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婿探しの理由

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海斗はふと思った。
何故、都は婿探しをしているのだろう。
1階に降りるとホットミルクをふーふーっと冷やしながら飲もうとしている都を発見した。
都は暑い飲み物が苦手なようだ。
(ああ、猫舌ってやつか?)
その仕草があまりにも可愛らしくて思わず見惚れてしまった。
「あ、海斗さん」
「都」
都は海斗の家に完全に馴染んでいた。
特に海斗の母は都を溺愛し始めていた。
その気持ちは分からないでもない。
「都に聞きたい事があるんだ。いいか?」
「はい、何ですか?」
都はホットミルクをテーブルに置いて話を聞く態勢をとった。
「都は、何故婿探しをしているんだ?」
「私みたいな猫は人間の伴侶を得なければいけません。猫を選ぶと子が出来ないのです」
「都みたいに人間に変身できる猫はたくさんいるのか?」
海斗は驚いた。
「いいえ、私みたいに変身できる猫は滅多にいません」
都はそう答えた。
「そうなのか・・・」
(それなら納得だ。繁殖できないとわかっていて普通の猫を選んだりはしないだろう)
「はい。それで猫の世界から伴侶探しにやってきました。でも途中で持ってきていた食べ物もなくなってしまって行き倒れてしまっていたところ海斗さんに助けてもらったんです」
「猫の世界なんてあるんだな・・・」
そこにもびっくりだった。
「はい。猫しかいませんよ」
「行ってみたいな」
海斗は想像してうっとりしてしまった。
(きっとふわふわもこもこの世界なんだろうな)
「私の伴侶になれば行き来できるようになりますよ」
「え?」
「私と契りを交わしていただければ行けますよ」
(契りって・・・アレのことだよな・・・)
「そんな事簡単にできねぇよ」
海斗はやや呆れ気味で言った。
(都は恥ずかしげもなくそういうことを言ってくるなぁ)
海斗はいつも赤面させられっぱなしだ。
「海斗さんは何をしたら好きになってくれますか?」
そう言いながら上目遣いで都が迫ってきた。
「・・・やめてくれ」
「どうしてですか?私の事が嫌いですか?」
「そんなことあるはずない!」
(はっきり断言してしまった)
「そうですか。良かったです」
都はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
(うっ、可愛すぎだろ。これは・・・)
思わず引き寄せてキスしようとするとそこに母が立っていた。
手には外から取り込んできた洗濯物が入った籠を持っていた。
「・・・」
気まずい空気が流れる。
「私の事は気にせずどうぞ続けて?」
そう言ってそそくさと去って行った。
家族にこういう現場を見られるのはかなり恥ずかしい。
(危なかった、もう少しで雰囲気に流されてキスするところだった)
都は小首を傾げ、海斗を見つめていた。
自分がキスをされそうになったことに気がついていないようだった。






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