魔王の息子に惚れられました

えりー

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前魔王の帰還

トランと真矢

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トランと真矢は色とりどりの花々が咲き誇る庭の一角にやって来た。
魔界は今どうやら春のようだ。
「わぁ!!綺麗」
「そうか」
「トラン様って”ああ”とか”そうか”が口癖なんですか?」
「口癖?」
「はい。お話していていつもその言葉が出てきます」
「・・・ならば口癖なのかもしれんな」
少し低い口調でそう言われ怒らせたのかもしれないと思いトランに謝った。
「な、生意気な事を言ってすみません」
「何を謝っている?」
「一瞬声が低くなったから怒ったのかと思って・・・」
(怒る?私が?)
「そんなことはない。いつも通りだ」
そう言うと真矢は安心したように言った。
「お花摘んでもいいですか?」
「構わん」
真矢は色とりどりの花を摘み始め、何かを作り始めた。
そんな真矢を観察していると眠気に襲われた。
「真矢、私は少し眠る。用事があれば起こせ」
そう言いトランは目を閉じた。
暫くすると甘ったるい匂いがして目が覚めた。
(花の香か)
「トラン様よくお似合いです」
トランの頭の上には花で出来た冠が乗っていた。
指には花の指輪と腕輪がはめられていた。
「これを作っていたのか」
「はい」
真矢は満面の笑みでそう答えた。
「さすがに私には似合わないだろう」
「そんなことありません。花の精の王様みたいですよ」
「はははは、花の精の王か」
「笑った!!」
トランは自分が声を出し、笑っていることに気がついた。
「・・・本当だ」
自分がまだ笑えたことにトランは驚いた。
トランが笑ったことで真矢が喜んでいる。
その姿を見てトランの胸は温かくなった。
(・・・これが嬉しいというやつか)
忘れていた感情を少し思い出してきた。
真矢の言う通り2人ならば感情が取り戻せるかもしれないとトランは思った。
トランは花の冠を取り、真矢の頭に乗せてやった。
「お前もそうしていると花の精の姫みたいだ」
トランは本心からそう思った。
花の冠はやはり真矢の方が似合う。
2人でそうやって遊んでいると庭の奥から魔物が現れた。
「ニンゲンのにおい・・・うまそう」
真矢は異形の姿に驚き動けなくなってしまった。
「命が惜しくばその娘には手を出すな」
「前マオウ様!?」
「この娘は私の新しい花嫁だ」
凄い殺気を放ちながらトランは魔物に近づいていく。
その背の後ろには震える真矢がいる。
トランは真矢を怖がらせた魔物が許せなかった。
(・・・これが怒りの感情か)
魔物は慌ててその場を去って行った。
真矢は青い顔をしていた。
「真矢、もう大丈夫だ」
「トラン様・・・怖かったです。今のは何ですか?」
「知能の低い魔物だ」
真矢は自然にトランに抱きついた。
真矢が自分を頼っている。
そう思うと何があっても真矢を守り通さなくてはいけないと感じた。
トランは庇護欲を掻き立てられた。
真矢は普通の少女のはずなのに何故こんなに心を動かされるのだろうか。
それはトランにも誰にも分からないことだった。
「真矢、そろそろ屋敷に戻ろうか」
「はい」
真矢はまたトランの肩に乗せられるものだと思っていてたが今回は違った。
横抱きにして空を飛ばれた。
まるで大切なものでも扱うような優しい手つきだった。
トランの中で真矢という存在が大きく変わり出していた。
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