pride’n story

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はじまりのものがたり1

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金糸のような髪を泥と血で汚し、その女神とすら見まごう美しい淡麗な顔立ちを赤い線が彩り、身の丈に合わない黄金の剣を地面に突き刺し、無様にもその時を待つことしかできなかった。自身に残酷な刃が振り下ろされるその瞬間が訪れるまで指一つ動かすことができない自身に羞恥と屈辱で端正な表情を歪ませていた。

「聖剣使いもここまでか」

黒衣の騎士は肩で息をしている彼女とは対照的に涼しげな顔で見下していた。彼女からすればこの騎士は純粋な死の具現化である。そして、生きていて初めて出会う明確な死に彼女の心は崩壊寸前であった。

「どうだ、命乞いでもするか?」

騎士の白刃が彼女の首筋を撫でていた。確かに恐怖で足が竦む。だが、彼女はその瞬間誇りを取り戻していた。

「何を言う、私は聖剣を担う騎士の一人だ。死など恐れたりはしない」
「そうか」

騎士は剣を振り上げていた。その様はまるで断頭台の如くわずか数秒で彼女の命を奪うものである。だが、彼女の心には安堵があった。無様に命乞いをして、情けなく生き延びるよりここで正々堂々の戦いを経て誇りを胸に死んでいけると言う名誉をこの騎士は自分に与えてくれていた。そして、次の瞬間剣が振り下ろされ彼女は死ぬはずであった。

「へぶっ!?」

騎士が先ほどとは打って変わり情けない声を上げていた。何事かと顔を上げると騎士の顔には鞄がめり込んでいた。いわゆる学生鞄というものであり、この場にはましてはには似付かないものであった。

「貴・・・様!」

騎士は掠れ声を上げながら地面に伏していた。彼女は何事かと視線をあげると不思議な格好の青年がそこに立っていた。赤いシャツと詰襟とスラックス、いわゆる学ランと呼ばれる普通の学生服を着た青年であった。彼の顔は怒りで真っ赤であった。無言のまま彼女のに近付き、襟首を掴んでいた。

「ふざけんな」

青年は彼女の目を見据えていた。とても真っ直ぐな視線で彼女は呆気に取られていた。

「そんなものの為にお前が死んじまったら、お前のために泣いてくれる人にどう示しつけるんだ。大馬鹿野郎!」

青年は気付けばそんな風に叫んでいた。

1:2日前

何故こうなった。何がどうしてこうなった、と学生こと俺、涛白結城はずっと考えていた。ちなみに、涛白とは「なみしろ」と読むのだが本人も由来とかは全く知らなかったりする。

「ちょっと状況確認」

さっきまではゲームセンターでコインゲームをしていて遊んでいました。そこまでは覚えているが、次の瞬間俺は意識を失ってここにいた。おそらくは誰かに誘拐されてこの場に連れてこられたのであろう。なんか薬とか使われたみたいなそんな感じかもしれない。何かの事件に巻き込まれたのならするべきことはひとつ。警察に連絡だ。そうと決まればと俺はスマートフォンを取り出していた

「圏外なのか」

圏外であった。まあ、予想できない展開でなかったわけではない。だが、狙われるとしても心あたりが全くないのだ。別に超常的な能力とか、大富豪の息子だとか、そんなものではない。財布に生活費である二万五千円入っているがそれも抜き取られていないので、金目当てではないのかもしれない。そもそもたったそれだけの少額で誘拐するとも考えられないが

「えーとなんだっけ、太陽の方向まで歩いていけば人のいるとことに出るんだっけ」

どこ情報だったか、ネットでそんな情報を見た気がするが、これはどうなんだろうか。この対処法があっているかどうかはわからないが、従うものが無い以上この方法に頼るほかないのは事実である。ということで決めたら早いか俺は歩き出していた。距離によっては一夜明かさないといけないだろうが、人里の辺りまで行けばもしかしたら携帯も繋がるかもしれない。

「それにしてもなんでこんなことに」

割と弱気である。確かに人生初の経験であるが、一人暮らしを始めた時からそんな気分だった気がする。最初の一夜は眠る時ラジオごっこなる暇なことしていた気がする。まあ、トークテーマとかもくだらないものであったがいつでも誰かと連絡が取れるという安心感はあったから、ここまで不安になることもなかったのだが。

「そういえば何もってんだろ」

とりあえず所持品の確認をしていくことにしていた。鞄の中には緊急用の栄養保護食品とペットボトルの水が大量に入っていたのであった。まるでこの状況を予期していたのかのような準備の良さであるが、食べるものがちゃんとあるというのはとてもありがたいことである。

「そういえば一人暮らし始めた頃ゲームとか買い込んで飯食う金無くなったっけ」

あの時はかなりひもじい思いをしたものだ。それ以来一ヶ月に一本の頻度でゲームを買うようにしていたが、そのおかげでご飯はちゃんと食べることはできていたし、生きることの厳しさを身を持って体感できたいい機会であった。割とくだらないことをずっと考えていたら割と遠くまで来ていた。

無言のまま黙々とやることができない性格がここにきて災いしていた。歩き始めて数十分ほど経つが一向に先など見えなかった。ここからどうすればいいのか、仮に人里についても何ができるのか、そして、状況が好転するのか。

「もう、なんなんだよーーーーーーー!」

俺は情けなく叫んでいた。大声を出せばスッキリするかと思ったからだ。結果的に気分はスッキリしたし、やや迷いが晴れた気もした。やはり声を出すことは最高のストレス発散である、が俺はようやく大きな失敗をしたことにようやく気付いていた。急に地面が揺れていた。そして、かなり遠くから木々が薙ぎ倒される音が聞こえていた。そして、その音はどんどん近づいてきていた。

「ーーーーーーーーーーーーーー!!」

そして咆哮が聞こえ、それは俺の目の前に現れていた。大きさは有に3mは超えるであろうそれは、まるでファンタジーに出てくる怪物であった。全身が剛毛が覆い、そして明かに雄牛を模したであろう頭部。そして何よりそれは二足で立っていた。俺は慌てて鞄からカッターナイフを取り出していた。だが、その瞬間俺は自分のしたことを後悔していた。そうだ、こういう時闘争よりも逃走を選択するべきであった。

だが、後悔をしてももはや手遅れである。ここまできてしまったら戦うほかないのだ、腹を決めたその瞬間俺は巨大な牛に切り掛かった。しかし、スネを斬ったのだが浅く薄皮を切っただけで血すら流れていなかった。

「マジかよ・・・」

俺は愕然としていた。だが、その俺の愚行は牛の反感を買ってしまったらしく牛は腕を払っていた。直撃こそしなかったが、その風圧だけで俺は軽く吹き飛ばされ、地面に叩きつけられていた。

「かはっ!」

俺の口から短い悲鳴が漏れ出し、口の中に鉄錆味が広がっていた。俺はもう逃げる気満々で立ち上がろうとしたら足が震えていた。そして、腰が抜けて立ち上がることができなかった。俺は言葉を失っていた、遂に心が折れていたのだろう。いや、生き延びる気満々なのに体がついてこなかった。

「動けよ!畜生!」

俺は足を殴りつけていたが、震えるままで立ち上がろうとしなかった。何故だ。動けよ。ふざけるな。こんなところで死んでたまるか。だが、そんな俺の悪あがきに反するように牛は腕を振り上げていた。あれほどの膂力を誇るのだ、俺は文字通り軽く潰されるだろう。そして、振り下ろされた瞬間俺は、腕を振りかぶっていた。

「はぁーーーーーーーーーッ!」

低い声が聞こえその瞬間生暖かい液体が全身にぶち撒けられていた。何事かと俺は顔を上げると巨大な剣を携えていた女騎士が立っていた。いや、騎士かどうかはありえないが、彼女のその姿は騎士でなくては何というのか。俺はその立ち姿に目を奪われた。

「大丈夫ですか?」

凛としてそれでいて、穏やかな声が耳朶に響いていた。整った顔立ちに透けているような金色の髪、一言で綺麗としか言えないそんな存在が立っていたのであった。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

片腕を失った牛は再び方向を上げ、その女騎士に躍りかかっていたが、その巨体を一刀にて叩き落としていた。美しき剣技に俺は目を奪われていた。叩き切られた牛はそれ以来ぴくりとも動かず、それを確認した後彼女は剣を腰の鞘に納めていた。

「立てますか?」

彼女は俺に手を差し伸べていた。俺は軽く礼を言いながら立ち上がっていた。だが、緊張の糸が切れたのか再び俺は腰を落としていた。未だに俺の足は震えていた。もう終わったというのに情けないことである。

「しょうがないですね」

彼女は今度は俺を担いで立たせてくれていた。なんとも情けないことであるが、ここでカッコつける方がカッコ悪いのでもう諦めていた。

「とりあえず、人がいてくれて助かったよ」
「そうですか。お力になれて何よりです」

俺はとりあえず色々聴きたかった。

「ここは何県なんだ。というかさっきのアレはなんなんだ。」
「剣とはこれのことですか?」
「というか、アンタ誰なんだ」
「私はクレア・レールスですが」
「外人さんだったか、日本語うまいな」
「に・・ほん語?なんですかそれは?」

彼女、ではなくクレアとの会話が所々、では済まないくらい噛み合わない。これはどういうことだろうか。一連のやり取りが終わった頃であろうか、俺の中には一抹の不安が生まれていた。不思議と予想ができてしまっていた。こうじゃないと俺の中で遭遇した事象と照らし合わせるとこの答え以外ありえないと俺の中で結論づけられていた

「えと、クレア、ここはなんて国だ?」

この質問の答えが俺の予想を遥かに上回るものとなってしまったのであった。そして俺はこの絶望的なまでの状況をようやく理解するのであった。

「この国は風の国、ですね」

聞いたこともない国であった。俺はどうやら未開の地、全く持って信じられないが俺は日本のど田舎でも、ましてや海外でもなく異世界に誘拐された可能性が出てきてしまったのであった。

いや、ほんとにありえねえ

2:一日前

クレアに案内され、俺は風の国の軍の独房に入れられていた。まあ、当然ながら俺は不審者で服装とかも違って、持ち物であるノートには異国の言葉が書いてあって、俺の身分なんて証明できなくて、もう当然ながら俺はどこからどう見てもただの不審者で困ったことにどう見ても怪しい人でとりあえずぶちこもうぜ♪みたいなノリで俺は独房に放り込まれたのであった。

「なんてこった」

俺は頭を抱えていた。どうしようもなく、絶体絶命でとりあえず、長年の夢であった異世界転生とやらもあと数日で断頭台になる。首チョンで。授業中に確かにそんな妄想をしなかったわけでない。実際にいざ、となると思ったよりも準備が足りないものである。例えば当面の生活費であったり、食糧であったり、身分の証明であったり、リアルに困るものである。

「いや、準備はされていたぞ」

鞄の中には水と食料がたんまりと入っていた。つまり準備はされていたのだ。そして、俺がこの世界に来ることは誰かの思惑ではないかとふとそんな想像をしてしまったのである。まあ、仮に誰かの思惑であってもおそらく数日後にはゲームオーバーとなるのだから構いはしないが。

「おーーい看守さーーーん」
「なんだ?」
「食いもんとかないの?」
「あるわけないだろう」
「ですよねー」

俺は当然の反応に肩を竦めていた。実際これからの目標とかがわからない以上とりあえずは情報集めが必要になる。一応教師の息子だ、頭が悪くないと信じたい。頭を回せ涛白結城、ここを抜け出すという初歩の初歩で躓いてたまるか。だが、ここは頭を回すためのガソリンが必要だ。

「おーーーーい、看守さーーーーん」
「今度はなんだ」

やや呆れてらっしゃるようで嫌々こっちに来ていた。まあまあ、友達っていうのはそういうところから始めていく必要があるのだ。

「この国っていつもこんなのなのか?」
「あぁ・・まあ、最近は特にな」
「最近はって何かあったのか?」

俺が質問すると看守はムッとしていたが、俺はとりあえず「俺、今こんな感じで何もできないから」と言うと渋々話を続けてくれていた。ありがたいことにそれくらいの優しさはあったらしく続けてくれていた。

「最近風の国で聖剣を巡って内乱が起きてるんだ」
「聖剣ねぇ」

聖剣、初耳の単語であった。なんかすごいものの気がする、というか内戦起きているくらいなのだから途方もないくらい凄まじいものであろうが、それを巡っての戦争、なんか規模が凄まじくないか。俺をここに案内した何者かの目的がそれを止めろとかいう途方も無いことを期待してのことではないといいのだが。

「んで、その聖剣って誰が持ってるんだよ」
「あぁ?そんなこともしらないのか?」
「田舎者なもんで」
「クレア・レールスだよ」

クレアが聖剣を持っていたのか。確かにあの力量は素人目に凄まじいの一言に尽きる、が不思議と彼女への態度というか呼び方から敬意の類を感じ取ることが出来なかった。これは、俺の想像に過ぎないがそれくらいの兵器を持っているならば尊敬というわけではないがそれなりの扱いになっても良いのではないかと思うのだ。例えば様付けとかそういったあからさまなものがあったりとかしてもいいのではないかと思うのだ。だが、この看守はクレアを呼び捨てにしていた。

「まあ、俺はあの子が相応しいとは思わないけどな」

俺は少し探りを入れるためにそんなは発言をしていた。

「ほう、アンタもそう思うのか。まあ、前任のレイラ様と違ってどこの馬の骨かわからない小娘が聖剣に選ばれたんだ。格式もへったくれもあったもんじゃねぇ」

看守はそう吐き捨てて眠りについていた。どうやらこれで俺との会話はおしまいらしい。だが、この世界の情報を少しだけ掴むことができていた。まあ、伺う限りこの世界は俺の元いた世界となんら変わらないということはよくわかった。

今後の方向性とかさっぱりわからないけど今できることはただ一つ

「疲れたし寝よ」

昨日から一睡もできていなかったのでとりあえずはぐっすりとお休みさせていただくことにしよう

暫くすると俺はどたどたと走り回る音で目を覚ましていた。どれくらい時間が経ったのか、俺は懐のスマートフォンを開くと時刻は朝の5時を指し示していた。時間の確認をこまめにしていたわけではないが体感6、7時間くらい眠ったような気がしていた。寝床も寝心地が良いとはいえないが、疲れは取れていた。

「あら、看守さんがいない」

おそらくは騒ぎがあったのだろう。そして、人をそちらに割いて俺の監視が手薄になったのだろう。だが、これはチャンスである。ここを抜け出せなければ本当に俺はここで死んでしまうか、良くて一生このままだ。

「なら、やることはひとつだけだ」

俺はこの独房の鍵穴に触れていた。形からすればいわゆる南京錠がちょっと難しくなったものだろう。異世界と聞いてこの鍵が魔法のようなもの鍵がかかっていたら問題であったが、俺は頭につけていたヘアピンを外していた。一応バイトでピッキングを経験したことがある。まあ、確か免許が必要らしいがそこはご愛嬌だ。俺は軽くヘアピンをねじ曲げ、鍵を開けていた。仕組み自体は非常に簡単なシリンダータイプの鍵である。つまり簡単に言えば鍵の凹凸が中にあるシリンダーを押し上げて適切な位置に来たとき鍵が開くという簡単な仕組みである。形が把握できたのであとは軽く押し上げてあげるだけで鍵はあっさりと開いていた。

「よゆー」

俺は通路に出て辺りを見渡していた。看守室に入ると俺の鞄が置いてあったので、それを頂戴したのであった。中を確認すると俺が用意していた食品がそのまま入っていたので俺は一箱開けていた。口に運んでみると薄いチョコレートのような味わいが口に広がり、唾液を吸って膨張していくそれを飲料水で押し込んでいた。そこそこ空腹だったこともあり、一箱二本入っていたそれはぺろりと平らげることができていた。

「食事も済んだし行くか」

俺はそのまま通路に出て、人がいないことを確認しながら進んでいた。昔ゲームでこんな感じに進んだことを思い出していたがあのゲームは意外と正しくて姿勢を低くして、ゆっくりと歩けば音が鳴るようなことがなかった。だが、しばらくしたら俺の脱走は気付かれるので早いところこんなところからおさらばするべきであろう。暫く進んでいると、人影が見えたので俺は柱の影から様子を伺うことにしていた。

「いやーこれで終わりだな」
「ああ、そうだな」

柱から聞こえてくる声は俺の見張りをしていた看守と鎧で身を固めた兵のようにも見えた。そして、話し声が聞こえてきたので暫く聞こうかと耳をすましていた。

「この内戦もレールスを殺すためだったしな」
「全くだ。あの小汚いドブネズミを殺すために俺たちの仲間もいっぱい死んじまったしな」

小汚いドブネズミ、というのはクレアのことを指すのだろう。俺の中で何かが一瞬にして煮えたぎっていたようなそんな感覚に見舞われていた。

「あの身寄りのないクソガキを面倒見てやったのに、まさか聖剣を取られちまうなんてなぁ」
「ああ、言えている。だが、此度の相手獅子であるジュリウスが陣頭指揮を取っていると聞く、アレならレールス程度赤子のように捻り潰してくれるだろう」

ああ、なるほどクレアを殺すためにこの騒ぎが始まったのだろう。理にはかなっている。おそらく聖剣とは一人しか持つことができない兵器のようなものなのだろう。それを殺して奪う、そんなプロレスみたいな殺し合いが彼女の命を奪うのだ。だけれど、俺はこの話を聞いて、彼女の命を救ってやることなどできない。

「立てますか?」

そんな後ろ向きな俺の思考にあの時の一言が響いていた。そうだ、俺は救われていたのだ。何者でもなくあのクレアに俺は一度だけではなく二度までもこうして俺を救ってくれているのだ。彼女が死んで俺がこの世界の片隅で平凡に生きていくことなど許されていいものか。いや、そんなことが許されていいわけがない。誰が許しても涛白結城だけは絶対にそんなこと許したりはしない。

それに

「誰があの人の仲間になるってんだよ」

俺がポツリとつぶやくと体に力が漲っていた。目標なんてなかったけれど俺には一つだけやりたいことができていた。そうだ、まずは異世界を楽しむためにはなくてはならない物がある。それはとても簡単だけれどとても難しいものだ。

まずは、友達クレアを助けることから始めてやればいいのだ。

幕間

俺はとりあえず無事に城内を突破し、外に出ていたのであったが改めて見てみるととにかく大きい。西洋風の大きな建物というか城であった。この風景を見ていると改めて俺は俺の知る世界から違う世界にきてしまったのだと嫌が応にも思い知らされていた。実際あのあとは目隠しをされながら連れてこられていたこともあったけれどなんだか改めて実感したというところである。

「んで、助けるって決めたけれど、どこに行けばいいんだろ」

一番最初の関門で俺は詰んでいたのであった。


4

初の月の中頃に聖剣有するウェルバスとクラディの内戦が開戦となった。ウェルバス側は聖剣使いであるクレアを前線に投入し、一見優位に立っているかのように見えたが、兵力を温存することによるクラディ側の策略により押されつつあったのであった。現に戦場に投入されている戦力はクレア一人に対して、おおよそ二十という戦力を投入しているという状況であった。また、総数200の兵力という戦力差に普通に考えて押されるに決まっている。途中まで伝記物っぽい解説を挟みながら俺は峡谷の隙間からこっそりとその光景を見ていたのであった。押されていると言いながらクレアは一人で自身に迫る敵を屠っていった。そして、クレアは涼しげな顔で剣を振り回していた。汗ひとつかいていないというのも凄まじいところである。正味5時間はクレアは戦い抜いていたが落ちていくどころかむしろ上がっているようにすら見える。恐らくはあくまでウォーミングアップにしかならなかったのだろう。

「ーーーーー」

だが、さらに数刻ほどして敵の勢いは弱まっていた。どういうことか夥しいまでの出兵は無くなり、場は静寂に包まれていた。だが、クレアはあえて剣を納めようとはしなかったのだ。それどころか彼女の顔はさらに険しくなっていた。

「ほう、小娘。気配のひとつくらいは読めるか」
「隠す気のない気配くらいは読めるさ、黒獅子」

黒獅子と呼ばれてる黒衣の騎士は気取りながら現れていた。おそらくあの男が噂されていたジュリウスであろう。先ほどの雑魚とは比べることすら烏滸がましいとすら思える圧倒的な存在感、俺は始めて別格という言葉をこの身をもって味合うこととなった。正直あの男の前だと萎縮する。あんなのと堂々と向き合えるクレアに俺は感服すらしていた。

「お互い名乗りは不要か」
「ああ、お前を倒してこの内戦を終わらせて見せよう」

クレアとジュリウスはお互いに剣を抜いていた。瞬間的に空気が張り詰めたものに変わり、二人の緊張感が俺の肌に痛いくらいに伝わってきた。お互い如何にして相手を殺すのか、二人の思考はただそれだけのものに変わっていた。そして次の瞬間二人の姿は消失し金属音だけが周囲の空間に響いていた。

「うおっ!」

次の瞬間凄まじい風圧が押し寄せ、俺の体を軽く吹き飛ばしていた。俺は地面に叩きつけられ、俺は短い悲鳴を上げていた。痛い、普通に痛い。やはりというか、こんな世界でも痛みを感じるのだと正直驚いていたが、それよりかクレアはどうやら俺の存在に気付いたらしく剣を止めていた。

「貴方は!?」

クレアが剣を止めた隙にジュリウスはクレアに向かって危ない、と言おうとした瞬間クレアの体はダンプカーにはねられたかと見まごう衝撃によって宙に浮き、数度地面に叩きつけられ跳ねた後静止していた。完全に俺の存在が仇となっていた。助けるどころか足を引っ張ってしまった。

「ぜァああああああああ!」

クレアは気合を吐き出しながらジュリウスに向かって斬りかかっていたが、ジュリウスは身を翻しクレアの脇腹に回し蹴りを叩き込んでいた。俺は初めて骨が折れる嫌な音を聞いていた。恐らく肋骨が折れたのだろうクレアは剣を地面に突き刺し血反吐を吐きながら膝をついていたのであった。

「聖剣使いもここまでか」

ジュリウスは涼しげな顔で彼女を見下していた。あれほどの激闘を繰り広げていたのだが息一つ切らしていなかった。それほどまでに圧倒的な戦闘力、俺があの境地に達するまでにどれほどの年月が必要となるのか、考えるとゾッとする。

「どうだ、命乞いでもするか?」

鋒が彼女の首に当てがわれていた。だが、彼女はじっと俺のことを見ていたのであった。その目はまるで俺に逃げろと必死に伝えていた。

ふざけるのも大概にしろ。お前は誰のせいでそんな目に遭ってやがる。俺はあの城を出た時、クレアを助けてやるって誓ったはずだ。決して無様を晒して逃げるためではない、ましてや恩人を見殺しにするためにあの檻から出たわけでもないのだ。

「何を言う、私は聖剣を担う騎士の一人だ。死など恐れたりはしない」

クレアは震えた声で言い放っていた。その瞬間俺の中の何かが凄まじい断裂音を放ちながらぶち切れていた。

「・・・やってやるぞ」

俺は決意を固め、背を向けて数歩歩いていた。振り向き様彼女の安堵した表情が見えていただが、俺はそのままジュリウスに向かって駆け出していた。全力も全力の全力疾走である。そして、何事かとジュリウスが振り向いた瞬間その淡麗な顔面に鞄を叩きつけていた。

「へぶっ!?」

鞄は顔面にめり込み、ジュリウスの体はくずおれていたのであった。へぶっていうのは正直予想していなかったので少しだけ面白かったが今はゲラゲラ笑う余裕などなかったそれよりかは予想より上手く決まってしまったことで足ががくがく震えていた。俺は 手に力が入らなくなって鞄を落としていた。俺はくず折れそうな足に力を込め彼女の襟を掴んで立たせていた

「そんなものの為にお前が死んじまったら、お前のために泣いてくれる人にどう示しつけるんだ。大馬鹿野郎!」

俺は彼女にそう叫んでいた。昔、俺は誰かにそんなことを言われたのだ。今度は俺の番だ。俺がその役割を果たさなければならない

「そんな人私にはいません・・・」

彼女は俯きながらそう呟いていた。

「俺がいる・・・!」

俺は反射的にそう返していた。クレアの表情は一瞬呆気に取られた後、一転して少しずつ崩れていった。

「だから、そんな寂しいこと言うなよ」

俺は笑いながらそう言っていた。だが、急に俺は眠気に襲われていた。緊張の糸が切れ、全身の疲労が一気にのしかかって来て俺の意識は瞬間的に途切れていったのであった。

こうして俺の異世界一日目は終わっていたのであった。

幕間

俺が目を覚ますと不思議な屋敷にいた。いや先ほどの異世界と比べてやや和のテイストが強すぎる。恐らくは夢なのだろうが。

「ああ、目が覚めたか?」
「ああ」

そこに居たのは不思議な女性であった。タバコを吸いながら眈眈と人形を作っている不思議な女の人であった。

「ここは?」
「私の工房」
「あんた誰だ」
「錦乃宮霧花」

俺の質問にすんなり答えてくれていたが、普通ならこういう時絶対信用してはならないのだろうが俺は彼女のことを敵どころか信用できないとも思えない、仲間であるのではないかとすら思えるほどに俺は安心していた

「アンタがこの世界に俺を連れて来たのか?」
「私の身内がお前をこの世界に呼ぶ手助けをしたのは事実だ」

なんだって!と叫ぶつもりはないがあっさりと認められるとなんというか拍子抜けもいいところである。

「どうして俺なんだ」

錦乃宮はタバコを灰皿に押し付け、俺に向き直っていた。なんだなんだ、俺に何かあるのか。

「お前が成し遂げられるって判断したからだろ」
「いや、なにを」
「知るか自分で考えろ」

すごい思わせぶりではあったが、まさか自分で考えろとは予想もしていなかった。まあ、この人の身内というのだから錦乃宮自体は関与していないのだろう。困ったことに彼女もその目的までは知らないというのも納得はいくが、一つだけ腑に落ちないことが一つだけあった。

「私がなんでお前に接触したのかって」
「聞いてないし、これから聞こうとしていたんだよ」

まあ、積極的に俺の質問には答えてくれそうではあるので恐らくは味方ではあるのだろうが、敵でもない。慎重に話を進めないと危険かもしれない

「このままだとあと数日と持たずお前は死ぬ」
「唐突になんだよ」

あと数日というのも明確では無いが、今の状況を鑑みるに俺の死は恐らくは事実であるのだろう。実際俺の力では生き抜くことは出来ないし、ジュリウスも俺を狙ってくる可能性もある。もしかしたら病気なんてものも否定できない。

「んで、助かる方法は?」

このまま、ということはなにかをすれば俺は助かるのだろう。

「二つあるがどっちかクリアできれば大丈夫だと思うぜ」
「はあ?」

二つのうちどっちかというのは難易度が低い気がする。脱獄とかよりか楽な条件であるととても有り難いと思う。

「一つは私を見つけること」
「いや、こうして会ってるじゃねえか」
「いいや、直接だ」

直接、というのも気にかかる。今現状会っているといるというのにも関わらず、直接と言うのは彼女は夢ではなく現実で会えということであろう。だが、もう一つの条件が気にかかる。人は二つの事柄があった時大事な方は後者にしたがる傾向があるつまり、次の条件が彼女が俺に成し遂げてほしいことなのだろう

「お前はお前だけの聖剣を見つけろ」

俺の頭の中で言葉がリフレインして、思考が追いつかなかった。聖剣って俺の?クレアみたいな聖剣?

「はぁあああああああああああああああああ!?」

俺が叫んでいた。そして視界がホワイトアウトしていたのであった。

「若いなぁ」

ポツリと錦乃宮が呟いたのは聞こえたがその後の続きは聞こえなかったのであった。

エピローグ

「あああああああああ!?」

俺は跳ね起きていた。全身が汗でびっしょりであった。気持ちが悪くて俺は上着を脱いでいたのであったが、落ち着いて周囲を見渡してみると俺はまたあの独房に入っていたのであった。あのあとここにまた運ばれたのだろうがそろそろ扱いを改善して欲しいものである。だが、もうヘアピンもないし出ることは出来ない。

つまり、俺は聖剣を手に入れる事もできずに錦乃宮に会う事もなくゲームセットなのだろう。ここで俺は数日後に死んでしまうのだろうが、悔いは・・・

「悔いしかねええええええええええ!!」

いやいや、こんなところで殺されたら何の意味もないし!クレアとも仲良くなれてないし、それにこの世界の食い物とか食べれてないし、というか死ぬのが一番嫌だし

「でしょうね」

聞き慣れない声が聞こえていた。そして、次の瞬間には独房の壁が破壊されていたのであった。俺はその爆風に巻き込まれ、無様に地面を転がっていたのであった。煙が晴れ、そこにいたのはクレアであった。

「・・・まじかよ」

クレアは剣を鞘に納め、独房の格子を一息で破壊してみせていた。俺は凄まじい光景に口をあんぐり開けて見ていることしかできなかった。この人結構常識(この世界では正しい作法かもしれないが)知らずなんじゃないのか。

「その剣貰っていいですか?」

看守は震えながら剣をクレアに渡していた。クレアも腰から剣を鞘ごと抜き、それを渡していた。そして次に俺に向き合っていた。

「さて、私は聖剣をお返ししたのでこの国を出ようと思います。貴方は付いて来ますか?」

クレアは俺に手を差し伸べていた。クレアの顔は悪戯っぽく笑っていた。初めて近くで見るが凄く綺麗だった、正直言葉を失うくらいには俺は見惚れていた。

「来ないんですか?」

俺は笑いながらその手を取っていた。そして、クレアは俺を立ち上がらせていた。腕は細いのにすごい力であった。余程鍛えて来たのだろう。

「あんなこと言っちまったからな」
「ええ、貴方が居るんでしょう?」

俺たちは顔を見合わせて笑い合っていた。そして、一緒に駆け出していた。取り敢えずは此処から離れたかったから後は少し休めるところに行って腰を落ち着かせたり、旅をしたり、楽しそうなことはいっぱいあるから。

さて、唐突ではあるがこの物語に名前は何てつけようか、クレアは自身の誇りである聖剣を手放していた。俺に至っては女の子に助けられっぱなしで無様なものだ。誇りプライドが無いからpride not story、略してpride’n storyなんてどうだろう。決して名作にはならないだろうけど、それでも俺が楽しくあれる物語であるに違いない。
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