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4.求婚
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目を開けたら毛皮と汚い床とボロボロのベッドが見えた。どうやら、昨日の続きが今日もあるらしい。家主に睨まれたくはない。ため息を吐いて起き上がる。
「・・・おはよう」
「おはようございます」
アルが顔を覗かせた。さわやかな朝とは言えない顔をしてる。目が腫れぼったい私といい勝負だ。
「顔を洗うのは外の水でも大丈夫?」
「ああ」
それだけ言うとアルは顔を引っ込めた。着替えを考慮してくれてんのかな、パンツとブラは乾いたか?・・湿ってる。手ぬぐいの下に広げて置いただけじゃ無理だよね。うん、知ってた。湿っててもいいか。着てりゃ乾くだろ。色々持って部屋をでたら、アルとベルがお茶してた。
「おはようございます」
「おはよー」
ベルはにこやか。昨日の尋問のせいで胡散臭く感じる。朝から不穏だね。葉っぱを貰って外に行き、身支度をした。ミネラルファンデ派で良かったよ。イベント帰りなのも、非常食あるのも、運が良い。異世界に飛ばされるという、素晴らしい不運を除けば。プラマイは大きくマイナスだ。
家に戻り、荷物をカバンにしまってテーブルに行くとお茶が用意されていた。気遣いの人か!ありがたや。お礼を言って椅子に座り、お茶を飲む。はー温かい物はホッとするね。
「昨日の続き、いいかな?」
「うん、はい」
「俺達と結婚しよう」
「!!!」
ベルは胡散臭い笑顔のまま言い切った。アルは、驚いてベルを見てる。こんな顔もできるのね。プロポーズは二人の合意じゃないのか。
「ユウは平民と暮らせないと思うよ。ユウの普通は平民の普通じゃないから。例えば、食事中に唾を床に吐くとか、食べ物を口に入れたまま笑うとか、そんな感じだけど」
「・・・それは、ちょっと、だいぶ、無理かも」
「そうだよね。ユウの年だと貴族も大店も無理で、平民だとユウの条件に合わない。俺達が丁度いいと思うよ」
「・・・・・ベルは、なんで、私と、結婚するの?」
「アルが結婚したいんだって」
ぎょっとしてアルを見ると目が合って、驚愕の顔をしたまま赤くなった。ピュアかよ。お見合いおばちゃんとお見合い相手みたい。はは。ご趣味は?
お茶を一口飲んで息を吐いてから、アルに向き直る。
「アルはなんで?結婚したいの?」
「・・・・・結婚に、憧れて」
「・・うーん?女の人少なくても、アルとベルなら引く手あまたに思えるけど」
「・・・・俺達は双子だから・・忌避されるんだ」
「古っ!ふっるー!なんじゃそりゃ。双子なんて、可愛くて、一回で二人も増えてお得じゃん」
「・・・こっちでは、そうなんだ。だから、結婚は無理だ」
まさかの、双子忌避。座敷牢行きじゃなくて幸い、ってかー。し、か、も、ベルは私のことはどうでもよくて、アルの為に結婚するとか。なにそれ。ヤンデレなの?ヤンデレ小姑と同居とか詰んでない?でも、でも、食事中に唾吐くとかっっっムリっっ。食事がそうなら、全般的に怪しい。きっと痰吐いたり、立ちしょんしたりするんだ。あーーーームリィィィ。
「ユウは双子気にしないんでしょ。それに、俺達は森番だから平民より良いもの食べれるよ」
ベルの圧がすごい。息子の嫁を逃してなるものか感がすごい。平民は昨日の晩ご飯より悪い物を食べるの?それもキツイ。食事は毎日だから、キツイぞ。ヤンデレ姑もキツイけど。
「・・・・・考えさせてください」
「わかった、ゆっくり考えて。いい返事待ってるから。俺達は見回りに行くから出掛けるね。夜に帰るから、それまでは鍋のスープとそこのパンとチーズ食べて」
「・・・考えて欲しい。鍵は忘れずに掛けてくれ」
二人が出掛けた後、机に突っ伏した。ベルが怖い。断ったら、ものすごく無理な結婚相手を紹介されそう。うわっありそう。ええええええ、これは承諾一択じゃない?もしかして。
アルは、アルはなんか可愛い。赤い顔が可愛い。結婚に憧れてて、自分たちを嫌わない女現る!ヨシ結婚!ってなったのかなー。アルの理想が私で叶うかなんてわかんないのに。ロマンチストは扱いが面倒くさいんだよな。自分の理想の台本に沿って行動して、こっちにもそれを要求する、みたいな。アルはどんなタイプだ?
