった。

ロイ自身が命からがら逃げ回るのが精一杯であった。

ロイは撤退の指揮してはいたが、撤退戦をあらかじめ行う予定であったにも関わらず事前準備や指示を出していなかった。

そのためこの敗走が作戦である事をロイ以外はほとんどの者が知らなかった。

そのために退却の指示が出て追撃が始めるとロイの部下達は敗北してしまったと信じてしまった。

さらにはロイの部隊はすでにバトロアの戦いでジフロル軍に敗北しており、ジフロル軍に対して恐怖や苦手意識を植え付けられていた。

攻めている時は熱狂によって士気を保つ事ができたが、いざ撤退が始まるとジフロル軍に対する恐怖感が大きくなっていった。

そしてレイドスの部隊と対峙した時についにその恐怖にみなが耐えられなくなったのだった。

つまり退却のフリをするつもりが、本当に敗走して壊滅してしまったのだ。

一方こちらはガブロの部隊である。

ガブロの部隊はがむしゃらにミルゲ砦を攻めていたが、ミルゲ砦を守備しているブロイク達の激しい抵抗にあっていた。

更にはアルガスの部隊によって側面を攻撃を受けており、ジリジリと戦力を減らしていった。

すでにガブロの部隊は半数近くの犠牲が出ていた。

そしてガブロ自身も悪戦苦闘していた。

ミルゲ砦の守備兵達は砦の外壁の上から弓矢でガブロの部隊に反撃していた。

それに加えて上からガブロが登ってきている西側の斜面にたくさんの油を流して、斜面を登るのを妨害していた。

ガブロがミルゲ砦の斜面をあと少しの高さまで登っていた。

だがあと少しの所で手を滑らせて斜面を転げ落ちて行った。

斜面の中間ぐらいの所で斜面にへばりつこうとしたが、結局斜面の下まで転げ落ちてしまった。

ガブロはあちこちに傷を負いながらもすぐに立ち上がった。

ガブロが大声をあげる。

「くそーー!ふざけやがってー!!」

周囲にいたガブロの部下が駆け寄ってきてガブロに言った。

「ガブロ様、大丈夫ですか?」

ガブロが部下に言った。

「はん!これぐらい何ともねえ!」

ガブロが続けて怒鳴った。

「ったくあと少しだったてのに。くそ!!上から変なものを流しやがって!!手が滑って登りにくいだろうが!!」

部下がガブロに言った。

「あれはたぶん油です。油をまいて我々を滑らせようとしているんでしょう。」

ガブロが大声で言った。

「くそー、余計な事をしやがって!!」

するとガブロの元に部下が走ってやって来た。

「ガブロ様、大変でございます。」

ガブロがその部下に言った。

「あん?なんだ?」

部下がガブロに言った。

「ロイ様より伝令が参りました。」

ガブロが部下に聞き返した。

「ロイからだと?」

部下がガブロに言った。



「はい!それがロイ様の部隊が撤退したようです。そして我々にも撤退しろとの事です。」

ガブロが大声で怒鳴った。

「はん?ロイの野郎め!!撤退しろだあ?ふざけんじゃあねえ!!ミルゲ砦を落としてもねえのにおめおめと帰れるか!!!」

するとさっきの部下がガブロに言った。

「ですがガブロ様。敵の右翼部隊も戦線に復帰しており、ミルゲ砦の守備隊と敵の右翼部隊に我々は挟撃されております。ここはロイ様の指示通り後退した方が宜しいのではないですか?」

ガブロが不機嫌そうな声で怒鳴りつけた。

「あんだとてめえ?!!」

身の危険を感じた部下が慌ててガブロに釈明した。

「ま、まあそんな事はする必要はありませんな!!ここはロイ様の命令は無視してミルゲ砦を攻め続けるのみでございます。」

ガブロがその部下に言った。

「たりめーだ!!」

するとガブロ達の頭上にミルゲ砦より放たれた矢の雨が降り注いだ。

ガブロはとっさに近くにいた部下を持ち上げると自分の頭上にあげて、部下を盾がわりにした。

頭上に掲げた部下を盾にしてガブロは矢の雨を避ける事ができた。

ガブロが盾にした部下は身体中にたくさんの矢が刺さって息絶えてしまった。

ガブロは盾にした部下を近くの地面に放り投げると大声で言った。

「くそー!偽善者共め!!ねちねち弓矢で攻撃しやがって!!」

するとガブロが大声で周囲の部下を集めた。

「おい!野郎共!!ここに集まれ!!」

何とか矢の雨を凌いで生き残った部下達がガブロの元に集まった。

ガブロは舌打ちをしながら言った。

「ちっ?たったこんだけか?!!」

ガブロが周囲を見渡した。

周囲には犠牲になったガブロの部下達がたくさん横たわっており、生き残っている部下達の方が少なかった。


するとガブロが大声で怒鳴った。

「まあいい、今度こそミルゲ砦を奪取するぞ!!」

ガブロの部下達が言った。

「おお。」

ガブロは生き残った部下達を率いてまたミルゲ砦の斜面を登りはじめた。
しおりを挟む

処理中です...