ポンコツな私と面倒な夫達 【R18】

象の居る

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番外編2

3.聞かれてしまった

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 不安になりながらエーミールの部屋につくと、エーミールがにこやかに迎えてくれて少し安心する。挨拶をして席に着いた。

 オリヴァのぎこちなさに気持ちがザワつき、もう一度わけを聞いてみた。

「オリヴァ、どうしたの? 何かあった?」
「……いや」
「放っておけ。朝から不機嫌丸出しで鬱陶しいんだ」
「朝から?」

 送ってくれた時は麗しかったのに。

「少しくらい愚痴も聞くよ?」
「……ああ。ありがとう」
「まったく、食事くらい楽しませろ」

 エーミールはため息をついたあと、気持ちを切り替えるように私を見て笑った。

「今日は食べたいものがなかったのか? 珍しいな」
「うん? ああ、そういえばご飯の話、しなかったね」
「聞き忘れたから、すぐグラウに聞きに行かせたぞ?」
「え?」
「……すまない、聞き忘れた」
「大丈夫だよ。たまにはエーミールのオススメを食べるのも楽しいから」
「グラウ、お前すぐ飛んだだろう?」
「……ああ。……聞けなくて」
「髪結いのあと、すぐ家に来たの?」
「ああ、すぐ飛んでもらったが? 何かあったのか?」

 もしかして、ミカとのことを聞かれた? 最初だけ? どこまで?

「……オリヴァ、どこまで聞いたの?」
「……途中まで」
「なんだ、お前はまた覗きをしたのか?」
「違うっ、たまたま聞こえただけだ」
「で、オリヴァはすぐ帰らないで聞いてたの?」
「……驚いて」
「それで不機嫌か。随分と馬鹿なことをやっているもんだな」
「違うっ、ユウナギがあんな甘えるなんてっ」

 オリヴァの言い分にカッとなり、席を立ってエーミールのベッドの中に避難した。恥ずかしさと悔しさで頭に血がのぼってグルグルする。
なんでなんでなんで。盗み聞きするなんて。

「ユウナギっ、すまない。……でも、なんで……私と違う」
「嫌だ、こないで」
「……ユウナギ、私は」
「嫌、ヤダ」

 布団に隠れたまま丸まった。バツが悪くて顔を見せられない。

「グラウ、今は引け。何を言ったって、覗きをしたお前が悪い」

 エーミールの声と、しばらくあとに大きなため息が聞こえた。

「ユウナギ、グラウは帰ったぞ。顔を出すと良い」

 布団の上から私を撫でて、優しい声でエーミールが話す。体を起こして、のそのそ布団から出ると抱きしめられた。

「すまなかった。私が行かせたから」
「ううん」
「炭焼きといつもそんなに仲良くしているのか? 少し焼けるな」

 からかうように笑い、額にキスをする。

「たまにだよ」
「そうか。たまには私とも仲良くしてくれ。さあ、食事の続きをしよう」
「うん、ありがとう」

 腰を抱かれてテーブルまで行き、また席に着いた。折角の食事なのになんだか楽しめず悲しい気分になる。

「気にすることはない。あんな我儘な男に甘えられないだろう?」
「……オリヴァが甘えてくるから」
「そんなとこだろうな。あいつは自分のことを棚に上げ過ぎなんだ。泣き付いてくるまで構わないで放っておくといい」
「泣き付いてくるの?」
「くるに決まっている。会わずにいたら3日も持たないだろうな」
「森に帰れないよ」
「私の部屋にしばらく泊まると良い。字は大分読めるようになったのだろう? 書物もあるし、欲しい物は取り寄せる。ユウナギが帰らなかったら、炭焼きにも問い詰められるだろう? 見ものだな、ククッ」
「……悪い顔して」
「あいつがオロオロするのが楽しみだ」

 ホントに楽しそうに言うから、なんか笑ってしまった。
ミカと双子に会えないのは寂しいけど、オリヴァに会うのは嫌だし、エーミールの助言に従う方がいいかもしれない。

 食事と入浴を終え、ベッドの中でお喋りをする。

「私のこと隠してくれる?」
「隠してるあいだは私だけのものだな、楽しみだ。何か欲しい物はあるか?」
「針と糸と布が欲しい」
「何を作るんだ?」
「決めてない。ハンカチでも作ろうかな?」
「私のも作ってくれ」
「下手だよ。筆頭が持つようなものは作れないよ?」
「愛する妻が作ってくれるんだ。どんなものでも嬉しいに決まっている」

 エーミールが優しく私にキスをした。

「私とも仲良くしてくれるか?」
「いつも仲良しでしょ」
「……そうだな。こんな可愛い妻に愛されて、私は果報者だ」
「私も、優しい夫に大事にされて幸せ。こんなに色気のある男前だし」
「ククッ、ハハッ、可愛い私の女神に振り向いてもらえるのなら、色気も無駄にならないな」

 艶っぽく笑って、柔らかく唇を啄んだ。温かい舌で私の唇を濡らし、焦らすようにゆっくり丁寧に舐めまわしていく。エーミールの首に腕をまわし、角度を変えて奥まで引き寄せた。頭に響く水音が体の中に波紋を広げる。潤った体内でなめらかな官能が息づいた。

 しなやかに動く肉が口から出て行き、少しの淋しさを込めて見つめると、揺らめく瞳で微笑んだ。

「……黒い宝石だ。麗しい」
「ふふ、麗しいのはエーミールだよ。久しぶりに可愛がろうか? 玩具にする?」
「……ユウナギ、私はグラウとは違う。気を遣わなくて良いんだ。もう十分に甘えさせてもらっている」

 私をしっかり抱きしめながら、穏やかな声でそう言った。エーミールの体は暖かくて、体を撫でる手は優しくて、安心させようとしてる気持ちが分かるから、嬉しくて抱き付いた。

 私、気を遣ってるのかな。喜んでほしいのは本当で、エーミールを可愛がりたいのも本当で、でも支配欲みたいなのが絡んでないとは言い切れないかもしれない。自分の心の安定のために抱きたいのかもしれない。
そうか、純粋に欲望じゃないからか。それは失礼な話か。そっか。ごめん。

「……エーミールが好きなのは本当だよ」
「私のことを愛しているのだろう? 知っている」
「ふふふ、知られてた」

 エーミールの首元に顔を埋めて頬ずりする私の髪を、柔らかな指がそっと撫でた。


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