ベルは、怖い。アルと喧嘩したら滅茶苦茶に詰められそう。うーん、でもアルを喜ばせてたらおとなしくしてそう。と、いうことは、毎日監視されながら、アルのご機嫌取りすんの?私の精神死ぬんじゃない?
嫌悪と重圧、どっちがマシだ?・・・ご飯か、ご飯事情もあるしなー。アルとベルの対応によってはこっちがマシか。相手の対応次第ってとこが、どうにもできなくて泣ける。
アルは自分の不遇を気にしてんだよね。不遇状態で優しくしたらコロッと好きモードになるかな。そんで、私の味方につけて、ベルの盾になってもらう。問題は、そんなに上手く立ち回れないだろう私。ガホッ。
・・・お腹減った。異世界は朝ごはん無しか。スープとあのパンとチーズ食べるか。そんで、イベント戦利品を見よう。暇。
ご飯のあとワイルドな皿洗いをして戦利品を並べる。いくつも買った指輪とピアス。お菓子、石鹸、オイル。散財したなー。異世界来るならもっと買っておけば良かった。お菓子買い過ぎないように我慢したのに。もう二度と食べられないとか。指輪だって、厳選して五個に絞ったのに。でも、今回は良い戦利品と会えたな。カエルの抱きつき指輪とか可愛すぎる。コガネムシも良い色でステキだし、蟻と飴玉デザインとか神!トパーズのカンロ飴だ!オパールリングは乙女よ、うふっ。そして、どうよこの翡翠!ピアスとお揃い!小さいけど透かし彫り!メチャ高だった!金瓶梅コス出来そうじゃない!もうムリだけど!
アッハッハ、全部つけてやる。テイスト違うけど構うもんか。あ、これ換金できるかな。石付きはいけるかも。
指にはめた指輪を見ながら空しくなる。葉っぱと薪の生活じゃ指輪なんてしてられない。
カバンから本を出して読んでも頭に何も入らず、刺繍枠を出して刺繍の続きをする。手持ちの糸がなくなったらお終い。図案を変えようか。埋めないで線だけにしようかな。
単純作業に没頭していたら、ドアがノックされて驚く。ああ、鍵かけてたんだ。
「鍵開けてー」
「はーい。おかえりなさい」
急いで鍵を外してドアを開け、二人を迎えた。
「・・・ただいま」
「ただいま」
「おかえりなさい。ごめん、机の上散らかしちゃった。すぐ片付けるわ」
机の上の空き袋を畳んでると、焦った顔のアルとベルが慌てて側に来た。
「婚約者いたの?」
「いないよ」
「だって、指輪してる」
「あ、これ?可愛いでしょ。飛ばされる前に買った指輪。特にこの虫の色が」
「自分で買ったの?」
「そうだよ。この翡翠は、ピアスとお揃いなの。ほら」
「・・・ユウは裕福な育ちか」
「だから、違うって。自分で稼いだお金で買ったんだから。そーゆー言い方しないで。私だって働く苦労知ってるよ。それに、私にとっては高いけど、お金持ちからしたら鼻紙みたいな値段だよ。あ、これ売れるかな?」
「すまない、女性の飾りは夫か親が買うものだから、そう思った。ユウの国では自分で買うんだな」
「自分で買ったり、買って貰ったり、相続したり、だよ」
「ふーん、そっか。婚約者がいないならいっか。指輪は売れるよ。婚約には指輪が必要だし、平民は大抵、中古を買うから」
「良かった。売れるんだ。傷つかないようにしまっておかないと」
「売らなくていいよ。贅沢は難しいけど、俺達は指輪を売らなくていい程度には養えるよ」
きたー、ベルの畳みかける様なアピール。贅沢は難しいけど養えるって、昭和のプロポーズみたいだな。・・・アルは、な、なんだーその縋る様な顔は!罪悪感果てしないだろうが。だろうがよ。
「・・・考えてくれると嬉しいが、断っても大丈夫だ。夫も探す」
アルぅぅぅー、なんじゃその諦めた態度は!ベルの笑顔が恐ろしいことになっただろうが!そりゃー私は答えを保留してますよ、してますけど、圧迫面接はないんじゃないですか。
