7 / 12
第二章 一方、彼らは パーティーメンバーside
6.彼との出会い クレッドside
しおりを挟むクレッドside
彼と出会ったのは、今から約二年前のことだった。 王都から遠く離れた辺境の村。地図にも載らないような小さなその村を、俺たちはたまたま通りかかった。 雨上がりの夕暮れ、湿った土の匂いと茜色の空が混じる静かな道を歩いていた時、ふと脇の古びた納屋から微かに聞こえてきた物音に足を止めた。
──それが、ラディウス・ハイマーとの出会いだった。
誰にも使われていないはずの納屋。 その奥、藁と埃まみれの床に縛られていた彼は、まるで“物”のように扱われていた。 痩せた身体には大小様々な切り傷が刻まれ、血で赤く染まったシャツは既に乾いて皮膚に張り付いていた。 それでも彼は、小さな窓から外をじっと見つめていた。 その瞳に宿る光が、不思議なほどに消えていなかったことを、今でもはっきり覚えている。
声をかけると、彼は驚く様子もなく、ただこちらを見た。 警戒も怯えもない、曇りのない目。だが、そんな姿がかえって異様に見えた。
「……何故、ここから…この状況から逃げない?」
俺がそう尋ねた時、ラディウスはまるで当然のことのように、こう答えたのだ。
「血を流すことは、鮮血魔術の研究には必要なことだろう。」
その言葉に、背筋が凍るような感覚を覚えた。 自分より年上の青年が、まるで当然であるかのように、自らの苦しみを正当化して受け入れている。 彼にとって、“痛み”は生きるための条件で、肉体に受ける“傷”はその代償だった。
後から聞いた話によれば、ラディウスはある日を境に、突然として鮮血魔術の能力を発現させたという。 それを機に、彼の家族──正確には、義父母は、彼の魔術を「実験材料」として扱うようになった。 唯一の例外が、彼の義弟。 まだ幼く親の悪意に染められていないその子だけが、時折ラディウスのいる納屋に向かい、細やかな交流をしていたという。
だが、そのわずかな優しさが彼に希望を与えることはなかった。 そもそも彼は、自分が虐げられることを当然の報いだと思っていた上、絶望すら感じていなかった。
──そんな歪な地獄のような環境から、どうにか彼を助け出した。 傷だらけの身体に簡易の治療を施し、後から納屋に到着したシャルムに頼んで、ラディウスの家族全員へ認識阻害の魔術をかけさせた。
シャルムの魔術は完璧だった。 家族たちはまるで最初からラディウスなど存在しなかったかのように振る舞い、「義弟だけが実の子」と記憶を改ざんされたまま、あっさりと彼を手放した。 こうして、ぼんやりとした表情のままのラディウスを、俺たちは納屋から連れ出したのだった。
──そんな過去があったからこそ。
今でも鮮明に思い出す。
冒険の最中、ラディウスが自らの身体に傷をつけ、魔術の発動と引き換えに血を流す姿を。 そして、戦闘後に貧血で倒れこむ彼を、ハイレンが何度も何度も癒し続ける姿を。
彼が傷つくたび、心の奥が締めつけられた。 鮮血魔術が、彼自身を縛る鎖のように思えてならなかった。
魔物の出現が激しくなってきた今── 戦闘の機会も増え、彼の身体に掛かる負担はさらに重くなる。
だからこそ、俺は決断した。 彼を守るために、戦闘から一時的にでも離れてもらおうと。
……そのつもりだった。
そう、あれはラディウスを守るための判断だったのに。 結果として、彼は俺たちのもとからいなくなってしまった。
──あの時ほど、自分の言葉足らずを呪ったことはない。
今、俺たちは再びギルドに戻り、各地の魔物を討伐する任務を受けている。 ラディウスの捜索は、しばらく後回しにせざるを得ない。
だが、それでも──
彼を見つけ出してみせる。 どれだけ時間がかかっても、どれだけ困難が待ち受けていようとも。
──大切な仲間の一人を、絶対に。
ポケットにしまっていた小さな手紙を指先でそっと撫でる。 その紙の温もりに、確かに宿る彼の存在を感じながら。
俺たちは、魔物討伐のために宿屋を後にした。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる