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5黄金狐
道成寺
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白金は、河童に招かれて運河を上る。
ひと気のない街外れまで来て、河童は白金に頭を下げる。
「申し訳ありません。妖狐を陥れる手助けをしてしまいました」
河童は、白金に土下座をして謝る。
「わ、手をあげてよ。いきなりどうしたんだい?」
白金が慌てれば、人間の術師に騙されて、タエを殺すと言われたのだとサメザメと河童が泣く。
騙した妖狐は、若草という七尾の妖狐。
友人のために薬を取りに来たところを、その術師の手に落ちるように手伝ったのだという。
「その若草は?」
「術師に酷い目にあわされた後、必死で落ちのびて来ましたので、私が逃げるのを手伝い、この運河の先までお送りしました。しかし、河童の薬もほとんど効かないような有り様で、ずいぶんと弱っておいででした。人間の追っ手を撒くために、私が目を離した隙に、いなくなってしまった所存です。今頃はどうしておられるのか。また人間に捕まって酷い目に合わされていなければ良いのですが……」
河童は、不安気にうなだれている。
「大丈夫。若草は、運良く山猫の妖に見つけてもらって、匿われているみたいだよ」
白金は、管狐を通して見た、若草らしき妖狐の様子を河童に話す。
「まことにございますか?」
河童の顔が、パッと明るく輝く。
ずいぶん若草を心配していたのだろう。
弱った妖。簡単に人間に捕まってしまうだろう。
見世物にされてしまうか、檻に閉じ込められるか、殺されてしまうか……。
人間に捕まってしまった妖の末路としては、悪い想像しか浮かんでこない。
「しかし、不安だね。追手がいるのか……」
昨晩の狂信的な人間達のことを思い出せば、胸がざわつく。
「いたぞ! 河童だ!! 妖狐もいる!!」
突然に、人間の声がする。見れば、三人ほどの人間が、こちらに向かってくる。
「し、白金様!!」
「河童、逃げて!」
戦闘に向かない河童は逃がした方が良い。河童を運河に逃がした後に、白金は、一人で追っ手に立ち向かう。
「河童が逃げる!」
追おうとする人間達の行く手を白金は防ぐ。
「行かせる訳ないだろう?」
白金は、人間達を睨む。
ざわざわと周囲の大気が白金に集まり始める。
「お前達は、妖狐に仇なした人間だね? ならば遠慮はいらないよね?」
白金の金の瞳がギラリと輝く。
「く、くそ!」
怯えた人間が、何かをこちらに放り投げてくる。
箱?
投げられた拍子に壊れた箱から出てきたのは、大きな白い大蛇。匂いを嗅げば、人間の女の匂いがする。
可哀想に。
聞いたことがある。とある寺の傍に住んでいた娘が、修験者に懸想しすぎて大蛇になったとか。愛しい者を焼き殺して、自身も灰になったと聞くが、その報われない魂を妖魔の国で見つけて箱に封印したのか……。
「娘さん……辛かったね。もう大丈夫だよ。私が喰ってあげようね」
白金は、ニコリと笑った。
ひと気のない街外れまで来て、河童は白金に頭を下げる。
「申し訳ありません。妖狐を陥れる手助けをしてしまいました」
河童は、白金に土下座をして謝る。
「わ、手をあげてよ。いきなりどうしたんだい?」
白金が慌てれば、人間の術師に騙されて、タエを殺すと言われたのだとサメザメと河童が泣く。
騙した妖狐は、若草という七尾の妖狐。
友人のために薬を取りに来たところを、その術師の手に落ちるように手伝ったのだという。
「その若草は?」
「術師に酷い目にあわされた後、必死で落ちのびて来ましたので、私が逃げるのを手伝い、この運河の先までお送りしました。しかし、河童の薬もほとんど効かないような有り様で、ずいぶんと弱っておいででした。人間の追っ手を撒くために、私が目を離した隙に、いなくなってしまった所存です。今頃はどうしておられるのか。また人間に捕まって酷い目に合わされていなければ良いのですが……」
河童は、不安気にうなだれている。
「大丈夫。若草は、運良く山猫の妖に見つけてもらって、匿われているみたいだよ」
白金は、管狐を通して見た、若草らしき妖狐の様子を河童に話す。
「まことにございますか?」
河童の顔が、パッと明るく輝く。
ずいぶん若草を心配していたのだろう。
弱った妖。簡単に人間に捕まってしまうだろう。
見世物にされてしまうか、檻に閉じ込められるか、殺されてしまうか……。
人間に捕まってしまった妖の末路としては、悪い想像しか浮かんでこない。
「しかし、不安だね。追手がいるのか……」
昨晩の狂信的な人間達のことを思い出せば、胸がざわつく。
「いたぞ! 河童だ!! 妖狐もいる!!」
突然に、人間の声がする。見れば、三人ほどの人間が、こちらに向かってくる。
「し、白金様!!」
「河童、逃げて!」
戦闘に向かない河童は逃がした方が良い。河童を運河に逃がした後に、白金は、一人で追っ手に立ち向かう。
「河童が逃げる!」
追おうとする人間達の行く手を白金は防ぐ。
「行かせる訳ないだろう?」
白金は、人間達を睨む。
ざわざわと周囲の大気が白金に集まり始める。
「お前達は、妖狐に仇なした人間だね? ならば遠慮はいらないよね?」
白金の金の瞳がギラリと輝く。
「く、くそ!」
怯えた人間が、何かをこちらに放り投げてくる。
箱?
投げられた拍子に壊れた箱から出てきたのは、大きな白い大蛇。匂いを嗅げば、人間の女の匂いがする。
可哀想に。
聞いたことがある。とある寺の傍に住んでいた娘が、修験者に懸想しすぎて大蛇になったとか。愛しい者を焼き殺して、自身も灰になったと聞くが、その報われない魂を妖魔の国で見つけて箱に封印したのか……。
「娘さん……辛かったね。もう大丈夫だよ。私が喰ってあげようね」
白金は、ニコリと笑った。
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