「・・・外で鳥を片付けてくる」
「あ、私も手伝う。アルと一緒に行く」
ベルと二人きりとか無理。怖い。指輪とテーブルに広げた荷物をカバンに押し込んで、急いでベルの前から逃げた。
外に出ると、アルが鳥をぶら下げていた。おおう、生々しいな。捨て場で羽をむしるらしいので、付いていく。アルの隣に座って羽むしりを眺める。
「手伝うことある?」
「・・・ないな」
「結婚のこと、聞いてもいい?」
「ああ」
「あのさあ、いきなり現れて『違う世界に居た』とか、頭がどうかしてることを言い出す怪しい女とどうして結婚したいの?」
「ぶふっ・・・そう聞くと怪しいな。くふっ。くくっ」
お、笑ってますよ。やっぱ自然の笑顔が一番だよ、ベルの恐ろしい笑顔は勘弁だよ。
「あと、確認なんだけど、ここは山の上だから薪と水汲みが必要なの?他の町でもそうなの?」
「薪だな。木炭と石炭もあるけど高い。他の国まではわからない。町は井戸と、水売りも来る」
「そうかー。あんまりここと変わらないね。食材ってどうしてるの?」
「パンは町でまとめて買う。麦粉も。小さいが畑はある。肉は今日みたく狩る」
「畑あるんだね」
「森番は狩りをしていいんだ。だから肉を食べれる。薬草があるから薬も作れる。布も支給されるし、貯えもある。結婚して欲しい」
静かにはっきり言い切ったアルの真剣な目に見つめられて、私はたじろぐ。
「どう、したの、急に」
「・・・帰った時、出迎えて貰えて、嬉しかった」
アルからポツリとこぼれた言葉が、ストンとはまった。
そっかー、そんな感じで良いいんだ。まあ、親の決めた相手と結婚するらしいし、最初から好きじゃなくてもいいよね。そっか、そっか。それならいっか。
「する。結婚」
「!!っっ・・・・・ありがとう」
はにかんだアルの顔がすごく嬉しそうで、なんだか胸がジンとした。
「・・・おはよう」
「おはようございます」
アルが顔を覗かせた。さわやかな朝とは言えない顔をしてる。目が腫れぼったい私といい勝負だ。
「顔を洗うのは外の水でも大丈夫?」
「ああ」
それだけ言うとアルは顔を引っ込めた。着替えを考慮してくれてんのかな、パンツとブラは乾いたか?・・湿ってる。手ぬぐいの下に広げて置いただけじゃ無理だよね。うん、知ってた。湿っててもいいか。着てりゃ乾くだろ。色々持って部屋をでたら、アルとベルがお茶してた。
「おはようございます」
「おはよー」
ベルはにこやか。昨日の尋問のせいで胡散臭く感じる。朝から不穏だね。葉っぱを貰って外に行き、身支度をした。ミネラルファンデ派で良かったよ。イベント帰りなのも、非常食あるのも、運が良い。異世界に飛ばされるという、素晴らしい不運を除けば。プラマイは大きくマイナスだ。
家に戻り、荷物をカバンにしまってテーブルに行くとお茶が用意されていた。気遣いの人か!ありがたや。お礼を言って椅子に座り、お茶を飲む。はー温かい物はホッとするね。
「昨日の続き、いいかな?」
「うん、はい」
「俺達と結婚しよう」
「!!!」
ベルは胡散臭い笑顔のまま言い切った。アルは、驚いてベルを見てる。こんな顔もできるのね。プロポーズは二人の合意じゃないのか。
「ユウは平民と暮らせないと思うよ。ユウの普通は平民の普通じゃないから。例えば、食事中に唾を床に吐くとか、食べ物を口に入れたまま笑うとか、そんな感じだけど」
「・・・それは、ちょっと、だいぶ、無理かも」
「そうだよね。ユウの年だと貴族も大店も無理で、平民だとユウの条件に合わない。俺達が丁度いいと思うよ」
「・・・・・ベルは、なんで、私と、結婚するの?」
「アルが結婚したいんだって」
ぎょっとしてアルを見ると目が合って、驚愕の顔をしたまま赤くなった。ピュアかよ。お見合いおばちゃんとお見合い相手みたい。はは。ご趣味は?
