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【曲作り】

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・【曲作り】


 そろそろいろいろと曲作りをしていかなければならない。
 俺とアタルは昼休みの時間に、校庭でライブを行うことにした。
 そのために、二曲作ることにした。
 テーマは学校。
 アタルの作詞は徐々にできあがっている。
 そして今日は、学校中を歩いて、効果音をサンプリングして回ることにした。
 アタルは小首を傾げながら、
「サンプリングって結局どうやるのっ?」
「スマホで音を録音するだけだよ、あとそれを曲に構築することは俺が家でやるから大丈夫」
 俺とアタルは放課後、まず掃除用具が入っているロッカーを開けた。
 すると、まだクラスに残って何か書類を書いていたタテノリ先生が話し掛けてきた。
「おいおい! 掃除はもう終わったぞぃ! この綺麗好き軍団め!」
 『ぞぃ』って、世代差どころの騒ぎじゃないだろ、もう。
 アタルが元気に答える。
「掃除用具の音をサンプリングさせて下さい!」
 いや先生にサンプリングとか言っても分かんないだろ、と思っていると、意外な反応を見せた。
「DJでもやるのっ? アタルはMCだけじゃなくてDJもやるのかーっ!」
 そう言って、おでこを叩き、こりゃ一本とられたみたいなリアクションをした。
 いやまあ世代差を感じるアクションはすると思っていたが、まさかタテノリ先生がMCとかDJとか知っているとは。
「タテノリ先生もラップとか聞くんですかっ!」
 アタルが楽しそうにそう聞くと、タテノリ先生は胸に差していた赤ペンをマイクのように掴んで喋り出した。
「YO! YO! YEAH! YEAH! ラップ! マジで好き! アタル! 私とディスり合いならぬ! 褒め褒めバトルするかいっ?」
 まあ先生が子供に対してディスり合い、つまり悪口の言い合いはやっちゃダメだからな。
 アタルは目をランランと輝かせながら、ちりとりの柄の部分をマイクのように構えた。
 そして俺のイヤホンを見る二人。
 いや息ぴったりだな。
 まあ曲流せってわけだな。
 俺はスマホのイヤホンジャックを外し、外に音が出るようにして、簡易的なビートを鳴らした。

《タテノリ先生》
まずは私からラップ、ラップ 大人なんで韻は楽、らっく
アタルは明るくて楽しい生徒 教室に華を咲かせる系統
良いメーターのてっぺんが点灯 今のところ病欠無しの健康
どう、学校は慣れたかい? そしてどう、私はまだまだ若い?

【いやタテノリ先生、良いメーターのてっぺん点灯って何?】
【その良いメーターの内容を言うんだよ】
【あと生徒に自分が若いかどうか聞くな、褒められに自らくるな】

《アタル》
先生はいつも若くて元気 授業中に語る目、天使
真剣な聖人、新鮮な精神 先生を中心に組みたい円陣
エンジンマックスにしてくれる言葉 楽しくどんどん増える音が
学校は翔太のおかげで 僕の気持ちに応えて

【アタルのほうが韻の量、多いな】
【タテノリ先生、何が大人なんで韻は楽、らっくだ】
【結構アップアップだったなぁ】

《タテノリ先生・アタル》
フゥフゥ~フゥ!

 ……あっ、終わったみたいだ。
 というかあのノリ、世代差じゃなくて感覚の差だったんだ。
 タテノリ先生とアタルは息ぴったりだな。
「なかなかやるわね! アタル! 恐ろしい子……!」
 何かちょっとタテノリ先生、白目がちになったけども、何か元ネタがあるのだろうか。
 タテノリ先生は続ける。
「そして翔太! アンタの作ったビート、グッドよ!」
「うっっ!」
「うっ、って、アンタのリアクション古いわね」
 アンタに言われたくはないわ。
 というか。
「俺が作った曲だってよく分かりましたね」
「だってこんなシンプルな曲、プロ作らないでしょ」
 そうタテノリ先生が言うと、アタルがグイと前に出ながらこう言った。
「本気の翔太は全然こんなもんじゃありません!」
「いやハードル上げるなよ」
「だって実際そうじゃん!」
 そう言ってぷりぷり怒るアタル。
 いやまあそう言ってくれるのは有難いけどさ。
 そんな姿を見ていたタテノリ先生はこう言った。
「なるほど、MCがアタルで、DJが翔太ね、楽しみなペア! 私! めちゃくちゃ嬉しいです!」
「何でですか?」
 俺が普通に疑問を投げかけると、
「隣のB組では漫才コンビが生まれたらしいし、この5年A組にも何かできて嬉しいの! それがまたラップって! 私の一番好きなヤツじゃん!」
 そう両手をグーにして、力みながら喋るタテノリ先生。
 それを見ていたアタルは嬉しそうにこう言った。
「僕たちがずっとうまくいったら、いつかフィーチャリングして下さい!」
 それに対して間髪入れずにタテノリ先生は、
「勿論だわ!」
 と叫んだ。
 いや勿論ではないだろ。
 でもそう言えば。
 俺は気になったことを聞いた。
「アタルってまた引っ越したりしないの?」
「あぁ、今住んでいるところひいおじいちゃんが住んでいる家なんだけども、ひいおじいちゃんがそろそろ心配で元々実家だったところに戻ってきたって話だから、きっともう転校は無いよ!」
 俺は内心ホッとした。
 そしてそのホッとした自分に少し驚いた。
 そうか、俺はアタルとのユニットを大切にしていきたいと思っていたのか。
 そんな自分に気付けて、少し嬉しくなった。
 さて、というわけでサンプリングだ、サンプリング。
「じゃあタテノリ先生、俺たち、掃除用具をサンプリングするんで黙って下さい」
「そう、じゃあ職員室に戻って書類書こうかな」
 そう言ってタテノリ先生は書類を整えて、歩き出した。
 いや静かにしてくれればいいだけなんだけども、まあいいか。
 そんなタテノリ先生へアタルは質問をした。
「何で元々職員室でやっていなかったんですか?」
 そう言うと当たり前じゃないみたいな笑顔を浮かべてこう言った。
 あぁ、子供の様子を見ていたいというヤツだな。
 いいこと言う流れだな、これ。
 タテノリ先生は瞳をキラキラさせながら、こう言った。
「職員室は、何かクサいからよ」
 ダメだ! この先生!
 そういう時はいいことを言うんだよ!
 じゃあ瞳を輝かせるな!
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