ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

文字の大きさ
76 / 139

75.エーミールの行動 Side エーミール

しおりを挟む
2話投稿 1/2


_____________

Side エーミール

ユウナギが様子のおかしいまま熱を出したので、話が拗れているようなら神殿に連れて帰ろうと思い、森番の家を訪ねた。

確かに、あのユウナギを見たら酷い焦燥に駆られるだろう。世界が違うと泣いた姿は跡形もなく、愛情で花開いた美しさがあったのだから。二十代なら私も嫉妬に胸を焦がし、ユウナギを責めたかもしれない。
距離を置いたほうが良い時もある。ユウナギが嫌がっても、これ以上拗れるようなら離れたほうが良いだろう。

訪ねると、不愉快さを隠さず用件を聞かれた。随分と状況が悪いようだ。

「ユウナギの見舞いに来た」
「・・・・・ユウは神殿にいないのか?」
「何を言っている?家にいないのか?ユウナギは昨日から熱が出ているだろう?」
「!知らない・・・」
「炭焼きの所か?どうなっている?」
「・・神殿から戻った次の日に家を出た。そちらに行ったはずだ」
「グラウっ!」

グラウは焦った顔で飛んだ。指輪の所に飛んだはずだ。ユウナギがまだ指輪をしているのなら。
こいつらは一体何をやっているんだ。妻の行き先も確認せず。それは私も一緒だ。毎朝、会っていたのに。クソっ。無理にでも引き留めて置けば良かった。

「ユウナギがどこで過ごしているか知らないんだな」
「神殿にいると・・・。」
「朝だけだ。グラウとの休暇が終わってから神殿には朝しか来ていない。昨日は熱が出たから、しばらく来れないと言われた。ここにも神殿にもいないのなら、炭焼きのところか」
「・・・ミカは一昨日、ユウを訪ねて家に来た」
「!!一体、どこにっ・・くそっ、グラウ早くしろ・・。満足か?ユウナギはグラウで咲いたが、お前達が手折った。森に帰ってからずっと萎れた花のようだった。すっかり痩せて」

怒りと焦燥で、歯を食いしばらないと魔力が暴れそうだ。

「なぜ追い出した?なぜ?」
「魔法使いの所にいる方が良いと・・・」
「ユウナギは森にいると言ったんだ!私達にも何も言わず。港を見て、自分の世界ではないと泣いたんだぞ。グラウと婚姻して落ち着いたと思ったら、すぐこれだ。・・・ユウナギは、最初から諦めているし、助けを求めない。私達を誰一人信頼していない」

自分で言って虚しくなる。そう、信頼されていない。ため息が出た。双子は言葉を失っている。自業自得だ。
イライラとグラウを待っていると、悲観にくれた顔をして現れたので、ゾッとした。

「ユウナギは!?」
「炭焼きのところだ。熱を出して眠っているそうだ。今日、見つけたらしい」
「治療棟に連れて帰れないのか?」
「ただの風邪だと。ユウナギから指輪を外して、会えもしなかった」
「会えないのか・・。炭焼きが保護して世話をするんだろう。・・・仕方がない。無事ならそれで良い」

ユウナギが保護されてホッとした。森で一人、生きていけるような育ちじゃない。

グラウは双子に怒り出した。

「なぜっ、追い出した!なぜ一人にした!」
「魔法使いのところに行ったほうが良いと言ったんだ!ユウは、あんたといたほうがいいと!」
「ユウナギは森を選んだのに!」
「ユウはあんたと婚姻してすぐ変わった!前から関係してたんなら、そっちに行ったほうがいいんだ!」
「侮辱だ!ユウナギは求婚するまで話どころか目も合わせなかったのに!」
「!?・・では、なぜ、すぐ変わった?」
「知るか!」

違うのか?私もてっきり、以前から親しくしていたのだと思っていた。だから出し抜かれたと思ったのに。
・・・初対面でユウナギの国に似ている奴がいると言っていた。懐かしかったのかもしれない。まあ、真相はユウナギの中だ。

「・・確かにグラウのやり方は誤解を招くな」
「お前だって似たようなことをした」
「私は、初対面だとわかるし、夫全員の前で求婚したのだから、誤解されようがない」

反論しようとしたグラウは、唇を噛んだ。こいつは焦り過ぎなんだ。だから誤解も招く。

「もういい。我々は全員まぬけだ。妻は夫に頼るより、女神の御許を選んだのだから。保護した炭焼きに感謝だな」

愕然とする。本当にそうだ。ユウナギは諦めているというより、どうでもいいんだな。自分も我々も。自分がこんなに無力だと思ったことはない。よりにもよって妻にそう思われるとは。私は本当にどうしたらいいんだ?

「戻る。お前達はユウナギを手放したのだから、夫を降りろ。嫌なら自分のやったことを良く考えるんだな」

無言の双子に言い捨てて、神殿に戻った。完全に八つ当たりだ。双子と話した内容をグラウに教える。グラウからは炭焼きとの話を聞いた。グラウの焦燥は酷いが、当たり前だ。無理矢理、連れ去ろうとしたら誰だって警戒するし、会わせないだろう。こいつの行動は全部裏目に出るな。許すのはユウナギぐらいだ。
まったく、なんでこんな面倒な奴ばっかり夫にするんだ。仕事以外でこんな厄介を抱えるとは思わなかった。

ユウナギは熱を出して眠っている。夫全員を見放して。私を放り出して。どうでもいいから許すんだ。
私の名をあんなに呼んだのに。ベッドの上だけだ。今までと同じ、何も変わらない。体だけだ。あんなに気にかけていた森の夫達も私と同じ。いったい、どうしたら振り向いて私を必要とするんだ?


しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...