【R18】クマ獣人は紳士でケモノ

象の居る

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15.平穏が破られる Side ラトキン

 パオラとの食事はいつも、表面上おだやかに過ぎる。
 実際は、前日から浮かれているせいでエドムントに呆れられ、楽しみであまり眠れず、パオラの香りがする部屋に入ったら一瞬、時が止まる。静かに息を吸い込むが、本当は思い切り深呼吸がしたい。本当にしたいことはそれ以外にいくらでもあるが、できるわけないので自分を落ち着かせるためになるべく体を緊張させている。
 毎回、帰ってきたら発散するために練兵場を思い切り走るので、ティクルにも呆れられた。2人に呆れられてるのは、まったく進展しないからでもある。

「聞いても意味ないと思いますけど聞きます。その後は?」
「なにも」
「っかー、隊長はホント、なにやってんスか」
「食事だ」
「そうじゃないってわかってるでしょうが」
「まあまあ。隊長は慎重派だから。そんなことより俺、今度女の子紹介してもらうんですよ」
「うぉいっ、ティクルに先こされんのか」

 エドムントとティクルの掛け合いを眺めながら、何も進まない自分を振り返る。
 なんというか、友人のような関係になってしまったせいで、よけいに何も言えなくなった。今から何か言えば、料理が口実だと思われそうで心配なのもある。そんなことは絶対にないと言い切れるだろうか。彼女に焦がれていない私でも料理を頼むだろうか。……想像できない。彼女の香りを意識したときにはすでに恋していたのだから。
 いまだ彼女の名前も呼べていない。この先、どうしたらいいのだろう。

 くよくよ思い悩んで集中できずに仕事が終わらず、いつもより遅く食堂へ行ったら普段と様子が違っていた。常連たちが厨房までビールを取りにいっている。私も厨房まで行って声をかけた。顔を出したパオラは笑っているのにどこかいつもと違う。
 警戒心が高まり、わけを聞けばゾロゾロと怒りが噴き出した。そのせいで怖がらせてしまい、慌てて取り繕う。慣れないおふざけで笑ってもらえてホッとした。あなたがそんなふうに笑ってくれるならいくらでもおどけてみせる。残念ながら、あまり思いつかないけれど。

 パオラの代わりに注文を取りに行ったら、目と口を開いて驚かれた。

「あ、ああ。アンタ、何してるんだ?」
「小遣いを稼ごうと思ってね。似合うだろ? 注文はいつもの豚の煮込みだな? それとビール。漬物も食べるといい、二日酔いになりにくい。茹でた豆の和え物も煮込みに合う」
「……アンタのほうが商売上手いんじゃねぇの? クッハハハ」
「ちげぇねぇや、ハハハ」
「そんな褒めてもサービスはしないぞ。尻を触るなよ」
「さわんねぇよっ!」

 テーブルをあとにしてパオラに注文を通し、出来上がりを待った。なかなかいいやり取りだったんじゃないだろうか。意外な自分を発見して少々驚いている。危機に瀕して開き直りというか、パオラを観察するうち知らず学習していたのかもしれない。

「私は意外と給仕に向いてるようですよ」
「ふふっ、そうなんですか」
「あなたが店を持ったら雇ってもらいましょう」
「アハハハ、看板娘になるでしょうねぇ。はい、これ、よろしく」

 パオラから料理を受け取って運び、戻るときは客の帰ったテーブルから皿をまとめてさげる。そのあとはテーブルを拭いていたな。パオラにテーブル拭きをもらって拭いてまわり、店の中を見回す。張り巡らす感覚に引っかかるものはない。
 そうして過ごしていたら、パオラと仲の良い娼婦が慌ててやってきた。何かあってもどちらかが助けを呼べるように二人を残し、娼館とつながった通路へ入った。
 娼館の入口には偉そうにふんぞり返った初老といって差し支えない男と、たぶん護衛なんだろう、人間種にしては体格のいい男がいた。その二人に対峙している娼館の店主だろう男が私をチラッと見てから口を開く。

「パオラは料理人だ。金つまれようが、こっちにもルールってもんがある。それでメシ食ってんだから曲げられねぇんだよ」
「そうか。なら、本人が頷けば?」
「それならこっちも否やはねぇさ」
「では、パオラに伝えろ。お前が頷かなければ他の娼婦に代わりをさせると」
「わかったが、うちの商売道具に傷つけるようなら出てってもらうぞ」
「ははは、ずいぶんと強気じゃないか。……代官殿に楽しんでいただこうと思ってるんだがな。こんなところにお連れするわけにはいかないから、別の宿を借りてだが」

 初老の男が嫌な笑みを浮かべる。

「アレの母親は犬でも喜ぶ淫売だったからなぁ、パオラも喜ばせてやらんと。明日が楽しみだ」

 胸が悪くなる捨て台詞を残し、2人は店から出て行った。腹の底に静かな怒りが満ちる。頭が冴え冴えとする冷えた怒りで、逆立っていた毛も静まった。
 店主は首を回してため息をつき、息を潜めて様子を伺ってた娼婦たちは騒ぎ立てる。

「やだやだやだよう、アタシ、犬なんて絶対やだ」
「わたしだってヤダったら」
「自分のチンコ食わしときゃいいのに。私も行かない。行かせるなら他の店に移る」
「騒ぐな。いいから、客寄せしとけ。で、アンタは?」

 娼婦へ手を払ってから私を見上げた店主に、頭の中の算段を話すべく口を開く。

「食堂の客だ、ラトキンという。獣人の国からきて騎士団に滞在している。今すぐ動ける情報屋の知り合いはいるか?」
「情報屋を知ってそうな奴なら」
「では、すぐにあの商人を調べるよう依頼したい。代官との関係と商売の現状を第一に。報告は騎士団へ。商人の本拠地と名前はわかってる。これは前金。残りはあと払いで」

 店主は金を受け取って使い走りを呼び、わけを話した。私も使い走りに少しばかり握らせる。

「頼んだ。できるだけ急いでくれ。動きがよければ上乗せする」
「はいっ」

 鼻息荒く走っていった使いに店主が眉を上げた。

「あんな動くの初めてだぜ、アイツ」
「金は使いどころだ。それより、あの男がまともじゃないのは同じ見解だと思うが」
「そうだな」
「話が早い。パオラはすぐ騎士団に連れて行って保護する。代官へは私が挨拶しに行こう。着任直後に顔を合わせているからなんとかなるはずだ。騎士団長にもご助力願えば話もこじれないだろう」
「ああ。騎士団に貢いでるぶんは働いてくれって、言っといてくれ」
「……上納金?」
「治安維持費さ。金は使いどころだろ?」
「ああ」

 そうだな。今回のように貴族が出てきたら下町の人間じゃいかんともしがたい。人間種はことさら階級に縛られるし、貴族の脱法的な行いはどこにでもある。公正さだけで対処しきれないのは当たり前だ。

「ではパオラを」
「あいよ。おい、おめーら、ここにいるクマの旦那が騎士団となんとかしてくれるってよ。犬は心配しなくていいから、ちゃんと客とれよ」

 店主が娼婦たちのほうへ向かって声を張り上げると、ホっとした声が広がった。二人で厨房に向かう途中、小声で助かったと言う店主に頷いた。
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