天狗の花嫁

えりー

文字の大きさ
上 下
25 / 29

天狗の長からの招待

しおりを挟む
一羽のカラスが巻物を持ってやって来た。
それを悠は受け取った。
啓と悠、由香を招くと書物には書かれていた。
長の命令は絶対だ。
人間との婚姻を認めないと言われるかもしれない。
悠は気が重たくなった。
今更、由香を手放すなんて悠にはできない。
長の命令が絶対でもこれだけは聞き入れられない。
悠はそう思った。
そう、例え長を敵に回しても。
翌日学校に行ったときに啓にこの事を伝えた。
すると啓も同じことを思ったのか、苦々しい表情を浮かべた。
啓は言った。
「もし、長が婚姻を反対したらどうする気だ?」
「俺は、それでも由香と結婚したいと思っている」
「啓のほうこそ長に言われたからと言って諦めきれるのか?」
「俺も悠と同じだ。長に言われたからと言って諦められなんかしない」
啓は言う。
「だが、長の元に行かなければならないな」
「ああ」
「ここに書かれてあるように由香も連れて行かなければならないな」
「由香もか・・・」
悠は言った。
「長は由香をどうする気だろうか」
「分からない。けれど、連れていくしかないだろう」
こうして3人は長の元へ行くことになった。
どっちにしろこのままではいられない。
いつくらいの低い天狗が由香を攫いに来るか分からない状態だ。
長が婚姻を認めてくれるのならば相談してみようと2人は考えていた。
家に帰り由香にこの事を伝えた。
「由香、明日天狗の長の所に行く」
「え?私は普通の人間よ?そんなに偉い人に会っていいの?」
「由香も連れてくるように書かれている」
そう言い巻物を見せた。
確かに巻物にはそう書いてあった。
「啓と悠、私の3人で行くの?」
「ああ」
(天狗の長・・・どんな人だろう)
由香は不安になった。
きっと今の悠との関係に反対している人の様に感じた。
その時戸をノックする音が聞こえた。
悠が由香に後ろに下がっているように言い、戸を開けると啓が立っていた。
「啓?どうしたのこんな時間に」
今は深夜だ。
「俺のところにも巻物と明日着ていく衣装が届いた。由香の衣装だ」
「何で啓の所に届いたんだろう?」
由香は不思議に思いそう訊ねた。
「分からない」
啓にも分からないらしい。
「巻物にはなんて書いてあった?」
すると悠が口をはさんだ。
「明日はこの衣装を着せて連れてくるようにと書いてあった」
由香は衣装を受け取った。
凄く煌びやかな衣装だった。
「・・・これ着なくちゃいけないの?」
あまりの煌びやかさに一瞬引いた。
でも、どうして私だけなんだろう・・・。
疑問に思ったが決定事項のようなので黙っておいた。
悠は一瞬不快そうな表情を見せたが長の命令なので従うことにした。
「啓、明日は早い。今日は泊まっていけ」
悠がそう言うと啓は一瞬考えた。
そして答えた。
「分かった。そうさせてもらう」
こうして啓は、悠の家に一泊することになった。

翌日
悠と啓、由香は長の元に向かった。
長から贈られてきた着物は軽くて着心地も良かった。
きっと上等な品のものなのだろうと思った。
着かたがわからなかったので悠に着せてもらった。
まるで天女のような衣装だった。
長の居るところは異次元らしい。
悠と啓が2人がかりで壁に門を作った。
門をくぐると漆黒の闇が続いていた。
怖くなって、悠と啓の手を握り締めた。
2人はそんな由香の反応が可愛くて仕方ないらしく、悠は由香の頭を撫で啓は繋がれた手にキスを落とした。
しばらく歩くと光が見えた。
(眩しい!!)
暗闇から出てきたのでわずかな光でも眩しく感じた。
また大きな門が目の前に現れた。
門番がいて、悠と啓が巻物を見せるとすぐに開門してくれた。
今から長と会う。
その緊張感で由香は眩暈を覚えた。
すこし体が震える。
でも悠と啓と過ごすためなら耐えられると思った。
しおりを挟む

処理中です...