11 / 12
第三章 森林にて
10.窮地
しおりを挟む
火薬玉による魔物の誘導作戦は順調に進んでいた。森の中を静かに進みながら魔物を誘い、ラント村から遠ざけていく。
自警団や冒険者達も、従属していた魔物達としっかり応戦しているようで、こちらに現れたのはS級の魔物のみ。 後少し誘導できれば、ラント村の区域から完全に外れる。そうすれば、クレッド達も気兼ねなく全力で魔物を討伐できるはずだ。
(あと少し……あと少し、村から離すことが出来れば……)
ラディウスは慎重に魔物の後を追いながら、額を流れる汗を乱暴に拭った。 火薬玉を投げる動作自体は単純だが、反復すれば確実に疲労が蓄積していく。魔物に自らの存在がバレないよう気配を消しながら移動している為、脚と火薬玉を投げている肩は鈍く痛み、呼吸は荒い。それでも、あと少し耐え切れば作戦は完了する。
「はぁ……はぁ……。ここまで来たら、大丈夫だろう……!」
わずかに安堵を浮かべ、残り僅かとなった火薬玉に手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
――ドゴォンッ!!!
突如空気を震わせる衝撃音が森を貫くと、続けてメキメキッと嫌な音を立てながら木々が無残に押し潰されていった。 ラディウスが反射的にそちらへ視線を向けると、木の陰から巨大な影が姿を現した。
「なっ……こいつ、一体じゃ無かったのか……!?」
──そこには、S級の魔物がもう一体いた。
姿形は同じ、体長三メートルをゆうに超す熊のような魔物。圧倒的な質量を持つ魔物が、地面を抉りながらラディウスに迫って来ていた。 攻撃を避ける為慌てて茂みに身を投げ出すとガサリと音が鳴ってしまい、今まで誘導してきた魔物までもがラディウスの存在に気づいてしまった。
「ッ……!まずい事になった……!」
狭い森の中で、S級の魔物二体に囲まれる最悪の状況。息を呑む暇すらなく、魔物の鉤爪が容赦なく振り下ろされる。
「ぐッ……!うぅ……っ!」
回避したつもりでも、鋭い爪先が脇腹を掠め、熱と痛みが奔った。外套はいとも簡単に破れてしまい、皮膚が裂けて血が滴り落ちる。
「……くそッ!」
呻きながらも細剣を抜き放ち、迫る巨体に斬りつけた。しかし、魔物の膂力と勢いは人の域を遥かに凌駕している。 斬撃は肉を浅く裂くに留まり、逆に大きな前足で薙ぎ払われてしまい、吹き飛ばされたラディウスの身体は木へと強かに叩きつけられた。
「……がはッ!!ぐ、ぅ……!!」
骨が軋む嫌な感覚。視界が暗転し、肺からは空気と共に血が逆流する。何とか立ち上がろうとした瞬間、今度は二体目が横から飛びかかってきた。 間一髪で身を捻り避けるも、再び強い衝撃で地面を転がり、口の中に砂が入り込んでしまい血と混じり合った。肺がジリジリと焼けつくように苦しい。
(このままでは……!すぐに限界が来る……!)
脳裏をよぎるのは、自警団、冒険者、そして村人達の顔。ここで倒れれば、次に狙われるのは間違いなく彼らだ。
(クレッド達には止められていたが……仕方がない!)
裂けた脇腹に手を当てると、鮮血が掌を濡らした。 次の瞬間、その血液が意思を帯びて刃の形に変わり、幾筋もの鋭利な武器となって宙を走る。
「――喰らえぇッ!!」
血で出来た赤黒い閃光が魔物の体を切り裂き、咆哮が森に轟いた。巨体が一瞬怯んだ隙を突き、ラディウスは膝をつきながらも立ち上がる。 だが、血を失った体は急速に冷え、足は震え、意識は霞んでいく。それでも、自らの武器である細剣を手放すわけにはいかなかった。
幾度も細剣と血の刃による攻撃を繰り返し、ついに一体を仕留めることには成功した。
だが、勝利の余韻に浸る間もなく、残った一体が背後から鉤爪を振り下ろした。
「――ッ!?」
回避は間に合わず、身体が地面へと叩きつけられる。
「あ゛っ……!ぐ、は……ッ!!」
骨が砕けてしまいそうな激痛と共に、口から血がゴポリ…と溢れ出した。胸部が深々と裂かれ、外套がより一層赤黒く染まる。 それでもラディウスは必死に立ち上がろうと腕に力を込めた。だが無情にも魔物は容赦なくその身体を踏みつけ、鉤爪で肉を抉る。
「ぐ……あ゛……ッ!!」
何度も踏みつけられ、次第に意識が遠のいていく。傷口や内臓が激しく揺さぶられ、全身が悲鳴を上げる。
(ここで……意識を失ったら……確実に……喰われる……!)
