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互いの救い

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 マキナ様はボロボロの俺を抱えたまま、そっと地面に足を付ける。

 「レイン立てる?」
 「はい、何とか立てそうです」

 俺がそう言うと、マキナ様はそっとの足をおろす。
 少しよろめきながらも隣に立った俺を見てマキナ様は安堵の表情を浮かべた。
 そして、先ほど俺と戦闘していた白い羽を生やした女性『チェリフ』を睨みつける。

 「さて、私の大事な信者を勝手にさらっていくとはどういうつもり」
 
 そう言うマキナ様の身体からは真っ黒な魔力がこの場を覆わんとする勢いで放出されている。
 そんなマキナ様に臆することなく、チェリフは俺の方を見ながら口を開く。

 「私の行動理由は昔から何一つ変わりませんよ」

 チェリフはマキナ様に対抗するかのように自分の周りから大量の光を発し、背中に生えている真っ白な羽を大きく開きながら、言葉を紡ぐ。

 「弱い人類に試練を与え、私たち神などの上位存在の加護なしに全てのモンスターを駆逐できる超人になるように導くため……貴方の方こそ私の邪魔をしないでください」

 その言葉を聞き終えた瞬間、マキナ様から放たれていた黒い魔力が更に膨れあがる。

 「お前は本当に何も変わってないね……」

 その言葉を言うと同時に、マキナ様は右手に漆黒の剣を創造する。
 マキナ様は一気に地面を踏み込み、一瞬にして間合いを詰めてチェリフに向かって斬撃を放つ。
 チェリフはとっさに虹色の剣を創造し、マキナ様の攻撃を綺麗に受け止める。

 「その試練の中で、レインは何100回絶望する想定だったのさ……何1000回挫折する予想だったのさ!」
 「たとえ彼が一万回挫折したって一億回絶望したって彼が自分の弱さを克服するまでは永遠に続ける予定でしたよ、この試練が終わった時の彼が一人でどんな最悪な状況をも真っ向から切り伏せる人間になるために」

 二人は鍔迫り合いをしながらお互いの言葉をぶつけ合う。
 そして二人の力は均衡しているのかどちらも一歩たりとも動こうとしなかった。
 その周りには二人の神がまとっている膨大な魔力がうごめいており、部屋の床をえぐっていた。

 「信者からの信仰や祈りを力に変えて、人類を神の力で守る……マキナ、あなたの救いでは人間を堕落させるだけだということがまだ分からないのですか」

 「人間にだって色々な人がいるんだ、努力が報われなくて絶望している人や、今すぐ力を貰わないとどうしようもないような事情を抱えている人もいる。君のやり方で救えない人が、私のやり方じゃないと救われない人も居る」

 二人はすっとお互いの距離を取り、魔力の固まりである大きな球体を生成し発射する。
 黒と白の大きな球体はぶつかり合った瞬間に爆音と共に周囲に爆風が広がる。
 爆風が収まった後、俺の目に映ったのは衝撃に耐えられず大きな亀裂が入った部屋の壁と、無傷のまま立ちお互いを睨み続けている二人の神様の姿だった。

「このまま貴方との戦闘を続けてもいいのですが……もしこの場で私と貴方が共倒れでもしてその間に人類が滅亡したなんてことになっては本末転倒ですね」

 チェリフはそう言って、手に持っていた虹色の剣をぱっと消滅させる。

「道は違えど私たちの最終目標は人類を守ること……ですからね」

 そう言い残し、チェリフは自分の身体を光の粒子へと変えて消えていった
 その様子を見届けたマキナ様は黒い剣を手放し、俺の身体に抱き着く。

「帰ろうレイン、私たちの神殿に」

 マキナ様がそう言うと、俺達は真っ黒な闇に包まれる。
 気付いたとき俺が居たのは、マキナ様の神殿にある自分のベッドの上だった。
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