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恋の自覚

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この世界へきて3ヶ月が経過した。
拓真はランについて悩んでいた。
ランはこのまま一人でも平気だと言う。
けれども、拓真から見るとそう言い聞かせているように見えたのだ。
ランは深い孤独中にいる。
二人でいるときもそう感じる事がある。
ふとした拍子に悲しげな表情を浮かべる。
そういう時に拓真はランを引き寄せて抱きしめたくて仕方なくなる。
拓真は今まで恋をしたことがない。
誰かに執着したこともなかった。
この感情に名前を付けつとしたらきっと恋というのかもしれない。
今日は二人で川に洗濯に来た。
ランは慣れた手つきで洗濯を進めていく。
拓真は道具の使い方もわからなければ、洗い方もわからない。
だから習いに来たのだが、どうにもうまくいかない。
「洗濯って意外と難しいんだな・・・」
拓真がそう呟くとランが笑いながら、言った。
「慣れるとそうでもないですよ」
この頃のランはとても楽しそうに見える。
それは一人じゃないからかもしれない。
(まただ。その事を考えると胸が痛む)
その時強風に煽られ洗濯していたシーツが飛ばされそうになった。
何とかランが手にしたが、足を滑らせ川に落ちた。
「!」
「ラン!大丈夫か!?」
「はい。少し冷たいけど大丈夫です」
ランは意外とそそっかしい面がある。
こういう事はしょっちゅうあった。
彼女を助け起こすと、目のやり場に困った。
彼女の着ていたワンピースが水に濡れてぴったりと体に張り付いて見事な曲線を描いていた。
体のラインが丸見えになっていた。
ふくよかな胸。丸びを帯びた臀部。細い腰。
思わず手を伸ばしそうになった。
(触れたい)
その思いが心を占めた。
しかし、ふと我に返り何とか踏みとどまれた。
自分の服を脱ぎ彼女にかけてやった。
「ありがとうございます」
「いいから着替えてこいよ」
そう言うとランは急いで家へ戻って行った。
ランが去った後も拓真の心臓は高鳴ったままだった。
自分の胸に手を当て、拓真は考えた。
初めは彼女に対する同情の感情だった。
今はー・・・きっと彼女に恋をしている。
本能的にそう感じた。
さっきは危なかった。
思わず手を出してしまう所だった。
告白はされている。
そろそろ返事を返す頃だと思っていた。
でも、彼女はまだ自分の事を好きでいてくれているのだろうか。
拓真は珍しく不安になった。
自分の気持ちは固まっても相手の気持ちが変わることもある。
それが恋愛というものだと誰かが言っていたような気がする。
もう一度ランに確認してみよう。
(いや、俺から告白しよう)
ランは一体どんな反応を示すだろうか。
もし、受け入れてもらえれば俺はずっとあの家に居たいと思うようになっていた。
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