最強勇者の物語2

しまうま弁当

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第5章 アグトリア動乱

ドロメ狙い

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8月1日正午頃、トリガード教区のワイツではドロメ盗賊軍と反乱を起こしたヌエド軍との戦いが繰り広げられていた。

ドロメ団長率いる本隊が前後に伸びた所をヌエド軍のミレピオの部隊が北に急進した。

そしてドロメ本隊を背後より攻撃して前後に分断を図ろうとしていた。

この様子をワイツ砦から見ていたグレッグが部下達に指示を出した。

「みんな待たせたな!!ドロメの奴らに矢の雨を降らせてやれ!!」

ワイツ砦を預かるグレッグはドロメ団長を誘い出すために、午前中は本格的な攻撃を行なっていなかった。



そのおかげでドロメ団長は悠々とヌエドを追う事ができたのだった。

ミレピオの部隊の背面攻撃に加えて、ワイツ砦からの弓矢での攻撃も始まり、ドロメ盗賊軍の本隊は前後に分断されてしまった。

一方こちらはヌエドその人である。

この時ヌエドの部隊は反転してドロメ盗賊軍本隊との戦闘を行っていた。

ドロメ団長を誘い出す事に成功したヌエドは一旦後方に下がっていた。

ヌエドが横にいた部下に尋ねた。

「どうだ?ミレピオはドロメの後方を遮断できたのか?」

部下がヌエドに言った。

「ええ、どうやら成功したようです。」

ヌエドが部下に尋ねた。

「マグリオの方はどうだ?もう移動を始めているか?」

部下がヌエドに言った。

「はい、マグリオ様の部隊もこちらに向かって来ております。」



それを聞いたヌエドが指示を出した。

「よし!ここまでは作戦通りだな。」

一方こちらはドロメ団長である。

ドロメ団長はヌエドを追いかけていたが途中で見失っていた。

ドロメ団長は戦いながらヌエドを探していた。

ヌエド軍の兵士がドロメ団長に斬りかかってきた。

「死ねー!!ドロメ!!」

ドロメ団長は斬りかかった兵士の剣先を、持っていたバトルアックスでなんなく受け止めた。

ドロメ団長が大声で怒鳴った。

「死ぬのはお前だ!!」

そしてその兵士の下からバトルアックスを大きく振り上げた。

剣は真っ二つに折れその兵士の体はバトルアックスによって引き裂かれた。

すると少し離れた所からヌエド軍の兵士二人が、ドロメ団長を倒そうとドロメ団長のいる所に向かってきていた。

「よし!!ドロメをこの手で倒してやる!!」

「俺も手を貸す。二人で倒すぞ!」

二人の兵士はそう言って頷くと駆け出した。

ドロメ団長はその二人の兵士を見るやいなや懐から投げ斧を二つ取り出して両方の手に一つづつ持った。

そしてドロメ団長の両手から二つ同時に投げ斧が投げられた。

二つの投げ斧はすごい速さで二人の兵士の顔面に飛んでいった。

二つの投げ斧は両方とも兵士の顔面に直撃した。

二人の兵士はその場に倒れ二度と起き上がってこなかった。

ドロメ団長はヌエド軍の兵士を次々と倒していった。

するとドロメ団長の部下がドロメ団長のもとにやってきた。

その部下がドロメ団長に言った。

「ドロメ様!!」

ドロメ団長が大声で怒鳴った。

「どうだ?ヌエドは見つかったか?」

部下がドロメ団長に言った。

「いえ、この周囲にはおりませんでした。どうやらヌエドは後方に下がったと思われます。」

ドロメ団長が大声で言った。

「ふん、ヌエドの臆病者め。逃げ足だけは速いな!!」

すると別の部下がドロメ団長のもとにやってきた。

そしてドロメ団長に言った。

「ドロメ様、大変です。」

ドロメ団長が怒鳴った。

「なんだ?!!」

その部下がドロメ団長に言った。

「ミレピオの部隊に後方を遮断されました。」

ドロメ団長が大声で怒鳴った。

「なんだと?!!!」

するとその部下が言いにくそうにドロメ団長に言った。

「それとドロメ様?」

ドロメ団長がその部下に怒鳴った。

「なんだ?!!まだ何かあるのか!!!」

その部下がドロメ団長に言った。

「申し上げにくいのですが、マグリオの部隊も東の方角からこちらに向かってきています。」

ドロメ団長が怒鳴った。

「なんだと??!!」

別の部下がドロメ団長に言った。

