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最終章 罰
そんな事の繰り返しを1000年あなたと続けたい
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「俺を殺しに来るかぁ」
氷雨達シンガンと別れた後、俺達は一旦家へと帰る事にした。
俺は一人湯舟のお湯を体に流しながら、先ほど彼女らに言われた事を頭の中で繰り返している。
「なんか、全然実感湧かないなぁ」
もちろん、不安が全くないかと言われればそう言うことは無い。
ファナエルが人質に取られるかもしれないし、一ノ瀬って奴の標的が俺からファナエルに変わるかもしれない、そんな不安はポツリポツリと湧いて来る。
それでも自分の命に危険が迫っていることに対しての不安感はやっぱり湧いてこない。
普通の人間なら当然感じるであろう恐怖が心の底から全く湧いてこない。
俺が災厄と呼ばれる存在になってしまったから恐怖に関連する感情が無くなった?
いや、それは多分違う。
無くなったんじゃない、自分に向けるはずの恐怖のベクトルが全てファナエルに向かってるんだ。
「まぁ、ファナエルが隣で生きてくれれば俺はそれで幸せなんだろうな」
きっともう思考も体も本能も、彼女と過ごした日々を重ねてそう言うものになっているんだと思う。
人はこれを恋の病と言うかもしれないし、俺はこれを愛だと思ってる。
人によっては狂っていると言われても致し方ないのかもしれない。
「ファナエルに風呂待たせるのも悪いし、体洗ったらササッと出るか」
「ゆっくりしても良いんだよ。なんなら私が背中洗ってあげるよ」
「へ……ん?!!」
今聞こえるはずの無い言葉が背後から聞こえたような。
バッと後ろを振り向くと、そこにはバスタオルで自分の体を隠したファナエルが立っていた。
「な、何でここに?!あとから風呂に入るんじゃ」
「ほら、アキラ疲れてそうだったしサプライズで癒してあげようと思って」
ファナエルはそう言うと俺が反応するよりも早くテキパキと準備を始め、俺の背中を洗い始めた。
「久しぶりにアキラの恥ずかしがってる所を見た気がする」
「一緒にお風呂は流石にまだ刺激が強かったですはい」
「それでも心はちゃんと喜んでるって私には分かるから大丈夫だよ」
「何も大丈夫じゃない」
今までにないぐらい顔が熱い。
一緒に寝るとか、二人で旅するとか、とういう次元をいきなり飛び越えてる気がする。
「アキラはさ、自分の欲望を素直に出すのは苦手だよね」
「そうか?」
「ここ最近は自分の事よりずっと私の為に色々してくれてしね。もちろんそんなアキラを見るのは嬉しかった。でも、アキラが自分自身の事を二の次に考えすぎなのは嫌だよ」
バシャリと音を立てて俺の背中にお湯が流れていく。
その音に混じれて小さく「アキラが死んじゃ嫌だよ」と彼女が呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。
そっか、そりゃあそうだよな。
ファナエルだって、俺が死ぬかもしれないなんて思ったら不安で一杯のはずだ。
「アキラには私の事を第一に考えてほしい。でも自分の事をないがしろにはしてほしく無いし、たまには我儘も言って欲しい」
「乙女心は難しいな」
「頑張って覚えてね。そんな事の繰り返しを1000年は続けたいんだから……だから、死んだら許さない」
「大丈夫だよ。ファナエルがそう願ってくれるなら、俺はきっと死なないから」
◇
「こんなに良い思いをした後だって言うのに、相変わらず酷い悪夢を見るもんだな」
ファナエルと一緒に風呂に入った後、互いに髪を乾かしてベッドに入った。
恐らく今俺の目の前に広がるのは夢の世界だろう。
俺が今まで殺した天使や悪魔の亡骸たちが俺を囲っている。
夢を見ていると自覚したその時にはすでに俺の身体から生える触手はブンブンと暴れ回っていた。
襲い掛かって来る亡骸たちが俺の抱えている光を奪わない様にと懸命に。
