火の国へトリップ(日輪編)

えりー

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そろそろ一か月

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火の国へ来てからもうすぐ一か月が経とうとしていた。
あの初めて抱かれた日から毎日日輪はマリーを抱きに来た。
マリーは彼を受け入れた。
最初の時の痛みが嘘のようで今では快楽しかない。
恥ずかしさはまだ残るがマリーは快楽に負け彼と行為に及んだ。
しかし、マリーは自分の気持ちがわからない。
好きだから受け入れているのか、彼に恩があるから受け入れているのかどちらかわからない。
「マリー、何を考えているんです?」
「あの、そろそろ一か月たったのでその事です」
「またどちらかへトリップする気ですか?私を切り捨てて?」
「そ、そんなこと言ってません!」
マリーはまだ彼が美晴という女性の事を引きずっていると思っている。
美晴の代わりにされているのではと思うこともたびたびあった。
今もそう思っている。
「私は美晴さんの代わりを務めたと思います。そろそろ伴侶探しに行かなくちゃいけなくて・・・」
「ちょっと待ってください、どうしてそこで美晴さんの名が出てくるのですか?」
突然その名を言われ日輪は狼狽えた。
「私を抱いたのは美晴さんの代わり何でしょう?まだ未練があるんじゃないんですか?」
「何度も言いましたが私が今好きなのはマリーですよ」
そう諭すように言った。
しかし、マリーはそんなにはやく気持ちが切り替えられると思っていなかった。
「・・・私は、また伴侶探しに行きます。今までお世話になりました」
「いつ、そんな事を許しましたか?」
低い声音で日輪は言った。
その声はぞくりとするものがあった。
壁に追い詰められ、ダンっと壁を叩かれた。
振動が背中に伝わるほどの強い力だった。
マリーはビクッと体を揺らした。
「貴方が行くのなら私も一緒に行きます」
「駄目です!」
「何故です!?」
「この世界の均衡が崩れます!不死鳥の不在はこの世界にとって危険なものなのでしょう!?」
「ええ、もしかするとこの世界が崩壊してしまうかもしれませんね」
そう言いながら狂気めいた瞳をする。
「なおさら、一緒に連れていけません」
日輪の腕を潜り抜け、トリップしようとした。
しかし、日輪はそんなマリーを抱きしめた。
不死鳥の力でトリップする力を抑え込んでいる。
暫くそうしていると、マリーからトリップする力が少ししかなくなった。
「あっ・・・」
「どうやら、もう少し滞在して力を蓄える必要があるようですね」
彼はにっこりそう言い微笑んだ。
日輪はマリーをどこへもやる気がないことが分かった。
「マリー、この世界で私のつがいになってください」
「番?」
マリーは驚いた。
それは彼からのプロポーズだった。
しかし、自分は伴侶を連れて帰らなければいけない。
「少し考えさせてください」
「ええ、時間はいくらでもありますからよく考えてくださいね。でも、私は貴方を手放す気はありませんよ。どんな答えが出たとしても、傍に居させてもらいます」
それって考えるだけ無駄なんじゃ・・・と思ったがここでそれを言うと彼がまた怒りだし、暴走するので何も言わなかった。
その日からまるで見張られているような生活が続いた。
トリップしないようにずっと見られている。
もうトリップする力は戻ったがなかなかトリップする機会がない。
彼は浴室にまで一緒に入ってきてマリーを見張っている。
「マリー、私は少しの間ならこの世界を空けることが出来ます」
「え?」
「その間に貴方のご両親を説得しに行くというのはどうですか?」
「それとも、マリーは私を伴侶に選んでくださらないのですか?」
「・・・私は、日輪さんの事が好きです。その答えは出ました」
例えとんでもない二面性を持っていても日輪を好きになってしまった。
その事は後悔していない。
「私、この世界に残ります。その代り美晴さんの事は絶対にあきらめてください」
はぁーと日輪は溜息を付いた。
「美晴さんの事はもう諦めています。何度言えばわかるんですか!?」
「・・・両親には私から言いに行ってきます。日輪さんはこの世界で待っていてください」
「この世界に必ず戻ってくると誓ってくださるのならその約束をしましょう」
「何か約束の品を私にください」
「そう言われても・・・」
持っているものは少ない。
髪の毛から赤いリボンを外し日輪の手に巻いた。
「これが約束の印」
「・・・まぁ、良いでしょう」
そう言うと彼はマリーを強く抱きしめた。
必ずこの世界へ帰ってきてください。
「はい」
そうして2人はキスを交わし合った。
マリーはまだ美晴さんの事が気になっていたが日輪があそこまで否定するのだ。
きっともう諦めているのだろうと思い安心してトリップすることが出来ることを喜んだ。
そうしてマリーは自分から日輪に抱きつき頬にキスをして自分の世界へと帰って行った。
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