お茶を一口飲んで息を吐いてから、アルに向き直る。
「アルはなんで?結婚したいの?」
「・・・・・結婚に、憧れて」
「・・うーん?女の人少なくても、アルとベルなら引く手あまたに思えるけど」
「・・・・俺達は双子だから・・忌避されるんだ」
「古っ!ふっるー!なんじゃそりゃ。双子なんて、可愛くて、一回で二人も増えてお得じゃん」
「・・・こっちでは、そうなんだ。だから、結婚は無理だ」
まさかの、双子忌避。座敷牢行きじゃなくて幸い、ってかー。し、か、も、ベルは私のことはどうでもよくて、アルの為に結婚するとか。なにそれ。ヤンデレなの?ヤンデレ小姑と同居とか詰んでない?でも、でも、食事中に唾吐くとかっっっムリっっ。食事がそうなら、全般的に怪しい。きっと痰吐いたり、立ちしょんしたりするんだ。あーーーームリィィィ。
「ユウは双子気にしないんでしょ。それに、俺達は森番だから平民より良いもの食べれるよ」
ベルの圧がすごい。息子の嫁を逃してなるものか感がすごい。平民は昨日の晩ご飯より悪い物を食べるの?それもキツイ。食事は毎日だから、キツイぞ。ヤンデレ姑もキツイけど。
「・・・・・考えさせてください」
「わかった、ゆっくり考えて。いい返事待ってるから。俺達は見回りに行くから出掛けるね。夜に帰るから、それまでは鍋のスープとそこのパンとチーズ食べて」
「・・・考えて欲しい。鍵は忘れずに掛けてくれ」
二人が出掛けた後、机に突っ伏した。ベルが怖い。断ったら、ものすごく無理な結婚相手を紹介されそう。うわっありそう。ええええええ、これは承諾一択じゃない?もしかして。
アルは、アルはなんか可愛い。赤い顔が可愛い。結婚に憧れてて、自分たちを嫌わない女現る!ヨシ結婚!ってなったのかなー。アルの理想が私で叶うかなんてわかんないのに。ロマンチストは扱いが面倒くさいんだよな。自分の理想の台本に沿って行動して、こっちにもそれを要求する、みたいな。アルはどんなタイプだ?
ベルは、怖い。アルと喧嘩したら滅茶苦茶に詰められそう。うーん、でもアルを喜ばせてたらおとなしくしてそう。と、いうことは、毎日監視されながら、アルのご機嫌取りすんの?私の精神死ぬんじゃない?
嫌悪と重圧、どっちがマシだ?・・・ご飯か、ご飯事情もあるしなー。アルとベルの対応によってはこっちがマシか。相手の対応次第ってとこが、どうにもできなくて泣ける。
アルは自分の不遇を気にしてんだよね。不遇状態で優しくしたらコロッと好きモードになるかな。そんで、私の味方につけて、ベルの盾になってもらう。問題は、そんなに上手く立ち回れないだろう私。ガホッ。
・・・お腹減った。異世界は朝ごはん無しか。スープとあのパンとチーズ食べるか。そんで、イベント戦利品を見よう。暇。
ご飯のあとワイルドな皿洗いをして戦利品を並べる。いくつも買った指輪とピアス。お菓子、石鹸、オイル。散財したなー。異世界来るならもっと買っておけば良かった。お菓子買い過ぎないように我慢したのに。もう二度と食べられないとか。指輪だって、厳選して五個に絞ったのに。でも、今回は良い戦利品と会えたな。カエルの抱きつき指輪とか可愛すぎる。コガネムシも良い色でステキだし、蟻と飴玉デザインとか神!トパーズのカンロ飴だ!オパールリングは乙女よ、うふっ。そして、どうよこの翡翠!ピアスとお揃い!小さいけど透かし彫り!メチャ高だった!金瓶梅コス出来そうじゃない!もうムリだけど!