「ドロメ様?このままでは三方向からの攻撃にさらされてしまいます!」

ドロメ団長が怒鳴った。

「くそ!!ヌエド奴め、こざかしい事ばかりしおって!!!」

ドロメ団長が近くにいた部下達に大声で指示を出した。

「ええい!!野郎共、突っ込むぞ!!!ドロメ様についてこい!!」

近くにいた部下達が慌ててドロメ団長に言った。

「はっ!」

ドロメ団長はヌエドの部隊に正面から突撃しそのまま突き崩してしまおうと考えたのだった。

ドロメ団長を先頭にして突撃が行われた。

だがヌエドの部隊はドロメ団長と真正面から戦うつもりは無かった。

ヌエドが大声で指示を出していた。

「ドロメの野郎と直接戦うな!!まずはドロメの部下共から倒していくんだ!その後で残ったドロメの野郎を全員で倒せばいい!」

ヌエドの部隊はドロメ団長のいる場所だけ空間を空けて、ドロメ団長の部下達を優先して倒していった。

さらにその間にマグリオの部隊がドロメ盗賊軍の本隊の東側に到着し、ドロメ盗賊軍の本隊は三方向から攻撃される形となった。

しかもドロメ盗賊軍の本隊の西側にはグリーロ川が流れており、実質的には完全包囲と言えた。



マグリオが部下達に指示を出した。

「さあ、ドロメにたくさんの矢をごちそうしてやれ!!」

マグリオの部下達はドロメ本隊に向けて弓矢で攻撃を行った。

マグリオの部隊からたくさんの矢が放たれた。

ドロメ盗賊軍の本隊の頭上に矢の雨がふりそそいだ。

ドロメ団長はバトルアックスを頭上で振ってどうにかふりそそぐ矢をしのごうとした。

だが自分の頭上に降ってきた矢を全て払いのける事はできずに右腕と肩に矢が刺さってしまった。

何人ものドロメ団長の部下達が降り注ぐ矢に刺さり倒れていった。

ドロメ団長は矢が降り止むとすぐに刺さった矢を自分で引き抜くと、大声で雄叫びをあげた。

「ええい!!!ヌエド!!!このドロメ様と戦え!!!」

ドロメ盗賊軍の本隊は三方向から攻撃を受けてどんどん人数を減らしていった。

一方こちらはガブロの部隊である。

ガブロのもとに部下が報告にやって来ていていた。

「ドロメ様がヌエド軍によって三方から包囲されております。」

ガブロが部下に聞き返した。

「なんだと!!」

部下がガブロに言った。

「ドロメ様が前に進んだ所を包囲されたようです。」

ガブロが部下に尋ねた。

「おい!!!その包囲ってのはなんだ?されるとまずいのか?」

部下が丁寧にガブロに言った。

「ガブロ様、基本的に戦闘部隊というのは、正面を攻撃するための陣形をとっています。ですから側面や背後から攻撃を受けるととても弱いのです。包囲されるという事は側面や背後から攻撃されるという事なのです。お分かり頂けましたか?」

ガブロが部下に怒鳴った。

「さっぱり分からねー!!簡単に言え!!」

部下がガブロに言った。

「ドロメ様が危ないという事です。」

ガブロが部下に怒鳴った。

「なんだと?!!ヤバいじゃないか!!!最初からそう言いやがれ!!」

部下が慌ててガブロに謝った。

「も、申し訳ございません。」

ガブロが大声で指示を出した。

「野郎共!!俺様についてこい!!すぐにドロメ様の所に向かうぞ!!」

すると部下がガブロに言った。

「それは難しいかと?」

ガブロが部下に言った。

「なんだと?」

部下がガブロに言った。

「敵にワイツ橋の東側を塞がれており、橋を渡っての救援は難しいと思われます。」

一方グロッケンの所にもドロメ団長が包囲されたとの知らせが届いていた。

グロッケンが部下に聞き返した。

「何だと?ドロメ様が包囲されただと?」

部下がグロッケンに言った。

「はっ!ヌエドの策略により三方から包囲され動けなくなった模様です。」

グロッケンが大声で言った。

「ちっ!ヌエドの野郎、やってくれるじゃないか!ドロメ様を誘い出して包囲攻撃を仕掛けてくるとはな!!」

グロッケンが部下に尋ねた。

「ドロメ様の本隊はどうなった?ワイツ橋は今どうなっている?」

部下がグロッケンに言った。

「ドロメ様の本隊は前後に分断された模様です。後ろに分断された本隊の者達がまだ橋の上に多数います。ですがミレピオの部隊の攻撃を受けて橋の中央部まで後退した模様です。現在ミレピオの部隊が橋の東側を塞いでおります。」

橋の上に残っていたドロメ団長の本隊はミレピオの部隊よりも数は多かった。

だがドロメ団長からの指示を受けられなくなってしまった為に混乱してしまった。

それに加えてミレピオの部隊、更にはワイツ砦からの弓矢での攻撃が本格的に始まり、橋を維持できなくなっていたのだった。

部下がグロッケンに尋ねた。

「グロッケン様、いかがいたしますか?」

グロッケンはどう指示を出そうか迷っていた。

橋の上にはまだドロメ団長の本隊がおり、ただでさえ横幅の限られる橋の上で、更に自分の部隊の投入すれば混乱に拍車がかかるのは明らかであった。

また本隊はドロメ団長の直属部隊であり、命令を出せるのはドロメ団長だけであった。

勝手に指示を出したり部隊を収用してしまうと、後々ドロメ団長より命令違反を問われる可能性があったからである。

ドロメ盗賊軍の幹部であるグロッケンでもおいそれと指示を出す訳にはいかなかった。

いっそドロメ団長を見限ってヌエドに味方するか?そんな考えすらグロッケンの頭の中に浮かんでいた。

グロッケンがどう対応するか頭を抱えている間に、別の部下がグロッケンの元に報告にやって来た。

「グロッケン様、大変です。」

グロッケンが部下に尋ねた。

「今度は何だ?」

部下がグロッケンに言った。

「ガブロ様の部隊がグリーロ川を渡り始めました!」

グロッケンが部下に言った。

「なんだと?」

他の部下がグロッケンに言った。

「グロッケン様、対岸にはヌエドの部隊が待ち構えております。渡川は危険すぎるのではないでしょうか?すぐに伝令を送って、止めた方がよろしいのではありませんか?」

グロッケンは少し考えた後で部下に言った。

「いやその必要はない。」

部下がグロッケンに聞き返した。

「と、仰いますと?」

グロッケンが部下に言った。

「ドロメ様を助けるにはもうそれしか手が無さそうだ。」

ガブロの部隊が渡川を始めていた。

ガブロの部隊で泳ぎの得意な者が先に東岸まで泳いで縄を結んで渡るという手を試みていた。

だがヌエドの部隊に何度も阻止されていた。

ガブロの部下がガブロに言った。

「ダメです。敵に弓で狙い打ちにされて、対岸にまでたどり着けません。」

ガブロが大声を張り上げた。

「あーー、これ以上こんな所で待っていられるか!!全員で一気に渡るぞ!!このガブロ様に続け!!」

ガブロの部下達が言った。

「はっ!」

ガブロが先頭にたってグリーロ川を渡り始めた。



川の西側は流れの緩い浅瀬になっていたが、東側の流れは急になっており、水深も深かった。

ガブロとガブロの部下達が必死に泳いで東岸に近づいていく。

だが東岸には弓を装備したヌエドの部下達が待ち構えていた。

ヌエド軍の一人が大声で指示を出した。

「ドロメの奴らを陸にあげるな!!構え!!」

ヌエド軍の兵士達が一斉に弓を構える。

「放て!!」

号令と共にたくさんの矢がガブロの部隊めがけて放たれた。

ガブロの部下達は泳ぐだけで精一杯であった。

そこに弓矢での攻撃が加えられたのである。

矢が刺さってしまった盗賊は手足を必死にばたつかせ、うあー、とうめき声をあげた。

そしてもがき苦しみながら水の底に沈んでいった。

矢が刺さった盗賊は痛みのあまりに我を失い次々に溺れて川の底に沈んでいった。

水中の移動で神経をすり減らしている所に、弓矢での攻撃を受け気が動転してしまい溺れてしまう者が続出していた。

それでもガブロは何とかヌエド軍の弓矢での攻撃をかいくぐると東岸に上がる成功した。

岸に上がったガブロは弓矢を構えているヌエド軍の兵士に向かっていった。

「この裏切り者共が!!」

ガブロはそう言いながら鉄槌を振り上げた。

そしてすぐにその兵士の頭上に鉄槌を振り下ろした。

骨が砕ける音と共にその兵士は倒れそのまま絶命した。

ガブロが次々と弓を装備したヌエド軍の兵士に襲いかかり倒していった。

そこにガブロの部下達が息も絶え絶えにしながら追いついてきた。

部下がガブロに言った。

「はあ、はあ、ガブロ様、遅くなりました。」

ガブロが部下に怒鳴った。

「遅いぞ!!テメエら!!」

部下がガブロに言った。

「ガブロ様、申し訳ありません。」

ガブロが大声で怒鳴った。

「このまま一気にドロメ様の所に行くぞ!!」

ガブロの部隊のおよそ半数が東岸への上陸に成功していた。



ガブロが上陸したとの知らせはすぐにヌエドの知る所となった。

ヌエドが部下に聞き返した。

「何?ガブロが渡川してきただと?」

部下がヌエドに言った。

「はっ!我々の後方に渡川してきました。」

ヌエドが大声で言った。

「ちっ、ガブロめ!あんな野郎の為に死ぬ気で渡川してきたってのか!全くあんな野郎のどこがいいんだ?」

部下がヌエドに尋ねた。

「ヌエド様、どうされますか?このままでは我々も挟撃されてしまいます?」

ヌエドは少し考えた後で指示を出した。

「恐らくドロメの救援に来たんだろう。それならば、ガブロが通りやすいように中央部を薄くしておけ。無理にガブロの部隊と戦うな。」

部下がヌエドに言った。

「はっ!」

ヌエドの部隊はガブロのドロメ団長との合流を無理やり阻止はしなかった。

そのためガブロは悠々とドロメ団長との合流に成功した。
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