『アナタ……シアワセ……ユルサナイ。ハネナシ……アナタカラ……ウバウ』
「そう言えば、一ノ瀬って男は冥界の神様と一緒に俺を狙ってるようだけど……あんたの差し金か?」
『イチノセ……??シラナイ……。ハネナシ……ウバウ』
俺の目の前に立っているのは恐らくアルゴスの亡骸だろう。
一ノ瀬の事について聞いては見たが、まぁここ俺の夢の中だし知ってる訳がないか。
「悪いけど、ファナエルは何があっても渡さない。悪いけど俺の命も渡すことは出来ない、後1000年ぐらい生きなきゃいけない用事が出来たからな」
『アナタニ……罪ヲ』
「俺がどんな悪夢を見ようと、どんな苦しみを受けようと、どれだけ罪悪感に苛まれようと、俺は必ずファナエルを幸せにする。その気持ちはあの時から変わらないぞ」
あの時と同じように、アルゴスに向かって宣言する。
自分が道を見失ってしまわない為に。
今日みたいな二人の幸福な時間が壊れない為に。
「まったく。やっぱり無茶な選択なのです」
瞬間、ここには居ないはずの第三者の声が響き渡る。
それと同時に真っ白な十字架のハンマーが周囲の亡骸達を一掃した。
「相変わらず、酷い夢を見ているのですね」
「そういえば、あんたの持つ超能力は夢の世界を操るとかだったな。初めて会った時を思い出すよ」
そこに居た第三者は氷雨だった。
彼女は右手に持っていたハンマーをパッと消して、俺の夢の世界を見渡す。
「見ても面白いもんじゃないだろ。何しに来たんだ」
「お兄さんはファナエルさんと付き合う事を選び、自ら人間の枠組みを抜ける決断をしている。触手を生やしたあの姿を見たら一瞬で分かったのです」
『だったら、せめて私と同じ過ちをしない様に警告だけはしておきたい』
「この前みたいに、俺とファナエルを別れさせようとしてる訳じゃなさそうだな」
「ほんのちょっとだけ私の話を聞いて欲しいだけなのですよ」
「その話って?」
彼女は少し、自嘲的な目をしてため息をついた。
ゆっくりと俺に視線を合わして、自分の胸に右手をトンと当てた。
「超能力者に恋をして、貴方と同じように普通の人間を辞めた。そんな私の失敗談なのですよ」
氷雨達シンガンと別れた後、俺達は一旦家へと帰る事にした。
俺は一人湯舟のお湯を体に流しながら、先ほど彼女らに言われた事を頭の中で繰り返している。
「なんか、全然実感湧かないなぁ」
もちろん、不安が全くないかと言われればそう言うことは無い。
ファナエルが人質に取られるかもしれないし、一ノ瀬って奴の標的が俺からファナエルに変わるかもしれない、そんな不安はポツリポツリと湧いて来る。
それでも自分の命に危険が迫っていることに対しての不安感はやっぱり湧いてこない。
普通の人間なら当然感じるであろう恐怖が心の底から全く湧いてこない。
俺が災厄と呼ばれる存在になってしまったから恐怖に関連する感情が無くなった?
いや、それは多分違う。
無くなったんじゃない、自分に向けるはずの恐怖のベクトルが全てファナエルに向かってるんだ。
「まぁ、ファナエルが隣で生きてくれれば俺はそれで幸せなんだろうな」
きっともう思考も体も本能も、彼女と過ごした日々を重ねてそう言うものになっているんだと思う。
人はこれを恋の病と言うかもしれないし、俺はこれを愛だと思ってる。
人によっては狂っていると言われても致し方ないのかもしれない。
「ファナエルに風呂待たせるのも悪いし、体洗ったらササッと出るか」
「ゆっくりしても良いんだよ。なんなら私が背中洗ってあげるよ」
「へ……ん?!!」
今聞こえるはずの無い言葉が背後から聞こえたような。
バッと後ろを振り向くと、そこにはバスタオルで自分の体を隠したファナエルが立っていた。
「な、何でここに?!あとから風呂に入るんじゃ」
「ほら、アキラ疲れてそうだったしサプライズで癒してあげようと思って」
ファナエルはそう言うと俺が反応するよりも早くテキパキと準備を始め、俺の背中を洗い始めた。
「久しぶりにアキラの恥ずかしがってる所を見た気がする」
「一緒にお風呂は流石にまだ刺激が強かったですはい」
「それでも心はちゃんと喜んでるって私には分かるから大丈夫だよ」
「何も大丈夫じゃない」
今までにないぐらい顔が熱い。
一緒に寝るとか、二人で旅するとか、とういう次元をいきなり飛び越えてる気がする。
「アキラはさ、自分の欲望を素直に出すのは苦手だよね」
「そうか?」
「ここ最近は自分の事よりずっと私の為に色々してくれてしね。もちろんそんなアキラを見るのは嬉しかった。でも、アキラが自分自身の事を二の次に考えすぎなのは嫌だよ」
バシャリと音を立てて俺の背中にお湯が流れていく。
その音に混じれて小さく「アキラが死んじゃ嫌だよ」と彼女が呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。
そっか、そりゃあそうだよな。
ファナエルだって、俺が死ぬかもしれないなんて思ったら不安で一杯のはずだ。
「アキラには私の事を第一に考えてほしい。でも自分の事をないがしろにはしてほしく無いし、たまには我儘も言って欲しい」
「乙女心は難しいな」
「頑張って覚えてね。そんな事の繰り返しを1000年は続けたいんだから……だから、死んだら許さない」
「大丈夫だよ。ファナエルがそう願ってくれるなら、俺はきっと死なないから」
◇
「こんなに良い思いをした後だって言うのに、相変わらず酷い悪夢を見るもんだな」
ファナエルと一緒に風呂に入った後、互いに髪を乾かしてベッドに入った。
恐らく今俺の目の前に広がるのは夢の世界だろう。
俺が今まで殺した天使や悪魔の亡骸たちが俺を囲っている。
夢を見ていると自覚したその時にはすでに俺の身体から生える触手はブンブンと暴れ回っていた。
襲い掛かって来る亡骸たちが俺の抱えている光を奪わない様にと懸命に。
『アナタ……シアワセ……ユルサナイ。ハネナシ……アナタカラ……ウバウ』
「そう言えば、一ノ瀬って男は冥界の神様と一緒に俺を狙ってるようだけど……あんたの差し金か?」
『イチノセ……??シラナイ……。ハネナシ……ウバウ』
俺の目の前に立っているのは恐らくアルゴスの亡骸だろう。
一ノ瀬の事について聞いては見たが、まぁここ俺の夢の中だし知ってる訳がないか。
「悪いけど、ファナエルは何があっても渡さない。悪いけど俺の命も渡すことは出来ない、後1000年ぐらい生きなきゃいけない用事が出来たからな」
『アナタニ……罪ヲ』
「俺がどんな悪夢を見ようと、どんな苦しみを受けようと、どれだけ罪悪感に苛まれようと、俺は必ずファナエルを幸せにする。その気持ちはあの時から変わらないぞ」
あの時と同じように、アルゴスに向かって宣言する。
自分が道を見失ってしまわない為に。
今日みたいな二人の幸福な時間が壊れない為に。
「まったく。やっぱり無茶な選択なのです」
瞬間、ここには居ないはずの第三者の声が響き渡る。
それと同時に真っ白な十字架のハンマーが周囲の亡骸達を一掃した。
「相変わらず、酷い夢を見ているのですね」
「そういえば、あんたの持つ超能力は夢の世界を操るとかだったな。初めて会った時を思い出すよ」
そこに居た第三者は氷雨だった。
彼女は右手に持っていたハンマーをパッと消して、俺の夢の世界を見渡す。
「見ても面白いもんじゃないだろ。何しに来たんだ」
「お兄さんはファナエルさんと付き合う事を選び、自ら人間の枠組みを抜ける決断をしている。触手を生やしたあの姿を見たら一瞬で分かったのです」
『だったら、せめて私と同じ過ちをしない様に警告だけはしておきたい』
「この前みたいに、俺とファナエルを別れさせようとしてる訳じゃなさそうだな」
「ほんのちょっとだけ私の話を聞いて欲しいだけなのですよ」
「その話って?」
彼女は少し、自嘲的な目をしてため息をついた。
ゆっくりと俺に視線を合わして、自分の胸に右手をトンと当てた。
「超能力者に恋をして、貴方と同じように普通の人間を辞めた。そんな私の失敗談なのですよ」
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