アッハッハ、全部つけてやる。テイスト違うけど構うもんか。あ、これ換金できるかな。石付きはいけるかも。
指にはめた指輪を見ながら空しくなる。葉っぱと薪の生活じゃ指輪なんてしてられない。
カバンから本を出して読んでも頭に何も入らず、刺繍枠を出して刺繍の続きをする。手持ちの糸がなくなったらお終い。図案を変えようか。埋めないで線だけにしようかな。
単純作業に没頭していたら、ドアがノックされて驚く。ああ、鍵かけてたんだ。
「鍵開けてー」
「はーい。おかえりなさい」
急いで鍵を外してドアを開け、二人を迎えた。
「・・・ただいま」
「ただいま」
「おかえりなさい。ごめん、机の上散らかしちゃった。すぐ片付けるわ」
机の上の空き袋を畳んでると、焦った顔のアルとベルが慌てて側に来た。
「婚約者いたの?」
「いないよ」
「だって、指輪してる」
「あ、これ?可愛いでしょ。飛ばされる前に買った指輪。特にこの虫の色が」
「自分で買ったの?」
「そうだよ。この翡翠は、ピアスとお揃いなの。ほら」
「・・・ユウは裕福な育ちか」
「だから、違うって。自分で稼いだお金で買ったんだから。そーゆー言い方しないで。私だって働く苦労知ってるよ。それに、私にとっては高いけど、お金持ちからしたら鼻紙みたいな値段だよ。あ、これ売れるかな?」
「すまない、女性の飾りは夫か親が買うものだから、そう思った。ユウの国では自分で買うんだな」
「自分で買ったり、買って貰ったり、相続したり、だよ」
「ふーん、そっか。婚約者がいないならいっか。指輪は売れるよ。婚約には指輪が必要だし、平民は大抵、中古を買うから」
「良かった。売れるんだ。傷つかないようにしまっておかないと」
「売らなくていいよ。贅沢は難しいけど、俺達は指輪を売らなくていい程度には養えるよ」
きたー、ベルの畳みかける様なアピール。贅沢は難しいけど養えるって、昭和のプロポーズみたいだな。・・・アルは、な、なんだーその縋る様な顔は!罪悪感果てしないだろうが。だろうがよ。
「・・・考えてくれると嬉しいが、断っても大丈夫だ。夫も探す」
アルぅぅぅー、なんじゃその諦めた態度は!ベルの笑顔が恐ろしいことになっただろうが!そりゃー私は答えを保留してますよ、してますけど、圧迫面接はないんじゃないですか。
「・・・外で鳥を片付けてくる」
「あ、私も手伝う。アルと一緒に行く」
ベルと二人きりとか無理。怖い。指輪とテーブルに広げた荷物をカバンに押し込んで、急いでベルの前から逃げた。
外に出ると、アルが鳥をぶら下げていた。おおう、生々しいな。捨て場で羽をむしるらしいので、付いていく。アルの隣に座って羽むしりを眺める。
「手伝うことある?」
「・・・ないな」
「結婚のこと、聞いてもいい?」
「ああ」
「あのさあ、いきなり現れて『違う世界に居た』とか、頭がどうかしてることを言い出す怪しい女とどうして結婚したいの?」
「ぶふっ・・・そう聞くと怪しいな。くふっ。くくっ」
お、笑ってますよ。やっぱ自然の笑顔が一番だよ、ベルの恐ろしい笑顔は勘弁だよ。
「あと、確認なんだけど、ここは山の上だから薪と水汲みが必要なの?他の町でもそうなの?」
「薪だな。木炭と石炭もあるけど高い。他の国まではわからない。町は井戸と、水売りも来る」
「そうかー。あんまりここと変わらないね。食材ってどうしてるの?」
「パンは町でまとめて買う。麦粉も。小さいが畑はある。肉は今日みたく狩る」
「畑あるんだね」
「森番は狩りをしていいんだ。だから肉を食べれる。薬草があるから薬も作れる。布も支給されるし、貯えもある。結婚して欲しい」
静かにはっきり言い切ったアルの真剣な目に見つめられて、私はたじろぐ。
「どう、したの、急に」
「・・・帰った時、出迎えて貰えて、嬉しかった」
アルからポツリとこぼれた言葉が、ストンとはまった。
そっかー、そんな感じで良いいんだ。まあ、親の決めた相手と結婚するらしいし、最初から好きじゃなくてもいいよね。そっか、そっか。それならいっか。
「する。結婚」
「!!っっ・・・・・ありがとう」
はにかんだアルの顔がすごく嬉しそうで、なんだか胸がジンとした。
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