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13-②
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「えへへ。面白そうだったので、僕も来ちゃいました。迷惑でした?」
悪びれもせずにそう言う碧君に、俺は首を横に振る。
「いいや、戦力は多いほうが良いよ。その腰の剣は飾りじゃないんだろ? それに、土地勘のある奴なら、尚更だ」
碧君の腰には、その身に似合わず細身のレイピアが下がっていた。ラングは場を仕切り直すようにコホンと咳払いをすると、碧君を交えて改めて話を続けた。
「そこで、いくつかの魔道具屋に張り付いて監視してみたのですが、やはりどの店も正規ルート以外からの仕入れをしている様子はない。なので思い切って僕は、視点を変えてみたのです」
そう言ってラングが取り出したのは、古びた街の見取り図だった。
「これは50年程前、まだ碧様が魔王として即位される前のタマブラーンの街の地図です。そしてこちらが現在のタマブラーンの地図で、この印の箇所が現在蜜瓶を取り扱っている魔道具屋の位置なのですが……」
「アッ!! これはもしかシテ……!」
地図を覗き込んだルナが、何かに気づいて声を上げた。
俺も地図を覗き込んでみたが、昔は街の中を流れていた川が、現在は無くなっている……と言う事ぐらいしか分からない。
一方の碧君はルナの言葉に頷いて、地図の一箇所を指差した。
「この川は僕がこちらに来て間もない頃、一度酷い氾濫を起こしたのです。王都では沢山の家屋が流され、甚大なる被害が出ました。それで僕が魔王に即位した際、隣国と協定を結んで、大きな治水工事を行ったのです。それによって、今この川はこの街を避けるように大きく流れを変えました」
「その川の跡地に、なんで魔道具屋が?」
俺は未だ2人の言わんが事が分からず、頭をひねる。
「本当は、この川は完全に埋め立てて、工事は終わる予定でした。けれども、この川の地下には湧き水が湧いていたのです。そうなると、地盤の関係上川を完全に埋め立てるのは難しい。仕方なくこの川は、現在も地下に細い流れを残してあります」
「あっ……!」
そこまで言われれば、いくら鈍い俺でも分かる。
地下を流れる川の、最上流。恐らく、闇ギルドの幽閉施設はそのあたりだ。
闇ギルドは川の上流から蜜瓶を秘密裏に闇業者に流通させていた。薬屋は秘密裏に地下からその川へ降り、流れを利用して違法に品物を仕入れている。
そういうことだろう。
◇◆◇◆◇◆
そこから先の展開はとても早かった。
一般兵士を引き連れた近衛隊が碧君と共に街の地下を一斉捜索したからだ。
ものの一時間ほどで見つかった幽閉施設は即刻壊滅させられて、闇ギルドの面々は捕縛。地下に囚われていた魔力ある転移者達は無事に保護される運びとなった。
一緒に地下へ捜索に入った俺達はと言えば、檻の最奥に捉えられていたカヴァと、ようやく再会することができた。
「カヴァっ!」
檻の中でグッタリとしたカヴァは、後ろ手に手枷をつけられたまま石畳の上に横たわっていた。
細い針金で器用に檻の鍵を開けたラングを押し退けて、俺は慌ててカヴァに駆け寄った。
「おい、カヴァ! カヴァっ! しっかりしろっ! 今、手錠を……っ!」
「はぁっ……はぁっ……ま、待って、アタシに触らないで……ぁっ……ぐぅ……っ」
「は!? お前、何言って……」
色濃く疲労の滲む顔で、カヴァは身を捩りながら慌てて俺にそう言った。体を丸めて苦しそうに呻くカヴァを見て、俺は尚も手錠を壊そうと、ルナに借りた包丁を何度も鎖に付き立てた。そんな俺を止めたのは、碧君だった。
「鷹夜さん。カヴァさんの言うとおり、一旦その状態のまま運びましょう」
「は!? 何でだよ?!」
「鷹夜様ぁ…………ウウ……」
碧君に食って掛かろうとした俺を止めたのは、瞳に涙を溜めたルナだった。カヴァの両手首には、激しく暴れたのか赤黒く血がにじみ、とても痛々しい。
俺は彼らの意図がわからず、イライラしながら顔をしかめた。
「鷹夜さん……。カヴァはおそらく、蝶の催淫薬を過剰投与されています。見てください、瞳の色が真っ赤です。この様子だと恐らくカヴァはもう……」
ラングはそう言って、悲しげな表情で俯く。
カヴァの瞳の色を念入りに確認していた碧君は、カヴァのそばに転がっていた小さな空瓶を拾い上げて、カヴァをチラリと見た後眉をしかめた。
「どうやら、候補者達の体液を搾り取る為に、催淫剤を悪用していたようですね。そんなものを魔力を持たない一般市民になんて使ったら、精を吐き出し続ける前に生命力が保たなくなる事など、分かりきっているはずのに……。なんて惨(むご)い事を……」
碧君はそう言って、イライラした様子で力いっぱい壁を殴りつけた。
「は……? いや、ちょっ、何言ってるんだ……? カヴァは……カヴァはこのままだと、どうなるんだよ!?」
頭から冷水を浴びせられたかのように、俺はぶるりと震えた。
まさか俺達は間に合わなかったのか……? カヴァはこのままだとまさか…………!?
どんどん悪い想像が胸の中に湧き上がって、俺はみるみる顔が青ざめていくのを自覚した。
その場からぐらりと揺らいだ俺の体を支えてくれたラングの胸ぐらに縋るように掴まった俺は、そのままラングの服が引き千切れるんじゃないかというぐらい、強く強く握り締しめた。
滲んだ涙が悲しみから来ているのか、悔しさから来ているのか、はたまた両方なのか、わからないまま俺は唇を噛んだ。
碧君は沈んだ表情のまま、慰めるように俺の背中に優しく手を添えてくれた。
「…………鷹夜さん、やっぱりカヴァさんのことが好きだったのですね?」
「当たり前だろ……ッ! こっちの世界に来て、右も左も分からなかった俺が、どれだけカヴァに助けられたか……ッ!」
「…………カヴァさんを助けたいですか?」
「助けたいに決まってるだろ!!」
「どうしても?」
「どーしてもだッ!!」
なんでそんな当たり前のことをしつこく確認すんだよッ!
俺は碧君の歯切れの悪い物言いにイライラしながら、袖口で涙を拭って、碧君を真っ直ぐに見つめた。
碧君は何も答えず、静かに俺を見つめ返した。
「もしかして……助ける方法があるのか……?!」
「うーん。それは鷹夜さんの潜在魔力量と、愛と努力次第……と言っておきましょう」
「あ、愛…………?」
碧君は俺の質問に曖昧な笑みを浮かべると、担架に乗せたカヴァと共に地上へと戻る階段へと歩き出した。
悪びれもせずにそう言う碧君に、俺は首を横に振る。
「いいや、戦力は多いほうが良いよ。その腰の剣は飾りじゃないんだろ? それに、土地勘のある奴なら、尚更だ」
碧君の腰には、その身に似合わず細身のレイピアが下がっていた。ラングは場を仕切り直すようにコホンと咳払いをすると、碧君を交えて改めて話を続けた。
「そこで、いくつかの魔道具屋に張り付いて監視してみたのですが、やはりどの店も正規ルート以外からの仕入れをしている様子はない。なので思い切って僕は、視点を変えてみたのです」
そう言ってラングが取り出したのは、古びた街の見取り図だった。
「これは50年程前、まだ碧様が魔王として即位される前のタマブラーンの街の地図です。そしてこちらが現在のタマブラーンの地図で、この印の箇所が現在蜜瓶を取り扱っている魔道具屋の位置なのですが……」
「アッ!! これはもしかシテ……!」
地図を覗き込んだルナが、何かに気づいて声を上げた。
俺も地図を覗き込んでみたが、昔は街の中を流れていた川が、現在は無くなっている……と言う事ぐらいしか分からない。
一方の碧君はルナの言葉に頷いて、地図の一箇所を指差した。
「この川は僕がこちらに来て間もない頃、一度酷い氾濫を起こしたのです。王都では沢山の家屋が流され、甚大なる被害が出ました。それで僕が魔王に即位した際、隣国と協定を結んで、大きな治水工事を行ったのです。それによって、今この川はこの街を避けるように大きく流れを変えました」
「その川の跡地に、なんで魔道具屋が?」
俺は未だ2人の言わんが事が分からず、頭をひねる。
「本当は、この川は完全に埋め立てて、工事は終わる予定でした。けれども、この川の地下には湧き水が湧いていたのです。そうなると、地盤の関係上川を完全に埋め立てるのは難しい。仕方なくこの川は、現在も地下に細い流れを残してあります」
「あっ……!」
そこまで言われれば、いくら鈍い俺でも分かる。
地下を流れる川の、最上流。恐らく、闇ギルドの幽閉施設はそのあたりだ。
闇ギルドは川の上流から蜜瓶を秘密裏に闇業者に流通させていた。薬屋は秘密裏に地下からその川へ降り、流れを利用して違法に品物を仕入れている。
そういうことだろう。
◇◆◇◆◇◆
そこから先の展開はとても早かった。
一般兵士を引き連れた近衛隊が碧君と共に街の地下を一斉捜索したからだ。
ものの一時間ほどで見つかった幽閉施設は即刻壊滅させられて、闇ギルドの面々は捕縛。地下に囚われていた魔力ある転移者達は無事に保護される運びとなった。
一緒に地下へ捜索に入った俺達はと言えば、檻の最奥に捉えられていたカヴァと、ようやく再会することができた。
「カヴァっ!」
檻の中でグッタリとしたカヴァは、後ろ手に手枷をつけられたまま石畳の上に横たわっていた。
細い針金で器用に檻の鍵を開けたラングを押し退けて、俺は慌ててカヴァに駆け寄った。
「おい、カヴァ! カヴァっ! しっかりしろっ! 今、手錠を……っ!」
「はぁっ……はぁっ……ま、待って、アタシに触らないで……ぁっ……ぐぅ……っ」
「は!? お前、何言って……」
色濃く疲労の滲む顔で、カヴァは身を捩りながら慌てて俺にそう言った。体を丸めて苦しそうに呻くカヴァを見て、俺は尚も手錠を壊そうと、ルナに借りた包丁を何度も鎖に付き立てた。そんな俺を止めたのは、碧君だった。
「鷹夜さん。カヴァさんの言うとおり、一旦その状態のまま運びましょう」
「は!? 何でだよ?!」
「鷹夜様ぁ…………ウウ……」
碧君に食って掛かろうとした俺を止めたのは、瞳に涙を溜めたルナだった。カヴァの両手首には、激しく暴れたのか赤黒く血がにじみ、とても痛々しい。
俺は彼らの意図がわからず、イライラしながら顔をしかめた。
「鷹夜さん……。カヴァはおそらく、蝶の催淫薬を過剰投与されています。見てください、瞳の色が真っ赤です。この様子だと恐らくカヴァはもう……」
ラングはそう言って、悲しげな表情で俯く。
カヴァの瞳の色を念入りに確認していた碧君は、カヴァのそばに転がっていた小さな空瓶を拾い上げて、カヴァをチラリと見た後眉をしかめた。
「どうやら、候補者達の体液を搾り取る為に、催淫剤を悪用していたようですね。そんなものを魔力を持たない一般市民になんて使ったら、精を吐き出し続ける前に生命力が保たなくなる事など、分かりきっているはずのに……。なんて惨(むご)い事を……」
碧君はそう言って、イライラした様子で力いっぱい壁を殴りつけた。
「は……? いや、ちょっ、何言ってるんだ……? カヴァは……カヴァはこのままだと、どうなるんだよ!?」
頭から冷水を浴びせられたかのように、俺はぶるりと震えた。
まさか俺達は間に合わなかったのか……? カヴァはこのままだとまさか…………!?
どんどん悪い想像が胸の中に湧き上がって、俺はみるみる顔が青ざめていくのを自覚した。
その場からぐらりと揺らいだ俺の体を支えてくれたラングの胸ぐらに縋るように掴まった俺は、そのままラングの服が引き千切れるんじゃないかというぐらい、強く強く握り締しめた。
滲んだ涙が悲しみから来ているのか、悔しさから来ているのか、はたまた両方なのか、わからないまま俺は唇を噛んだ。
碧君は沈んだ表情のまま、慰めるように俺の背中に優しく手を添えてくれた。
「…………鷹夜さん、やっぱりカヴァさんのことが好きだったのですね?」
「当たり前だろ……ッ! こっちの世界に来て、右も左も分からなかった俺が、どれだけカヴァに助けられたか……ッ!」
「…………カヴァさんを助けたいですか?」
「助けたいに決まってるだろ!!」
「どうしても?」
「どーしてもだッ!!」
なんでそんな当たり前のことをしつこく確認すんだよッ!
俺は碧君の歯切れの悪い物言いにイライラしながら、袖口で涙を拭って、碧君を真っ直ぐに見つめた。
碧君は何も答えず、静かに俺を見つめ返した。
「もしかして……助ける方法があるのか……?!」
「うーん。それは鷹夜さんの潜在魔力量と、愛と努力次第……と言っておきましょう」
「あ、愛…………?」
碧君は俺の質問に曖昧な笑みを浮かべると、担架に乗せたカヴァと共に地上へと戻る階段へと歩き出した。
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