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5黄金狐
鏡
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寺に似た建物に、黄金と蒼月は着いた。
「遅いぞ! 狐! 猫! この建物に鏡はあるはずだ。お前達で探して取ってこい」
二人を案内していた狼が一匹。
そう言って、黄金と蒼月を促す。
「場所まで分かっているなら、自分で行きやがれ!」
蒼月の当然の主張。
「愚か者め。狼は、その群れ全体で神格を得る。一個体と言えど、おいそれと人間に関われば、大変なことになるわ」
狼がイラつく。
―力の制約
狼の力は大きい。河童薬に制約があるように、狼の力にも制約があるということか。
「仕方ない。行くか」
黄金が建物の周囲に廻らされた塀をぴょんと越えて、建物に侵入する。
蒼月も、それに続いた。
建物は大きな座敷があり、その周りに廊下が配置されている。
大きな屋根を、幾重にも重なった梁が支え、上を瓦が覆っている。
寺に似た構造の建物ではあるが、その中身は、少し違う。
寺によくある仏像や線香の匂いはなく、代わりに、動物の骸や血の匂いがした。
人の気配がして、なにやら唱えているが、その内容は、サッパリ分からない。
多くの人間が、黄金と蒼月が手に入れようとしている鏡に向かって祈りを捧げている。
「なんだあれ?」
「さあ? 人間のすることは、時々まるっきり分からない」
雲外鏡から、妖魔の目がこちらを覗いているが、鏡が小さすぎて、人間の世界には入り込めないようだ。
時々手が出てきて、ジタバタしては、また鏡に戻っていく。
どうやら、獣の骸は、妖魔に捧げられた物のようで、鏡の中から出てきた手が、獣をむんずと掴んで、鏡の中に引きずり込む。
バリバリと食い散らかす音が、鏡の外にも漏れ聞こえてきておぞましい。
あれに祈りを捧げて、何になるというのだろう? 人間があの鏡を手に入れるために殺した狼を大切にした方が、よっぽど人間には利があるはずだ。
狼は、山を支配し、山の獣をまとめている。
昔は、人間は狼に頼むことで、鹿やイノシシを適切に手に入れることが出来ていた。
最近では、狼は山奥に追いやられて、その仕事もしにくくなり、大多数が妖の国へ帰ってしまったようだが。
狼が管理しなくなった獣が人里に下りて悪さをする未来も、そう遠くないだろう。
「妖魔が関わっているならば、妖狐の仕事と言えないこともないか」
黄金が狐火をつくり、人間を取り囲めば、人間達が慌てはじめる。
「恐れることはない! まやかしだ。この魔鏡があれば、我らは守られる」
教祖らしき男が叫ぶ。
「だとよ」
蒼月は、鼻で笑う。
ムクムクと巨大な山猫に変化して、周囲を威嚇する。
「妖め!」
人たちが取り出したのは、日本刀。
蒼月に切りかかるが、刃は蒼月に届きはしない。
術師でもない、鍛えられた侍でもない者の刃が、妖の身を傷つけられるわけがない。
「胆力が足りん!!」
刃をそのまま握って蒼月はへし折ってしまう。
腰が抜けた人間達が逃げ惑う。
じわじわと、黄金の狐火が、輪を縮め、鏡と教祖を囲む。
「逃げよ。人間。そなたでは、この火は消せぬ。無駄に焼け死ぬだけだ」
黄金がニコリと笑えば、教祖の男も腰を抜かして出て行ってしまった。
……拍子抜けだ。狼が、取り戻せないと困っていたから、どのような障害があるのかと思っていたが、どういうことだろう?
訝しみながら、黄金が鏡に近づけば、鏡の中から人間の目がのぞく。
? 誰だ?
こちらを見ながら、ニヤリと笑う。
「遅いぞ! 狐! 猫! この建物に鏡はあるはずだ。お前達で探して取ってこい」
二人を案内していた狼が一匹。
そう言って、黄金と蒼月を促す。
「場所まで分かっているなら、自分で行きやがれ!」
蒼月の当然の主張。
「愚か者め。狼は、その群れ全体で神格を得る。一個体と言えど、おいそれと人間に関われば、大変なことになるわ」
狼がイラつく。
―力の制約
狼の力は大きい。河童薬に制約があるように、狼の力にも制約があるということか。
「仕方ない。行くか」
黄金が建物の周囲に廻らされた塀をぴょんと越えて、建物に侵入する。
蒼月も、それに続いた。
建物は大きな座敷があり、その周りに廊下が配置されている。
大きな屋根を、幾重にも重なった梁が支え、上を瓦が覆っている。
寺に似た構造の建物ではあるが、その中身は、少し違う。
寺によくある仏像や線香の匂いはなく、代わりに、動物の骸や血の匂いがした。
人の気配がして、なにやら唱えているが、その内容は、サッパリ分からない。
多くの人間が、黄金と蒼月が手に入れようとしている鏡に向かって祈りを捧げている。
「なんだあれ?」
「さあ? 人間のすることは、時々まるっきり分からない」
雲外鏡から、妖魔の目がこちらを覗いているが、鏡が小さすぎて、人間の世界には入り込めないようだ。
時々手が出てきて、ジタバタしては、また鏡に戻っていく。
どうやら、獣の骸は、妖魔に捧げられた物のようで、鏡の中から出てきた手が、獣をむんずと掴んで、鏡の中に引きずり込む。
バリバリと食い散らかす音が、鏡の外にも漏れ聞こえてきておぞましい。
あれに祈りを捧げて、何になるというのだろう? 人間があの鏡を手に入れるために殺した狼を大切にした方が、よっぽど人間には利があるはずだ。
狼は、山を支配し、山の獣をまとめている。
昔は、人間は狼に頼むことで、鹿やイノシシを適切に手に入れることが出来ていた。
最近では、狼は山奥に追いやられて、その仕事もしにくくなり、大多数が妖の国へ帰ってしまったようだが。
狼が管理しなくなった獣が人里に下りて悪さをする未来も、そう遠くないだろう。
「妖魔が関わっているならば、妖狐の仕事と言えないこともないか」
黄金が狐火をつくり、人間を取り囲めば、人間達が慌てはじめる。
「恐れることはない! まやかしだ。この魔鏡があれば、我らは守られる」
教祖らしき男が叫ぶ。
「だとよ」
蒼月は、鼻で笑う。
ムクムクと巨大な山猫に変化して、周囲を威嚇する。
「妖め!」
人たちが取り出したのは、日本刀。
蒼月に切りかかるが、刃は蒼月に届きはしない。
術師でもない、鍛えられた侍でもない者の刃が、妖の身を傷つけられるわけがない。
「胆力が足りん!!」
刃をそのまま握って蒼月はへし折ってしまう。
腰が抜けた人間達が逃げ惑う。
じわじわと、黄金の狐火が、輪を縮め、鏡と教祖を囲む。
「逃げよ。人間。そなたでは、この火は消せぬ。無駄に焼け死ぬだけだ」
黄金がニコリと笑えば、教祖の男も腰を抜かして出て行ってしまった。
……拍子抜けだ。狼が、取り戻せないと困っていたから、どのような障害があるのかと思っていたが、どういうことだろう?
訝しみながら、黄金が鏡に近づけば、鏡の中から人間の目がのぞく。
? 誰だ?
こちらを見ながら、ニヤリと笑う。
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