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ようやく懐いてきてくれていた美鈴がまた自分から離れていった事が許せなかった。
だから、つい別の名を名乗る美鈴に冷たく当たってしまった。
彼女は自分の事を舞子と名乗っていた。
その名には聞き覚えがあった。
以前菓子を食べながらたわいのない話を美鈴とした時に自分は夢の中で”舞子”と呼ばれていたと言っていた。
その時はただの夢の話だと受け流していたが美鈴は何か引っかかっている様子だった。
それからも度々、夢の中で”舞子”になったと聞いた。
その度に蘭は”お前は美鈴だ”と言い聞かせてきた。
美鈴は少し悲しそうな表情をしたが気に留めなかった。
環境が変わり心境の変化から変な夢を見ているのだろうと思っていたからだ。
しかし、階段から落ち頭を打ちどうやら別人になってしまったようだった。
本来の美鈴は大人しく口数が少ない。
だが、舞子と名乗る美鈴は威勢がいい。
あの性質が本当の美鈴なのかもしれない。
(舞子は震えながらも俺を睨み付けていたな)
暫くあのままなのだろうか?
それとも一生”舞子”のままなのだろうか。
美鈴だった時の儚さは舞子にはない。
力強さを感じた。
蘭からすると舞子の方が扱いやすかった。
感情的になり本音を話す姿は好ましく思えた。
今までは何を考えているかわからなかった分、本音が聞けたことが嬉しい。
蘭は美鈴を貢物として受け取って以来他の女の元へ通わなくなった。
それほど美鈴は魅力的だったのだ。
美鈴の容姿はこの国にはないものだった。
異国の妖精のようだった。
美鈴は初めここへ連れて来られた時、酷く怯えていた。
そう今の舞子のように・・・。
舞子も心細い思いをしているのだろうか。
様子を見に行くかどうか迷っていた。
(今は安静に1人で過ごさせる方が良いだろうか・・・)
蘭はそう思いながらも足は舞子の部屋へ向かっていた。
部屋に入ると舞子は眠っていた。
その姿を見て触れたいという気持ちが強くなった。
蘭は25歳の若い青年だ。
性欲が旺盛な年齢だ。
蘭は舞子の唇に自分の唇を重ねた。
そして、唇の隙間から舌を入れた。
「んぅ・・・」
「んん!?」
舌と舌が絡まり、舞子を息苦しさが襲う。
いきなり深いキスをされ舞子は暴れた。
しかし、両手を押さえつけられてしまい抵抗できなくなった。
唇が痺れるほどのキスだった。
舞子は抵抗できないことを悟ると大人しくされるがままになった。
その様子を見た蘭はようやく唇を解放した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「そんなに呼吸を荒くして・・・口づけの経験もないのか?」
「そ、そうよ!」
前世では彼氏がいたことはない。
今のが初めてのキスだった。
舞子はあんなに荒々しいキスを知らない。
「何しに来たの!?」
「言っただろう?ここは後宮だと」
「・・・まさか抱きに来たの!?」
「抱いていいのか?」
舞子は慌てて首を横に振った。
蘭はそんな舞子の頬にそっと触れた。
「な、何・・・?」
「様子を見に来ただけだ」
頬に口づけをし、蘭は出て行った。
「な、何だったの・・・?」
舞子の心臓は高鳴り、いつまでも治まらなかった。
舞子はその晩あまり眠れなかった。

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