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トラウマ

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「ガハッ!?」

 俺は壁に叩きつけられ、そのまま地面に倒れる。

「お前は……一体?」
「そう言えば自己紹介をしていませんでしたね」

 目の前の彼女は、自分の右手に何かの魔力を貯めながらカツカツとこちらに向かって歩いてきた。

「私の名前はチェリフ。あなたに分かりやすく説明すると、あなたの信仰している神であるマキナを天界から追放した神様です」

 俺は何とか立ち上がろうと試みるが、体がうまく動かない。
 彼女の右手の魔力の固まりはやがて虹色に輝く一本の剣を生成する。
 魔法が使えなくて魔力に鈍感な俺でも肌で感じるぐらい強力な魔力をその剣は帯びていた。

「この剣を使えば私の身体に傷をつけることぐらい出来るかも知れないですね」

 彼女は何を思ったのか、その虹色の剣を俺の目の前にスッと置いた。

「使っていいですよ、それ」
「……どういうつもりだ?」

 俺は警戒しながら、彼女に尋ねる。
 彼女はただただ無表情でこちらを見つめていた。
 俺は目の前の剣に視線を変える。
 こいつを俺が使えば目の前の彼女に一矢報えるかもしれない……本当に?
 本当に俺にこの剣が扱いきれるのか?
 剣を振っている途中に手からすっぽ抜けてしまったら?

 またあの時初めての討伐依頼の時みたいに俺の剣技なんてかすりもしないんじゃないか?
 もしまたあの時のように剣を使って負けてしまったら……俺は、俺はー

 心臓がうるさい、息が冷たい、思考がまとまらない。
 ずっと俺の身体の中で鳴り響いているはずのマキナ様をたたえる音楽も耳に入ってこない。

 違う違う違う違う違う!

『魔法も使えなくて武器を扱うのもへたくそな役立たず』じゃない!
『唯一おぼえれた剣技も当てれない雑魚』なんかじゃない!
『一番簡単な依頼を果たせなかったみじめな男』なんかじゃない!
 そうじゃない、そうじゃない、そうじゃない、そうじゃないー

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺は一心不乱に拳を握りながら目の前の彼女に襲い掛かる。
 しかし、彼女は俺のそんな攻撃を容易に片手で止めて憐れむような目で俺を見つめる。

「冒険者レイン、あなたの罪は自分の弱さから逃げ続けてきたことです。私の作る永遠回帰の監獄で自分の弱さと向き合い続けなさい」

 彼女がそう言った瞬間、俺の立っていた床にゆっくりと穴が開き俺は下へ下へと落ちてゆき、意識もなくなっていた。
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