【完】真面目で苦労人の長男に、アラサー男が一目惚れした話。

唯月漣

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17)嫉妬。

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「うー、さっみぃ」


 バス停から数十分ほど歩き、途中コンビニに寄った。家に着く頃にはすっかり俺の体は冷え切っていた。上着を舞に貸してしまったから、俺は今長袖のTシャツ一枚なのだ。

 足早に我が家の玄関に近づくと、何やら明かりが消えた真っ暗な玄関の前に座り込む人物がいる。

 誰かがいるのは分かったが、暗くて良く見えない。パーカーのフードを被り、顔を伏せている。一瞬不審者かと身構えたが、よく見るとあの服装には見覚えがあった。


「あの、えっと……? もしかして、将貴……?」


 スマートフォンの明かりを使ってその人物を照らすと、見慣れた華奢なシルエットが浮かび上がった。それは顔は見えずとも間違いなく将貴で、俺は慌てて玄関の電気をつける。


「やっぱり将貴だ。寒かっただろ? 何でこんな時間に? もしかして、悟や均に何かあったのか……?」


 将貴は俺の問いに黙って首を振るだけで、パーカーのフードを被ったまま顔を上げようとしない。

 
「えーっと、とりあえず中に入ったら? ここにいたら風邪引くだろ」


 何やらただならぬ雰囲気に、俺は将貴の手を引いてとりあえず家の中に招き入れる。すると将貴は、促されるまま黙って家に入り靴を脱いだかと思うと、俺の手首を強くつかんで引きながら、ずんずんと家の中に入っていった。


「えっ。ちょ、ちょ、将貴? 手首、ちょっと痛い……」


 俺は一体何が起きているのか分からず、混乱していた。
 そんな俺に構わずに、将貴は俺をリビングまで連れてくると、明かりのつかぬままのリビングのソファに、思いっ切り俺を突き飛ばした。

 不意の出来事に、俺はバランスを崩して勢い良くソファに尻もちをつく。


「うっ、痛った……ぁ」


 木製のソファの肘置き部分に肘を強かに打ち付けてしまった俺は、息を呑んで痛みに耐える。
 しかし、そんな俺には構わずに将貴は俺に覆いかぶさるようにして、無理矢理唇を重ねてきた。


「ん、んんん、っ……まさた……、んん、は……」


 何がなんだか分からないまま、俺は何度も何度も繰り返し将貴に唇を奪われる。唇を重ねたまま、将貴は乱暴に俺のズボンに手をかけると、ベルトを外し始めた。


「んん、ちょ、ちょ!? 将貴、待って、何!??」


 慌てて唇を離してそう聞いたが、将貴は俺の問いには答えない。黙ってズボンから俺の性器を取り出すと、寒さと混乱で小さくなっているソレを無理矢理自身の口腔に咥えこむ。


「う、っ……ぁ!」


 温かくて柔らかい、とろりと濡れた将貴の口腔内。
 人にされるのが久しぶりであることや、締め切り前で最近自慰をしていなかったこと。
 何より、愛する将貴にそれをされた事によって、俺は全身の力が抜けてしまう。

 ぐんぐん大きくなってしまうそれを、将貴は時折えづくほど深く咥えこんで、ズプズプと喉奥に抜き差しを繰り返した。


「う、ん……将貴、あっ……」


 酔っている時特有のふわふわした気分も手伝って、とろけるように気持ちいい。けれど、今夜の将貴は何かがおかしかった。

 快楽に流されてしまいそうになる自分を叱咤して、俺は将貴の頭を両手で掴み、無理矢理ペニスから将貴の唇を離す。


「ちょっ、将貴っっ!」


 強く名前を読んだその瞬間、将貴の被っていたフードが外れ、顔があらわになる。暗闇に慣れてきた俺の瞳に映ったのは……ぐしゃぐしゃに涙で濡れた将貴の顔だった。






 驚いて固まる俺の前で、将貴は再びフードを被る。


「う、っ、……く、っ……」


 押し殺したように、将貴は泣いていた。


「は!? え、ちょっ。一体、なにがあったの?」


 俺は慌ててティッシュ箱から数枚ティッシュを引き抜くと、将貴に渡した。それから俺はそっと将貴を抱きしめようとするが、将貴は腕を俺の胸に突っ張って、子供のようにいやいやをする。

 仕方がないので、将貴が落ち着くまで、俺は側で将貴の髪を撫でていた。将貴は小さな子供のように、何かを思い出したようにポロポロと泣いては、しゃくり上げる。そんな将貴を、俺は困惑しながらも根気よく撫で続けた。

 ……三十分ほど経った頃だろうか。


「こ、なにっ、やさしく、しな、でっ……」


 将貴が、不意にしゃくりあげながら何かを小さく呟いた。


「……え?」


 聞き取れずに聞き返した俺に、将貴は今度は少し大きな声で言った。 


「こんな、にっ……優しくしないでくださ……。また勘違い、しちゃうから……!」
「?? ……は? 勘違い?」


 俺は将貴のいう意味が良くわからないままだったが、何か誤解があることだけはなんとなく分かった。


「勘違い? ……それは、どういう類の勘違い?」


 できるだけ優しい声色で、将貴の顔を覗き込みながら聞いた。


「奏さんは……っ、僕の事が好きで……、僕だけの……っ、恋、人だって………勘違い、しちゃうから……っ……諦められ、なく……、なっちゃう……から……っ」


 そう言いながらも、将貴は再びポロボロと涙を零す。


「え。それ、勘違いじゃないと思うんだけど……」


 俺はますます意味がわからない。何を言ってるんだ? 将貴は。


「だって……奏さんは……っ、遊眞さんとかっ、女の人とかっ……色んな恋人がいて……っ、みんな奏さんのことが好きで……っ、でも僕も奏さんが好きだから……そ……ゆの、ツラくて……」


 そこまで話して、将貴は口をつぐんだ。


 ……はぁぁぁ???


「ちょ、ちょっと待て将貴。それ、どこ情報よ?? 少なくとも、女の人ってとこには、ここ数年まっっったく心当たりがないんですけど!」


 俺が慌ててそう言うと、将貴は涙を拭いながら答える。


「だって……っ、さっき歩いてた……。ホテル街で、キレイな女の人と……くっついて……抱き合って、バス停で……」
「は? ……いや待て。あれは友達だよ、とーもーだーちっ! 単に幼馴染と飲み会の帰りで、途中まで遊眞も一緒だったんだよ! あいつが酔い潰れたから、俺が彼女を家に送っただけの話で。彼女もまともに立てないほど酔ってたから、無理やりタクシーに押し込むために抱き上げただけだよ。彼女は既婚者だし、そもそもホテル街に行った訳じゃなくて、あの界隈に共通の知り合いがやってる安い居酒屋があって……」
 

 俺が早口で先程までのことを説明すると、将貴は眉根を僅かに寄せたまま答える。


「うう……本当に? ……だとしても、その言い方だと、男の人とは心当たりがあるんでしょう? 奏さん、本当は遊眞さんとも、してるんでしょ……?」


 ……しまった、やぶへびだ。
 
 遊眞め。そんなことまで喋ったのか。あー、クソ。


 俺は軽率な遊眞の行動にイライラしながらも、結局は身から出たサビだと諦めた。


「……昔な。それも大昔。確かに、俺には荒れていた時期があって。そのときに遊眞と体の関係があったよ。……けど、それは十年以上も前のことで、とっくに関係は切れてる。勿論今は将貴としかこういう事はしてない。将貴以外とは、したいとも思わない。今俺が好きなのは、将貴だけだから」


 こればかりは、信じてもらうより他に方法はない。俺は真っ直ぐに将貴を見つめ、正直にそう伝えた。



「ほんと……?」
「ほんと。ていうか、アイツ遊眞と体の関係があったことは、むしろ俺の中では忘れたい黒歴史」


 ようやく泣き止んだ将貴の目は真っ赤に腫れていて、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「本当に?」
「ああ。信じてくれる?」
「…………」
「遊眞とのこと、隠しててごめん。俺のせいで、いっぱい泣かせたね……」
 

 俺は将貴を抱きしめて、心の底から謝罪した。
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