【完結】俺の彼女はセイジョウです

アカアオ

文字の大きさ
86 / 114
最終章 罰

そんな事の繰り返しを1000年あなたと続けたい

しおりを挟む
 「俺を殺しに来るかぁ」

 氷雨達シンガンと別れた後、俺達は一旦家へと帰る事にした。
 俺は一人湯舟のお湯を体に流しながら、先ほど彼女らに言われた事を頭の中で繰り返している。

 「なんか、全然実感湧かないなぁ」

 もちろん、不安が全くないかと言われればそう言うことは無い。
 ファナエルが人質に取られるかもしれないし、一ノ瀬って奴の標的が俺からファナエルに変わるかもしれない、そんな不安はポツリポツリと湧いて来る。

 それでも自分の命に危険が迫っていることに対しての不安感はやっぱり湧いてこない。
 普通の人間なら当然感じるであろう恐怖が心の底から全く湧いてこない。

 俺が災厄と呼ばれる存在になってしまったから恐怖に関連する感情が無くなった?
 いや、それは多分違う。

 無くなったんじゃない、自分に向けるはずの恐怖のベクトルが全てファナエルに向かってるんだ。

 「まぁ、ファナエルが隣で生きてくれれば俺はそれで幸せなんだろうな」

 きっともう思考も体も本能も、彼女と過ごした日々を重ねてそう言うものになっているんだと思う。
 人はこれを恋の病と言うかもしれないし、俺はこれを愛だと思ってる。
 人によっては狂っていると言われても致し方ないのかもしれない。

 「ファナエルに風呂待たせるのも悪いし、体洗ったらササッと出るか」
 「ゆっくりしても良いんだよ。なんなら私が背中洗ってあげるよ」
 「へ……ん?!!」

 今聞こえるはずの無い言葉が背後から聞こえたような。
 バッと後ろを振り向くと、そこにはバスタオルで自分の体を隠したファナエルが立っていた。

 「な、何でここに?!あとから風呂に入るんじゃ」
 「ほら、アキラ疲れてそうだったしサプライズで癒してあげようと思って」
 
 ファナエルはそう言うと俺が反応するよりも早くテキパキと準備を始め、俺の背中を洗い始めた。

 「久しぶりにアキラの恥ずかしがってる所を見た気がする」
 「一緒にお風呂は流石にまだ刺激が強かったですはい」
 「それでも心はちゃんと喜んでるって私には分かるから大丈夫だよ」
 「何も大丈夫じゃない」
 
 今までにないぐらい顔が熱い。
 一緒に寝るとか、二人で旅するとか、とういう次元をいきなり飛び越えてる気がする。

 「アキラはさ、自分の欲望を素直に出すのは苦手だよね」
 「そうか?」
 「ここ最近は自分の事よりずっと私の為に色々してくれてしね。もちろんそんなアキラを見るのは嬉しかった。でも、アキラが自分自身の事を二の次に考えすぎなのは嫌だよ」

 バシャリと音を立てて俺の背中にお湯が流れていく。
 その音に混じれて小さく「アキラが死んじゃ嫌だよ」と彼女が呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。

 そっか、そりゃあそうだよな。
 ファナエルだって、俺が死ぬかもしれないなんて思ったら不安で一杯のはずだ。

 「アキラには私の事を第一に考えてほしい。でも自分の事をないがしろにはしてほしく無いし、たまには我儘も言って欲しい」
 「乙女心は難しいな」
 「頑張って覚えてね。そんな事の繰り返しを1000年は続けたいんだから……だから、死んだら許さない」
 「大丈夫だよ。ファナエルがそう願ってくれるなら、俺はきっと死なないから」



 「こんなに良い思いをした後だって言うのに、相変わらず酷い悪夢を見るもんだな」

 ファナエルと一緒に風呂に入った後、互いに髪を乾かしてベッドに入った。
 恐らく今俺の目の前に広がるのは夢の世界だろう。

 俺が今まで殺した天使や悪魔の亡骸たちが俺を囲っている。
 
 夢を見ていると自覚したその時にはすでに俺の身体から生える触手はブンブンと暴れ回っていた。
 襲い掛かって来る亡骸たちが俺の抱えている光を奪わない様にと懸命に。

 『アナタ……シアワセ……ユルサナイ。ハネナシ……アナタカラ……ウバウ』
 「そう言えば、一ノ瀬って男は冥界の神様と一緒に俺を狙ってるようだけど……あんたの差し金か?」
 『イチノセ……??シラナイ……。ハネナシ……ウバウ』

 俺の目の前に立っているのは恐らくアルゴスの亡骸だろう。
 一ノ瀬の事について聞いては見たが、まぁここ俺の夢の中だし知ってる訳がないか。

 「悪いけど、ファナエルは何があっても渡さない。悪いけど俺の命も渡すことは出来ない、後1000年ぐらい生きなきゃいけない用事が出来たからな」
 『アナタニ……罪ヲ』
 「俺がどんな悪夢を見ようと、どんな苦しみを受けようと、どれだけ罪悪感に苛まれようと、俺は必ずファナエルを幸せにする。その気持ちはあの時から変わらないぞ」

 あの時と同じように、アルゴスに向かって宣言する。
 自分が道を見失ってしまわない為に。
 今日みたいな二人の幸福な時間が壊れない為に。

 「まったく。やっぱり無茶な選択なのです」

 瞬間、ここには居ないはずの第三者の声が響き渡る。
 それと同時に真っ白な十字架のハンマーが周囲の亡骸達を一掃した。

 「相変わらず、酷い夢を見ているのですね」
 「そういえば、あんたの持つ超能力は夢の世界を操るとかだったな。初めて会った時を思い出すよ」

 そこに居た第三者は氷雨だった。
 彼女は右手に持っていたハンマーをパッと消して、俺の夢の世界を見渡す。

 「見ても面白いもんじゃないだろ。何しに来たんだ」
 「お兄さんはファナエルさんと付き合う事を選び、自ら人間の枠組みを抜ける決断をしている。触手を生やしたあの姿を見たら一瞬で分かったのです」

 『だったら、せめて私と同じ過ちをしない様に警告だけはしておきたい』

 「この前みたいに、俺とファナエルを別れさせようとしてる訳じゃなさそうだな」
 「ほんのちょっとだけ私の話を聞いて欲しいだけなのですよ」
 「その話って?」
 
 彼女は少し、自嘲的な目をしてため息をついた。
 ゆっくりと俺に視線を合わして、自分の胸に右手をトンと当てた。

 「超能力者に恋をして、貴方と同じように普通の人間を辞めた。そんな私の失敗談なのですよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

処理中です...