血に濡れた視界の中で、必死に意識を保ちながら仲間達の顔を思い浮かべる。クレッドやパーティーの皆、果樹園のアイラ、そして村の人々。 守ると誓った大切な存在に、心の中で謝罪する。
(クレッド……アイラ……皆……すまない……)
再び鉤爪が振り上げられるのを朧げに見届けた瞬間、限界を超えた意識が暗闇へと呑み込まれていった。
自警団や冒険者達も、従属していた魔物達としっかり応戦しているようで、こちらに現れたのはS級の魔物のみ。 後少し誘導できれば、ラント村の区域から完全に外れる。そうすれば、クレッド達も気兼ねなく全力で魔物を討伐できるはずだ。
(あと少し……あと少し、村から離すことが出来れば……)
ラディウスは慎重に魔物の後を追いながら、額を流れる汗を乱暴に拭った。 火薬玉を投げる動作自体は単純だが、反復すれば確実に疲労が蓄積していく。魔物に自らの存在がバレないよう気配を消しながら移動している為、脚と火薬玉を投げている肩は鈍く痛み、呼吸は荒い。それでも、あと少し耐え切れば作戦は完了する。
「はぁ……はぁ……。ここまで来たら、大丈夫だろう……!」
わずかに安堵を浮かべ、残り僅かとなった火薬玉に手を伸ばしかけた、その瞬間だった。
――ドゴォンッ!!!
突如空気を震わせる衝撃音が森を貫くと、続けてメキメキッと嫌な音を立てながら木々が無残に押し潰されていった。 ラディウスが反射的にそちらへ視線を向けると、木の陰から巨大な影が姿を現した。
「なっ……こいつ、一体じゃ無かったのか……!?」
──そこには、S級の魔物がもう一体いた。
姿形は同じ、体長三メートルをゆうに超す熊のような魔物。圧倒的な質量を持つ魔物が、地面を抉りながらラディウスに迫って来ていた。 攻撃を避ける為慌てて茂みに身を投げ出すとガサリと音が鳴ってしまい、今まで誘導してきた魔物までもがラディウスの存在に気づいてしまった。
「ッ……!まずい事になった……!」
狭い森の中で、S級の魔物二体に囲まれる最悪の状況。息を呑む暇すらなく、魔物の鉤爪が容赦なく振り下ろされる。
「ぐッ……!うぅ……っ!」
回避したつもりでも、鋭い爪先が脇腹を掠め、熱と痛みが奔った。外套はいとも簡単に破れてしまい、皮膚が裂けて血が滴り落ちる。
「……くそッ!」
呻きながらも細剣を抜き放ち、迫る巨体に斬りつけた。しかし、魔物の膂力と勢いは人の域を遥かに凌駕している。 斬撃は肉を浅く裂くに留まり、逆に大きな前足で薙ぎ払われてしまい、吹き飛ばされたラディウスの身体は木へと強かに叩きつけられた。
「……がはッ!!ぐ、ぅ……!!」
骨が軋む嫌な感覚。視界が暗転し、肺からは空気と共に血が逆流する。何とか立ち上がろうとした瞬間、今度は二体目が横から飛びかかってきた。 間一髪で身を捻り避けるも、再び強い衝撃で地面を転がり、口の中に砂が入り込んでしまい血と混じり合った。肺がジリジリと焼けつくように苦しい。
(このままでは……!すぐに限界が来る……!)
脳裏をよぎるのは、自警団、冒険者、そして村人達の顔。ここで倒れれば、次に狙われるのは間違いなく彼らだ。
(クレッド達には止められていたが……仕方がない!)
裂けた脇腹に手を当てると、鮮血が掌を濡らした。 次の瞬間、その血液が意思を帯びて刃の形に変わり、幾筋もの鋭利な武器となって宙を走る。
「――喰らえぇッ!!」
血で出来た赤黒い閃光が魔物の体を切り裂き、咆哮が森に轟いた。巨体が一瞬怯んだ隙を突き、ラディウスは膝をつきながらも立ち上がる。 だが、血を失った体は急速に冷え、足は震え、意識は霞んでいく。それでも、自らの武器である細剣を手放すわけにはいかなかった。
幾度も細剣と血の刃による攻撃を繰り返し、ついに一体を仕留めることには成功した。
だが、勝利の余韻に浸る間もなく、残った一体が背後から鉤爪を振り下ろした。
「――ッ!?」
回避は間に合わず、身体が地面へと叩きつけられる。
「あ゛っ……!ぐ、は……ッ!!」
骨が砕けてしまいそうな激痛と共に、口から血がゴポリ…と溢れ出した。胸部が深々と裂かれ、外套がより一層赤黒く染まる。 それでもラディウスは必死に立ち上がろうと腕に力を込めた。だが無情にも魔物は容赦なくその身体を踏みつけ、鉤爪で肉を抉る。
「ぐ……あ゛……ッ!!」
何度も踏みつけられ、次第に意識が遠のいていく。傷口や内臓が激しく揺さぶられ、全身が悲鳴を上げる。
(ここで……意識を失ったら……確実に……喰われる……!)
血に濡れた視界の中で、必死に意識を保ちながら仲間達の顔を思い浮かべる。クレッドやパーティーの皆、果樹園のアイラ、そして村の人々。 守ると誓った大切な存在に、心の中で謝罪する。
(クレッド……アイラ……皆……すまない……)
再び鉤爪が振り上げられるのを朧げに見届けた瞬間、限界を超えた意識が暗闇へと呑み込まれていった。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる