17 / 18
【17 闇に引き込むあやかしの七不思議】
しおりを挟む
・
・【17 闇に引き込むあやかしの七不思議】
・
ガガくんは私を背負ってビームをかわしていく。
どうしても危ない時は壁太郎くんが壁を使ってくれたり、トースくんがガガくんを風で押し出してかわさせる。
また壁太郎くんは壁が移動の邪魔にならないようにすぐ消してくれるが、どうやらガガくんは少々逃げること・かわすことが苦手みたいだ。
ガガくんが私に言う。
「我は体ばかり磨いて頭がそんな良くないぜ! うまく指示を出してほしいぜ!」
「う、うん!」
と返事したものの、闇に引き込むあやかしは速度を超越している。
簡単に言えば、どんどん先回りしてワープし、ワープした直後にすぐビームを放ってくれるのだ。
それにあんまり疲れている様子も無い。むしろ私たちのほうが疲れている。
そろそろ壁太郎くんの三時間も終わってしまう。
今、壁太郎くんが動けなくなったら危険だ。
壁太郎くんの壁が今、一番の守備力になっているので、これが無くなったら終わりだ。
何か、何か考えなければ。
少なくても逃げ切り勝ちは無い、でもどこか違和感が。
何で闇に引き込むあやかしは突然私たちの目の前に出現して、ゼロ距離からビームを発さないんだろうか。
何か条件があるのか……! そうだ!
「闇に引き込むあやかしは影から一歩も出ていない! 太陽光が弱点だ!」
そう言った刹那、闇に引き込むあやかしは明らかに嫌がった表情をした。間違いない、これが弱点だ。ならば、
「壁太郎くん! 鏡の壁を作って! その鏡の壁をトースくんがうまい角度になるよう飛ばして闇に引き込むあやかしに当てて!」
「分かったべ!」
壁太郎くんはどんどん小さな鏡の壁を出現させた。
それをトースくんが狙って、というより多分アトランダムに風で浮かせた。
でもそのランダム性のせいでなおさら反射した光を防ぎづらいといった感じだ。
壁太郎くんは疲れたのか、小さな鏡の壁を出すことをやめたけども、状況としてはかなり良さそうだ。
私はさらにガガくんへ指示を出す。
闇に引き込むあやかしがワープしてきたところに光があるように、光との直線状の近くに立つように移動してほしい、と。
だんだん闇に引き込むあやかしはワープすることが億劫になってきている。
勝てると思ったその時だった。
闇に引き込むあやかしは笑いながら、口を開いた。
「まあ今回はオマエたちのために一時休戦としましょうか!」
あっ、ヤバイ、それをやられたら……。
「オマエたちにしっかり休んで体力回復するチャンスをあえて与え・・・」
と言いかけたその時だった。
壁太郎くんが一気に鏡の壁を出した。
光の反射する速度は早い。いわゆる光速というヤツだ。
一気に光が連鎖し、闇に引き込むあやかしに大量の光が直撃した。
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!」
壁太郎くんが言う。
「自分のこと強いと思っているヤツはいっつもそうだべ、人のことをずっとバカにして余裕があるところを見せたがるべ。そんなこと言わずさっさと逃げれば良かったんだべ。僕が疲れたと思ったべ? 違う、ずっと計算していたんだべ」
「まさか! まさかぁぁ! こんなザコたちにやられるなんてぇぇぇぇええええ! それでいいのかぁぁあああ! それでいいのかぁぁぁあああああああ!」
「いいんだべ、もう決めたんだべ。やっぱり小学校は平和なほうがいいんだべ、そうだべ?」
それに対してトースくんは笑顔で頷き、
「勿論です! もうこんなことは終わりにするんです!」
ガガくんもニカッと笑って、
「自分磨きして良かったぜ! こんな最高の瞬間に立ち会えるなんて嬉しいぜ! これで緋色は幸せだよなっ!」
私は満面の笑みで、
「ありがとう! みんな! これでこの小学校はもっと最高になるし! そんな最高の小学校をみんなで守っていこうよ!」
と言ったところで、苦しんでいる闇に引き込むあやかしが高笑いを上げた。
「アハハハハハハ! バカだ! バカだ! 人間なんてみんなバカなんだ! 最後の最後でこんな最高の瞬間に立ち会えるなんて最高なあやかし人生だったなぁ!」
一体何なんだ、もしかするとまだ何かあるのか、第二形態というヤツか? と思って、気を引き締めると、闇に引き込むあやかしが叫んだ。
「私が消滅するとな! この三人のあやかしも消滅するんだよ!」
「えっ」
私は生返事してしまった。闇に引き込むあやかしは続ける。
「アタシの強い闇の引力があるからこそ生きていられるんだよ、って言っただろ! アタシの強力な磁場のおかげで生きていたんだよ! この人型のあやかしたちはなぁ! なぁ! テメェら! テメェらは言っていなかったのかっ?」
私は訳が分からず、でも何だか分かるような気がして、手足が震えてきた。
壁太郎くんやトースくんやガガくんが道中に話していたよく分からない会話。
当人同士だけが分かっているだけのあの会話。
その真相ってそういうこと?
じゃっ! じゃあ!
「何で闇に引き込むあやかし退治を手伝ってくれていたのっ?」
「だって小学校は子供たちが幸せであるべきだべ」
「僕たちはいらない存在なんです」
「そういうことだぜ!」
そう言って三人は私に対して笑顔で手を振っている。
三人の姿は闇に引き込むあやかしと共に薄く透明に近くなっている。
そんな、そんな聞いていない、聞いていないというかそうか、聞いたらきっと私が迷うと思って言わないでいてくれたんだ、でもそんな、そんなことある? やっと仲良くなったのに、すぐお別れなんてありえないよ、これからずっと一緒に遊ぶと思っていた、小学校を卒業したら一緒に中学校へ行ってとか思っていたのに、何で何で、何でこんな運命なの? いっつも私ってうまくいかない。環奈ちゃんとの縁も切れて、今度は壁太郎くんともトースくんともガガくんともお別れ? 無理、そんなの無理過ぎ、ダメだ、ダメだ、心が折れちゃうと思っていると、壁太郎くんが叫んだ。
「緋色ちゃんは笑顔が似合うべ! 笑って送ってほしいべ!」
トースくんも拳を強く握って言う、
「緋色! 次会う時があったら、その時も仲良くしてほしいです!」
「緋色! 我のように自分磨きをするんだぜ! そうすればもっともっと幸せになるぜ!」
三人、そして闇に引き込むあやかしは消えていった。
私は一気に失意のどん底になった。
私のせいであの三人や他の人型のあやかしを殺してしまったということ……? そんな……。
空を見上げると、夕暮れは夜に近付き始めて、空が紫色になってきた。
あぁ、時間は進んでいる、進み始めている、だからもう本当にいないんだ、と思ったその時だった。
「緋色ちゃん、早く帰る準備しなさい」
振り返るとそこには用務員のおじさんが立っていた。
「はい」
声をなんとか振り絞って返事して、私は家へ帰る準備をした。
こんな濃密な時間を過ごしたことは無かった。
こんな残酷な時間を過ごしたことは無かった。
私のやったことは正しかったのだろうか。
でも小学校はこれで平和になった、はず。
なった、はず。
いいや、これからだ。
これからさらに私が頑張らないといけないんだ。
でも、私って、何で頑張っているんだっけ……?
きっと幻だったあの環奈ちゃんを思い出す。
私ってウザいんじゃないかな。
私なんていたって、もう……。
・【17 闇に引き込むあやかしの七不思議】
・
ガガくんは私を背負ってビームをかわしていく。
どうしても危ない時は壁太郎くんが壁を使ってくれたり、トースくんがガガくんを風で押し出してかわさせる。
また壁太郎くんは壁が移動の邪魔にならないようにすぐ消してくれるが、どうやらガガくんは少々逃げること・かわすことが苦手みたいだ。
ガガくんが私に言う。
「我は体ばかり磨いて頭がそんな良くないぜ! うまく指示を出してほしいぜ!」
「う、うん!」
と返事したものの、闇に引き込むあやかしは速度を超越している。
簡単に言えば、どんどん先回りしてワープし、ワープした直後にすぐビームを放ってくれるのだ。
それにあんまり疲れている様子も無い。むしろ私たちのほうが疲れている。
そろそろ壁太郎くんの三時間も終わってしまう。
今、壁太郎くんが動けなくなったら危険だ。
壁太郎くんの壁が今、一番の守備力になっているので、これが無くなったら終わりだ。
何か、何か考えなければ。
少なくても逃げ切り勝ちは無い、でもどこか違和感が。
何で闇に引き込むあやかしは突然私たちの目の前に出現して、ゼロ距離からビームを発さないんだろうか。
何か条件があるのか……! そうだ!
「闇に引き込むあやかしは影から一歩も出ていない! 太陽光が弱点だ!」
そう言った刹那、闇に引き込むあやかしは明らかに嫌がった表情をした。間違いない、これが弱点だ。ならば、
「壁太郎くん! 鏡の壁を作って! その鏡の壁をトースくんがうまい角度になるよう飛ばして闇に引き込むあやかしに当てて!」
「分かったべ!」
壁太郎くんはどんどん小さな鏡の壁を出現させた。
それをトースくんが狙って、というより多分アトランダムに風で浮かせた。
でもそのランダム性のせいでなおさら反射した光を防ぎづらいといった感じだ。
壁太郎くんは疲れたのか、小さな鏡の壁を出すことをやめたけども、状況としてはかなり良さそうだ。
私はさらにガガくんへ指示を出す。
闇に引き込むあやかしがワープしてきたところに光があるように、光との直線状の近くに立つように移動してほしい、と。
だんだん闇に引き込むあやかしはワープすることが億劫になってきている。
勝てると思ったその時だった。
闇に引き込むあやかしは笑いながら、口を開いた。
「まあ今回はオマエたちのために一時休戦としましょうか!」
あっ、ヤバイ、それをやられたら……。
「オマエたちにしっかり休んで体力回復するチャンスをあえて与え・・・」
と言いかけたその時だった。
壁太郎くんが一気に鏡の壁を出した。
光の反射する速度は早い。いわゆる光速というヤツだ。
一気に光が連鎖し、闇に引き込むあやかしに大量の光が直撃した。
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!」
壁太郎くんが言う。
「自分のこと強いと思っているヤツはいっつもそうだべ、人のことをずっとバカにして余裕があるところを見せたがるべ。そんなこと言わずさっさと逃げれば良かったんだべ。僕が疲れたと思ったべ? 違う、ずっと計算していたんだべ」
「まさか! まさかぁぁ! こんなザコたちにやられるなんてぇぇぇぇええええ! それでいいのかぁぁあああ! それでいいのかぁぁぁあああああああ!」
「いいんだべ、もう決めたんだべ。やっぱり小学校は平和なほうがいいんだべ、そうだべ?」
それに対してトースくんは笑顔で頷き、
「勿論です! もうこんなことは終わりにするんです!」
ガガくんもニカッと笑って、
「自分磨きして良かったぜ! こんな最高の瞬間に立ち会えるなんて嬉しいぜ! これで緋色は幸せだよなっ!」
私は満面の笑みで、
「ありがとう! みんな! これでこの小学校はもっと最高になるし! そんな最高の小学校をみんなで守っていこうよ!」
と言ったところで、苦しんでいる闇に引き込むあやかしが高笑いを上げた。
「アハハハハハハ! バカだ! バカだ! 人間なんてみんなバカなんだ! 最後の最後でこんな最高の瞬間に立ち会えるなんて最高なあやかし人生だったなぁ!」
一体何なんだ、もしかするとまだ何かあるのか、第二形態というヤツか? と思って、気を引き締めると、闇に引き込むあやかしが叫んだ。
「私が消滅するとな! この三人のあやかしも消滅するんだよ!」
「えっ」
私は生返事してしまった。闇に引き込むあやかしは続ける。
「アタシの強い闇の引力があるからこそ生きていられるんだよ、って言っただろ! アタシの強力な磁場のおかげで生きていたんだよ! この人型のあやかしたちはなぁ! なぁ! テメェら! テメェらは言っていなかったのかっ?」
私は訳が分からず、でも何だか分かるような気がして、手足が震えてきた。
壁太郎くんやトースくんやガガくんが道中に話していたよく分からない会話。
当人同士だけが分かっているだけのあの会話。
その真相ってそういうこと?
じゃっ! じゃあ!
「何で闇に引き込むあやかし退治を手伝ってくれていたのっ?」
「だって小学校は子供たちが幸せであるべきだべ」
「僕たちはいらない存在なんです」
「そういうことだぜ!」
そう言って三人は私に対して笑顔で手を振っている。
三人の姿は闇に引き込むあやかしと共に薄く透明に近くなっている。
そんな、そんな聞いていない、聞いていないというかそうか、聞いたらきっと私が迷うと思って言わないでいてくれたんだ、でもそんな、そんなことある? やっと仲良くなったのに、すぐお別れなんてありえないよ、これからずっと一緒に遊ぶと思っていた、小学校を卒業したら一緒に中学校へ行ってとか思っていたのに、何で何で、何でこんな運命なの? いっつも私ってうまくいかない。環奈ちゃんとの縁も切れて、今度は壁太郎くんともトースくんともガガくんともお別れ? 無理、そんなの無理過ぎ、ダメだ、ダメだ、心が折れちゃうと思っていると、壁太郎くんが叫んだ。
「緋色ちゃんは笑顔が似合うべ! 笑って送ってほしいべ!」
トースくんも拳を強く握って言う、
「緋色! 次会う時があったら、その時も仲良くしてほしいです!」
「緋色! 我のように自分磨きをするんだぜ! そうすればもっともっと幸せになるぜ!」
三人、そして闇に引き込むあやかしは消えていった。
私は一気に失意のどん底になった。
私のせいであの三人や他の人型のあやかしを殺してしまったということ……? そんな……。
空を見上げると、夕暮れは夜に近付き始めて、空が紫色になってきた。
あぁ、時間は進んでいる、進み始めている、だからもう本当にいないんだ、と思ったその時だった。
「緋色ちゃん、早く帰る準備しなさい」
振り返るとそこには用務員のおじさんが立っていた。
「はい」
声をなんとか振り絞って返事して、私は家へ帰る準備をした。
こんな濃密な時間を過ごしたことは無かった。
こんな残酷な時間を過ごしたことは無かった。
私のやったことは正しかったのだろうか。
でも小学校はこれで平和になった、はず。
なった、はず。
いいや、これからだ。
これからさらに私が頑張らないといけないんだ。
でも、私って、何で頑張っているんだっけ……?
きっと幻だったあの環奈ちゃんを思い出す。
私ってウザいんじゃないかな。
私なんていたって、もう……。
0
あなたにおすすめの小説
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
マジカル・ミッション
碧月あめり
児童書・童話
小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。
本の冒険者たち~はじまりの色彩~
月影 朔
児童書・童話
夏休み、退屈と無気力に沈む小学6年生のクウトは、世界の色彩が失われていることに気づく。
ある日、秘密の図書室で本の精霊リーフと賢者フクロウのオウルに出会い、人々から感情の色が失われている世界の危機を知らされる。失われた「怒り」を取り戻すため、クウトは『オズの魔法使い』の世界へ飛び込むが――。
いじめ、劣等感、孤独。誰もが抱える複雑な感情と向き合い、友情、勇気、信頼の「きずな」を紡ぎながら、自分と世界の色を取り戻す、感動の冒険ファンタジー!
童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)
カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ……
誰もいない野原のステージの上で……
アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ———
全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。
※高学年〜大人向き
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる