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城外へ1

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「蘭様、後宮の外の世界が見てみたいです」
勇気を出して舞子は蘭に言ってみた。
すると蘭は少し複雑そうな顔をした。
「俺は・・・外へは出ない方が良いと思うぞ」
「どうしてですか?」
「お前の容姿はこの国では目立ちすぎる」
「誘拐されたり、売り飛ばされたりするかもしれないだろう?」
鏡を見てみると確かに自分の容姿はこの国の人々と違う。
こんな金髪のウェーブがかった髪の人間はこの世界に来てから見ていない。
使用人も蘭も加賀も皆ストレートの黒髪だ。
「でも、外の世界が見たい」
「・・・わかった。その代り俺の傍から離れるなよ?」
「うん!ありがとう。蘭」
蘭はやはり舞子には優しい。
「舞子、今日行くか。城外へ」
「え?」
「お忍びで行こうと思っていたところだ。舞子はその髪の毛を隠さなくてはいけないな」
護衛に加賀を連れて行くらしい。
(皇帝と皇帝の弟がお忍びで城外にでて良いのだろうか・・・)
舞子はそう思った。
しかし、舞子は外の世界を知らない。
美鈴の時の記憶はあるが地面ばかり見つめていたようで、街なみの記憶がない。
「では用意をしようか」
「?」
「おい誰か来い」
蘭が声を出すと使用人が駆けつけた。
「遅れて申し訳ありません」
「それよりお前に頼みがある」
「はい、何でしょうか?」
「舞子に服を貸してやってくれないか?」
「え!?私のですか?」
使用人は驚いた。
「私の服はボロボロで舞子様にお貸し出来るような服ではありません」
「そのボロボロの服を持ってこい」
「・・・かしこまりました」
使用人は首を傾げながら服を取りに行った。
暫くすると使用人が戻ってきた。
「こちらがまだ着れそうな服になります」
「舞子その服を借りろ」
「俺は自室へ着替えに行ってくる」
そう言うと蘭は部屋から出て行った。
「舞子様、お召しかえをいたしましょう」
最近では使用人も舞子の事を舞子と呼ぶようになっていた。
どうやらそういう命令を蘭が使用人たちに出したようだ。
蘭は一体どういう格好で戻ってくるのだろう。
いつも煌びやかな着物姿しか知らない舞子は少し楽しみになった。
舞子は着物を着せかえてもらった。
その着物は大事に使っているのがわかる。
あちこち縫い直した痕があった。
舞子は着物の持ち主にお礼を言った。
「この服すごく大事なものじゃないんですか?」
「はい。私の持っている中で一番上等な服です」
「私が借りて本当に良いんですか?」
「はい。舞子様は信頼できますし・・・」
「ありがとうございます。無理を言ってすみません」
舞子は頭を下げた。
「舞子様。お顔をあげてください」
「でも・・・」
「今から城外へ行かれるんですよね?」
「はい」
「髪の毛は短めにまとめておきますね」
そういうと髪の毛のセットまでしてくれた。
そしてショールも貸してくれた。
「髪はこれで隠れると思うんですが・・・」
「?」
「舞子様には何か魅力がおありなので心配です」
「大丈夫です、蘭様も一緒ですし・・・」
そう答えると余計に心配されてしまった。
「何も起きないと良いですけど」
「あ、お忍びの件は秘密にしておいてくださいね」
「はい、もちろんです」
トントンっと扉をノックする音が聞こえた。
「舞子、準備は出来たか?」
「はい」
扉が開きいつもと全然違う服装の蘭が部屋に入ってきた。
それでもどこか気品が溢れていた。
「舞子、その服も良く似合っている」
「蘭様こそよくお似合いですよ」
気がつくと使用人の姿が消えていた。
そういう風に教育されているのだろう。
あまりに自然にいなくなっていたので舞子は驚いた。
「さぁ、町へいこうか」
蘭は舞子に手を差し伸べた。
舞子は迷いながらもその手を取った。
一体城外はどうなっているのだろうと舞子は胸を弾ませた。
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