天使などいない

えりー

文字の大きさ
上 下
9 / 17

居場所を知られる

しおりを挟む
ガストが仕事から帰る時にたまたま立ち寄った酒場で見つけた人相書き。
それは懸賞金も書かれているメルの人相書きだった。
ガストは青ざめ、酒を飲むのを中断し急いでメルの居る宿へ戻った。
「メル!!無事か!!?」
バンっと扉を開けるとそこにはメルの姿は無かった。
すると一階からガストを呼ぶおかみさんの声がした。
「ガストさん、こっちへ!!」
急いで呼ばれている方へ向かった。
「私の力ではもう2人を匿いきれないの!」
「え・・・?」
「おかみさん、私たちの事知っていたらしいの」
「・・・何故今まで匿ってくれていたんですか?」
ガストは驚いた。
おかみさんは淡々と話し始めた。
「私の友人が昔、天使の末裔で王族に連れて行かれたからよ」
「それって私の母ですか?」
おかみさんは頷いた。
「あなたにはガストさんがついていてくれるから安心だわ。裏口から早くお逃げなさい」
そう言うと2人に食糧を渡し、背中を押した。
「おかみさん、ここにこの懸賞金の娘がいるだろう?」
「みんなで懸賞金を山分けにしようぜ」
そんな声が聞こえてきた。
居場所を特定されてはもうここにはいられない。
そう思い、ガストはおかみさんに頭を下げお礼を言った。
「おかみさん、今までありがとうございました」
「良いのよ、私は非力だけど守りたいと思ったのよ」
そう言いおかみさんは裏口の扉を閉めた。
おかみさんは少し寂しそうに微笑んでいた。
「ありがとうございました」
彼女に聞こえていないかもしれないがメルもお礼を言った。
メルとガストは急いでこの町から逃げ出した。
あの人相書きが何処まで届いているかわからないけれど・・・。
とにかく今は逃げるしかないとガストは思った。
なるべくメルの前で殺戮を繰り広げたくない。
そんな思いが強くあったからだ。
懸賞金の金額が異様に高かった。
王宮で何かあったとしか思えない。
それがガストの考えだった。
ガストはこれからどこへ向かっても追手が来ると思った。
だからガストの秘密の場所へ向かうことにした。
あそこならきっと見つからないはず・・・。
ただ、今までのような快適な暮らしは出来ないだろう。
(メルは耐えられるだろうか・・・)
「メル、今から行くところは快適な場所ではない」
「はい」
「そこで生活していかなければならない」
「そこはどんな場所ですか?」
「着けばわかる」
それ以上は何も教えてもらえずメルは少し不安になった。
メルは自分を守ることが出来ない。
いつもガストに守ってもらってばかりいる。
申し訳なく思っている。
しかし、こればかりはどうしようもない。
ガストについて生きていく以外方法がない。
それに愛おしい人から離れたくなかった。
ついた先は滝の裏側の広いくぼみだった。
そのくぼみは少し洞窟になっていた。
暗くて良く見えなかったがすぐにガストがランプに火を灯した。
するとたくさんの武器や、お金が入っている袋が置いてあった。
一目でここでガストが生活していたことがあるのだとわかった。
足元は固い石。ここで寝転がると背中が痛くなりそうだとメルは思ってしまった。
確かに快適な生活は送れそうにないだろう。
「な?快適な場所ではないだろう?」
「・・・はい」
「だが、他に安全な場所がない」
そう言いギリっとガストは自身の手を握り締めた。
「ガスト・・・私なら大丈夫です」
メルが無理をしていることが伝わってきたがあえて何も言わなかった。
「私はガストが傍にいてくれればそれだけで幸せです」
「俺もだ」
2人は冷たい岩場の中で抱き合った。
そして、これからの事を考えなければいけないと相談しあった。
しおりを挟む

処理中です...