ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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73.不在と森の夫達

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森番の家に、洗濯した覚えのない服が風に揺れていた。
それに気づいた途端、アルは走り出し、ベルが追い掛ける。息せき切って家のドアを開けると、ガランとした薄暗い室内が昨日と同じようにそこにあった。
ドアから夕方の光が差し込んだ床は、今朝よりもさっぱりして見える。ベルが竈の火を掻き立て、燭台に火をつけた。
テーブルの上の見慣れない布に目を止め、燭台をテーブルに置いて広げると、大きめのハンカチで、アルとベルのイニシャルが刺繍してあった。三枚ずつ、それぞれ違う飾り文字で、丁寧に。
暗い目をしたアルは震える指で刺繍をなぞり、ベルはじっと唇を噛んでそれを見た。

「・・お土産あるって、ユウ、言ってたね。きっとこれのことだったんだ。・・・・・俺達に贈り物だったんだ」

ここ数日寝不足のアルはますます酷い顔色になり、奥歯を噛み締めた。二人はそのまま無言で立ち尽くし、しばらくして大きくため息を吐いたベルは、仕事の後始末を始める。ハンカチから手を離したアルがノロノロと動き出したところで、開いたドアから弾んだ声が入ってきた。

「ユウ、ユウ、ありがとう!・・・あれ、ユウは?」

ミカがおかしな雰囲気の二人を訝しげに見る。暗い顔したアルと、無表情のベルがいる家はいつもと違って、空気が澱んでいるようだった。

「・・・ユウはいない」
「魔法使いのところ?また行ったの?いつ帰ってくるの?」
「・・・・・もう帰らない」
「・・・なんで?・・・ユウは森にいるのが嫌になったの?」
「俺が・・・俺が魔法使いのところへ行ったほうが良いと言った」
「!なんでっなんで!?ユウを追い出したの!?」
「ユウはっ魔法使いが好きなんだ!愛してるんだ!魔法使いのところに行ったほうが良いんだ!」

大声を出したミカを遮るようにアルが怒鳴った。

「・・・・・ユウが行きたいって言ったの?」
「・・・言って無い」
「・・やっぱり追い出したんだ。ユウは森に住むって言ってたのに。」
「ユウは『わかった』って言っていた。反対もしなかった」
「ユウは、ユウは、いつも俺達の願いを聞いてくれる!アルが言ったから、ユウは頷いたんだ。ユウはいつも『良いよ』って言うんだ!」

青ざめた顔でミカが叫ぶ。目に失望を漂わせて。

「・・・・・ユウは魔法使いが好きなんだから、魔法使いと一緒に住むのが幸せなんだ」
「そんなの、アルが決めることじゃない。ユウは俺達のことだって好きなんだ。贈り物だってくれた。俺、お礼言いにきたのに」
「・・ミカは見てないから。魔法使いのところから帰ってきたユウが、・・・あんな幸せそうな顔を」
「ユウが幸せなら良いことなのに。ユウが幸せだから追い出したの?俺達はユウに幸せを貰ったのに、ユウが幸せになったら怒るの?」
「・・・そういうことじゃない。ユウは魔法使いが一番好きなんだ」
「・・アルは、アルはベルがいるのに。アルはベルを一番大事にしてるのに、ユウが他の夫を大事にしたら怒るの?アルは、アルは、酷い。俺なら追い出さないのに。俺ならユウを一番にするのに。・・・・・ユウが一緒なら、なんだっていいのに」

段々と声が小さくなったミカはポツリとこぼし、背を向けて帰った。
日がすっかり落ちて暗くなった室内に火が揺れ、二人の影を浮かべた。何も言わない二人は、静かに食事をする。重苦しく暗い部屋で。


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