死神の憂鬱

えりー

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禁忌

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香織が学校に行っている間、アスカは魂の回収をする。
死神が禁忌を犯すと消滅する。
その事はアスカは知っていた。
しかし、それでもあと2週間香織の傍にいたいと思った。
友人は消滅するという事を伝えに来てくれたのだ。
だがその言葉は聞かなかった事にした。
今までも何人かの死神が人間と恋に落ち消滅した。
今回もきっと例外ではないだろう。
「消滅か・・・」
アスカはそれも悪くないと思った。
愛しい恋人・・・香織と共に死ねるのならそれでいいと思ったのだ。
香織を1人で死なせたくなかった。
空を飛んでいるとカリオの姿を見かけた。
アスカはカリオのところまで飛んで行った。
カリオとは長い付き合いだ。
だからカリオはアスカの事を心配してくれていたのだ。
「悪いな、カリオ。せっかく心配してくれたのに」
「そう思うならあの女ともう関わるなよ」
「もう遅い」
「・・・まさか契ったのか?」
「ああ」
カリオはその言葉を聞きアスカを殴った。
「お前、本当に消滅する気か!?」
「・・・香織のいない世界なんて何の価値もない」
「嘘だろう?俺たち死神仲間がいるじゃないか」
カリオは悲しそうな顔をしていた。
アスカはその顔を見て少し胸が痛んだが自分の意思を貫き通すことを告げようと思った。
「俺は香織を愛している。もうずっと前から」
「・・・意思は固いという事か」
「そうだ」
「分かった。この事は上に黙っておいてやる」
「悪いな、カリオ」
「だが、何故あの女なんだ?」
「自分でも分からない。彼女を見ていると幸せな気持ちになるんだ」
「・・・」
「カリオもそういう相手が見つかると良いな」
「やめろよ、人間と心中なんて冗談じゃない」
そう言うとカリオは去って行った。
「これはこれで悪くないのにな・・・」
人にはそれぞれ価値観がある。
カリオに自分の価値観を押し付ける気はない。
しかし、分かって欲しかったのだ。
自分がどんなに香織の事を愛しているか。
(伝わっただろうか?)
まぁ、いい。
カリオにもお別れは言った。
これで思い残すことはない。
アスカはカリオ以外の死神たちとそんなに親しくない。
だから、挨拶するのはカリオだけだ。
カリオから見たら自分はさぞ滑稽に見えるだろう。
しかし、もう決めたことだ。
覆すつもりはない。
「俺は・・・香織と共に死ぬ」
その事は香織に告げるつもりはない。
告げると香織が悲しむことになるからだ。
香織がもしこのことを知ったらどう思うだろうか・・・。
きっと必死になり止めるだろう。
香織は優しい娘だ。
香織のその優しさに惹かれ好きになったのだ。
「香織の死まであと2週間か・・・」
今夜も香織を抱きたいと言ったら香織は嫌がるだろうか?
死が2人を引き離すまで本当は片時も離れていたくない。
だが、”学校”という場所も香織にとって大事な場所らしい。
それならその事も尊重してあげたい。
アスカはそう思っていた。
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